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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第二章 ワ国編 
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第33話


「コウリョクだ! 屋敷から出て来たぞ! 打ち取れーー!!」


 兵達が切り結ぶ所に現れたコウリョクにスズナミ派の兵士は斬りかかって来る。


「アオイ、お前と俺でこいつらを――」


 タチバナが連携に指示を出している間にジェリダは先頭に立ち、斬りかかって来た兵の刀を杖で受け止める。そして、いつもの様に炎の蛇を形成した。


「焼き尽くせ」


 ジェリダの冷酷な言葉に蛇は兵士に絡みつき、ゴウゴウとその鎧と体を燃やす。


「ぎゃああああああああ、ひ、燃える! 燃える! 体が燃えるぅぅあああああ!!」


 兵士の男は炎に焼かれながら最後の踊りを見せ、やがて黒くなって燃え尽きた。その様子をその場にいたアオイ以外の全員が一歩も動けず、ただ見ていた。まだ幼い少女が何の躊躇いもなく男一人を殺して見せた。その恐怖が兵士達の中で伝播する。


「う、うわああああああああ!」


 恐怖に駆られたスズナミ派の兵士が一人、ジェリダに向かう。ジェリダは冷静にそれを見つめ、地面を軽く杖で突いた。


「ぐっ、あ、がはっ……」


 一瞬の内に土でできた円錐状の針がその兵士の体を貫いていた。首や心臓など、急所を的確に貫いており、すぐに息絶えた。


「何なんだあの子供は。他国の子供はああも強い物なのか……」


 様々な武芸者を見ているはずのタチバナでさえ、ジェリダの躊躇いの無さや的確さに慄いていた。その間にも恐怖で動けなくなったスズナミ派の兵達をジェリダは次々と屠って行く。先ほどと同じ土の針で足を縫い留め、炎で焼き殺す。たった数分の内に、その場でコウリョク側の兵と切り結んでいたスズナミ派の兵士達は十人以上いたが、その全てがジェリダによって始末された。


「行こう」


 アオイの短い言葉にコウリョクもタチバナもようやく現実に戻ってきた。ジェリダが切り開いた道を走る。最後尾にジェリダが付く。


(あの子供は冒険者だと言っていたが、それだけであんなにも強いものなのか? 同じ年の子供でも普通は人を殺す事に抵抗があるだろうに。どんな環境で育てばああなるんだ……)


 多くの死を見て来たジェリダにとって自分が殺すのもその場面を見るのも、たいして感情を動かされるものではない。彼女にとって死は身近なものであり、躊躇いは不要なのだ。それを知らない者達からすればジェリダはただ異常なように見えるのだろう。


 スズナミの屋敷に向かう途中何度か戦闘になった。次はアオイやタチバナ、コウリョクも剣や拳を交えた。その際、これ以上無暗な犠牲を出さないために峰打ちで兵士達を昏倒させる。ジェリダもそれに倣い、手加減スキルを使って気絶させるだけに留める。そうして、ようやくスズナミの屋敷が見えてきた。


 屋敷の周りにコウリョク派の兵はおらず、スズナミ派の兵士が屋敷を固めていた。そして、その兵士の一人が四人の姿を見て顔を険しくした。


「コウリョク派か! 本人も攻めてくるとはいよいよ情報は本当のようだな! かかれ!」


「待て!!!」


 スズナミ派の兵士達が向かって来ようとした所を制止する声が放たれる。その声の主はホオズキだった。


「武器を仕舞え! たかが噂に惑わされるとは馬鹿か貴様らは! 冷静に状況を見て判断をしろ!」


 ホオズキは苛立たし気に兵達を叱責するとタチバナとアオイの元へ駆け寄る。そして、一緒にいたコウリョクを見て、すぐに膝を付く。


「コウリョク様。お怪我はありませんか」


「ああ、大事ない。立ってくれ。今は形式など不要だ」


「はっ」


 ホオズキは立ち上がるとタチバナとアオイに状況を尋ねる。


「あちらでは何があった」


「コウリョク様の屋敷に火が付けられ、助けられたのはコウリョク様だけだ。その使用人達はスズナミ様についた兵によって全員殺されていた……」


「やはりか。こちらにもコウリョク様側の兵が攻めて来た。死傷者は屋敷の一角に集めている。それで、お前達はどうしてここに来たんだ」


「私達はコウリョク様をスズナミ様と共に国外へ避難させるため、お前の転移術を使ってもらいたいんだ。頼めるか」


「なるほど。そういう事か。それなら任された。一先ず中に入ろう」


 ホオズキが踵を返すとスズナミの屋敷を守っている兵達が門を塞ぐように立ち塞がった。ホオズキは低い声で唸る。


「何のつもりだ」


「それはこちらの台詞だ! 敵かもしれぬ相手をみすみすスズナミ様の屋敷の中に入れる訳にはいかない」


「この馬鹿どもが……!」


 ホオズキは苛立たし気に口にすると、指を口に当て、囁くように何かを唱える。するとバタバタと兵士達が倒れた。


「ホオズキ! お前、何をしたんだ!」


 タチバナが慌ててホオズキに詰め寄ると、眉根に皺を寄せたまま不機嫌な声で答える。


「ふん、ただ眠らせただけだ。それと少し記憶を消した。目が覚めた時にはこの数分の出来事を綺麗に忘れているだろうさ。今の内にさっさと中に入れ」


 スタスタと歩き出したホオズキにタチバナは眉間を押さえながらついて行く。この事態だ、綺麗事は言っていられないのは分かっているが、真面目なタチバナからすれば頭の痛い事だろう。


「私達も行こう」


 アオイの声に従い、その後ろをついてスズナミの屋敷に入る。すると、裸足のまま屋敷を飛び出したスズナミがコウリョクに抱き着く。


「姉さま! 姉さま、お怪我はありませんか?」


「あぁ、スズナミ、久しいな。少しは元気になったようで嬉しいよ。私にも私を守ってくれた三人にも怪我はない。大丈夫だ」


 瞳に涙を(たた)えていたスズナミは、姉のコウリョクが優しく頭を撫でた事で一筋の涙を零した。それをコウリョクは優しく指で拭う。


「泣き虫なのはまだ治っていないみたいだな」


「だって……」


 微笑まし気にスズナミの事を見つめるコウリョクに、スズナミは年相応の表情になっていた。多くの大人に囲まれ、自身もそのように振舞うようになっていたスズナミの鎧は、この瞬間だけは脱ぎ捨てられていた。


「兄弟水入らずの所をお邪魔して申し訳ありませんが、ここでは何があるか危険です。一度中にお入りください」


「ああ、そうだな」


 ホオズキの言葉にコウリョクは頷く。もうスズナミも涙を流しはしなかった。再び心に鎧を身に纏う。


「姉うえ、まずはお召し物を何か用意させます。お待ちください」


 スズナミは足裏を払って中に上がると、使用人の女御(にょうご)にコウリョクの服を用意させる。寝ていた所を奇襲され、単衣姿だった。屋敷から逃げ出す際に(うちぎ)だけ羽織って来たが、それではこの国の女性としては恥ずかしい姿だ。ほとんど下着で外にいるのと変わらない。今までそれどころでは無くすっかり失念していたが、剣を扱えてもコウリョクは一国の姫なのだ。


 女御がコウリョクを奥の部屋に連れて行き、着替えさせる。それを待つ間、武将五家の五人はこの事態をどう収拾するか話し合っていた。


「これは完全に俺達の失態だ。私情に流され過ぎた。だが今は悔いている時ではない。すぐにでもこの事態を収めなければ」


「私達は何者かによってこの状況に嵌められた。だけど、その正体も分らな――いや、待って。今、この国に明けの塔という組織の者が入り込んでいるって情報があったわよね……」


 この事態は武将五家が全員で払った隙に起こった内乱だ。国の誰かが手引きして起こした可能性が高い。既に死傷者が出ている。この後の処罰は免れないだろう。そして、ホタルは今の状況を整理していてあることに気が付き顔を青くした。


「ああ、もしや明けの塔が関連しているのか? だが、目的は?」


「私の家の者にホオズキとは違うルートで明けの塔に関して調べさせていたの。その報告に明けの塔は魔物崇拝者が集まっているようだと書かれていたの。そうだとしたら……」


『風見山の狼虎(ろうこ)!』


 四人が口を揃えて口にした風見山の狼虎。それは千年ほど前にこのワ国に封印された上級魔族と言われている。その姿は名前のままを指すわけではない。狼虎という言葉は残忍で欲深い者を指す。その上級魔族はただ自身の快楽のために人々を殺すような魔族だという。そして、その姿は大きく、灰色の毛に覆われた長い牙のある魔族だという。


「今その狼虎の封印が解かれれば、問題はワ国だけでは済まなくなるな……」


 タチバナの呟きに全員が黙り込んでしまう。と、着替えを終えたコウリョクが戻ってきた。


「どうした? 皆顔色が悪いぞ」


「いえ、コウリョク様がお気になさる事ではありません。さ、転移術の準備をします。そこで少しお待ちを」


 ホオズキの使う転移術は転移するものを一度術者が描いた円の中に入る必要がある。室内ならば墨で円を描いてもいいのだが、それではスズナミの屋敷を汚してしまう。ホオズキは庭に出て適当な石で円を描いた。


「ではコウリョク様、スズナミ様、この円の中にお入りください」


 コウリョクとスズナミはホオズキの言う通り円の中に入る。そして、護衛としてホオズキとタチバナも円の中に入る。それを確認してホオズキは呪文を唱えだす。


 その間にも周囲の警戒は怠らない。


「〈我らをかの地へと導き給へ〉」


 ホオズキが最後の一説を唱えた時。銃声が二発分、その場に鳴り響いた。その音が聞こえた時には既に、手遅れだった。


「ああっ!」


「くあぁあ!」


 短い悲鳴。その声はコウリョクとスズナミだった。皆が駆け寄ろうとする。だが、呪文を唱え終わっていたせいで、その姿は一瞬で掻き消えてしまった。


「コウリョク様! スズナミ様!」


 手を伸ばしたアオイはあと一歩たらず、手は空を掴んだ。その場にいた者達は気付いていた。あの一瞬の銃撃で、コウリョクとスズナミの心臓近くから血が飛び散ったのを。ホタルは口元を押さえて青くなる。ジェリダでさえも言葉を紡がず、ただ茫然としていた。


「そんな……そんな……。あ、あの傷ではお二人の命は……」


「あの二人の行き先は!」


「恐らくカラル国かフィルム大国のはずだ。そこならばホオズキの部下が多くいる。だが、私達にはそこへ行く手段がない……」


 ホタルはアオイに行き先を尋ねるも、今の状況では容易に向かう事が出来ない。ジェリダの持つスキルでも向かうことは不可能だ。魔法の中にも転移魔法はある。魔法基礎のレベルがマックスであるジェリダなら、用意に使うことが出来る。


 だが、転移魔法を使うにはある条件がある。それは、転移を使える術者が一度訪れた事のある場所でなければならないのだ。ジェリダはカラル国もフィルム大国もホロルに接する国だ。カラル国ではポイズンラーヴァやホワイトウルフを使役にした。フィルム大国はホロルの町を有する国だ。だが、ホオズキが向かったのは部下のいる場所。ジェリダはその場所を知らない。適当にカラル国とフィルム大国に行ったとしても、探し出さなければならない。


 全ての可能性が閉じられたのだ。


「ふふふ、ふふ、あはははははははははははは!」


 と、今まで黙していたカスミが大きな声で笑いだした。顔を片手で覆い、肩を震わせている。この場に似合わないその態度に、ホタルはカスミを睨む。


「何がおかしいのよ。コウリョク様とスズナミ様のお命が危ういかもしれないのよ!」


「……だからよ。だから私は笑っているの。だって――」


 顔を覆っていたその手を下ろしたカスミの顔は。


「このシナリオを考えたのは私なんだもの!!」


 狂気に歪んでいた。



次は5月13日21時です。

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