第32話
かなり短めですみません!
スズナミが住まう屋敷へと向かったホオズキ、ホタル、カスミはそこで出くわしたコウリョク派の兵士を無力化していた。数名見せしめの意味もあって殺したが、次の天子になるかもしれない者に手を出したのだ。処罰は免れない。
「ひいいぃぃぃぃぃ」
何人かの兵士は三人の実力を見せつけられて走り去る。幸いスズナミの屋敷には火が放たれていなかった。スズナミの屋敷の兵に引き続き屋敷を守ってもらい、三人はスズナミを守るために屋敷の中に通された。
「武将五家の方々。よく来てくださいました。スズナミ様はこちらでお待ちです」
スズナミ付きの女中が深々と頭を下げる。そして、スズナミがいる部屋へと案内される。部屋へ向かうと着替えを終えて座すスズナミの姿があった。その風貌はまだ幼く、だが幼いながらに重たい責務を背負っている。病弱であまり外に出られないスズナミの肌はホタルに近い程白い。
「このような事態になり誠に申し訳ない。これも私の力が臣下達に及ばないせいだ」
スズナミは開口一番通された三人に謝罪を述べた。今回の事態は自分の不徳だと考えているのだ。
「スズナミ様、貴方は何も悪くありませんわ。悪いのは暴走した臣下達です」
「ここは私達が責任を持ってスズナミ様をお守りいたします」
「ありがとう……」
ホオズキの力強い言葉にスズナミは微笑む。だが、平穏な時間はそう長くは続かなかった。
「スズナミを殺せ! 我らにはタチバナ様とアオイ様が付いている! 怯むな!」
「何を言うか! 我らにはホオズキ様にホタル様、カスミ様が味方してくださっている! 皆殺せ!」
「あいつらが何だって……?」
ホオズキは外で飛び交う怒号を聞き、ヒヤリとした。剣戟や弓、怒声が交じり合う。今、外にいる兵士達は何を言ったのか。ホオズキは自分達の失態に今更ながら気が付いた。
「くそっ! やられた! ホタル、カスミ! 俺達はどうやら時期天子争いに利用されたらしい」
「えぇ。そうみたいね。私もさっきの言葉が聞こえていたわ。このままじゃまずい事になるわね」
コウリョク派とスズナミ派だけの争いだったはずが、武将五家が両者の家を守る事でその派閥に加わったと認識されたようだった。このままいけば間違った情報がどんどんと広まりいずれは武将五家の、家の者達までこの内乱に参加する者が現れるかもしれない。そうなれば収拾を付けるのは難しくなる。
そして、上手くこの状況をつくり出した者達は密かに笑っていた。
ジェリダ達のいるコウリョクの屋敷でもスズナミの屋敷と同じことが起きていた。
「アオイ、俺達はまんまと何者かの策に嵌められたみたいだな」
「私達はただコウリョク様を守るために駆け付けただけで派閥に属したと情報が回っている。これはあまりにも早すぎる」
(誰かのシナリオ通りって感じ。でもこの状況じゃ訂正しようにも離れるのは危ない。襲ってくる兵士も数が増えて来てる……)
誰がこの事態を起こすように動いたのかまるで分らない。間違いを正そうにも、増えた兵士を相手にコウリョクを守るので手いっぱいだった。
「私もそなた達と共に戦う! 何でもいいから武器を貸してくれ」
「コウリョク様、あなたは次の天子になるかもしれない身。そのお身体に傷を付けさせる訳にはいきません」
「だが……!」
「いいんじゃない? 武器ぐらい貸しても」
「ジェリダ!?」
「武器を扱えるなら自分の身ぐらい守ってもらった方がこっちの動きもよくなる。そうでしょ」
そう言ってジェリダは鞄の中から短剣を取り出す。これはゴブリンに手渡そうとしていた物だった。量産型の短剣だが、まだ一度も使った事はない。切れ味はいいはずだ。
「すまない、必ずこの短剣は返す」
短剣をジェリダから受け取ったコウリョクは帯の中に鞘を納めると短剣を手に収める。
「お前は……! このお方の身分を分っているのか!」
思わずタチバナは声を荒げた。だが、ジェリダはタチバナを睨みつける。
「力があるのに戦わないなんて馬鹿のすること。力があるなら生き残るために使わないでどうするの。力を得たなら生き残るために使うのが正しいに決まってる。それに身分なんて関係ない」
ジェリダの怒りの籠った視線に、思わずタチバナは口を噤む。
「とにかく、この場で揉めていても仕方がない。コウリョク様を何処か安全な所にお連れしなくては」
アオイは冷静に言葉を発する。この状況下で安全な所はあまりない。だが、国外なら別だ。
「コウリョク様を一度スズナミ様の屋敷にお連れして、ホオズキに転移を使って国外に避難して貰うのはどうだ」
タチバナの提案にアオイは頷く。今はそうする以外にないだろう。
「コウリョク様、それでよろしいですか」
「構わぬ。私はこの騒動にスズナミの意思はないと思っている。あの子が私を害するなど思うはずがない」
「では、外の兵を突破するために走ります」
アオイを先頭に四人は走り出す。コウリョクの今の服では塀を超える事は難しい。そんな事をしている間に攻撃をされれば危険だ。ここは正面から堂々と兵士達を突破する事にした。
◆◆◆
その頃、内乱の状況はどんどん悪化していた。ホオズキの懸念した通り、武将五家の家の者達がこの内乱に加わり出したのだ。互いの家同士で争いが起き、怪我人も出て来ていた。これで死者を出そうものなら、後々に遺恨を残す事になるだろう。
「広まり出した火は徐々にこの国を飲み込んでいく……。こうも簡単に事が進むとは思いませんでした」
そう呟いた男は高みの見物とばかりに、小高い丘の上から火の手の上がるワ国の城下町を見下ろしていた。彼の足元では内乱によって争う人々がいる。怒声、剣戟、悲鳴それぞれが怨嗟のように煙と共に立ち昇る。
男は明けの塔幹部であるフィリップ・クレイン。優れた銃士の彼は背に二挺の美しい装飾の施されたライフル銃を背負っている。彼の容姿はとても色気があり、言葉使いも丁寧だ。微笑まれれば十中八九女性を落とす事ができる、まるで紳士のような彼は、今。燃え、争う人々を見ながら悪魔のような笑みを浮かべていた。
次は5月10日21時です。




