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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第二章 ワ国編 
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第31話


 明け方、ジェリダはだんだんと近づいて来る複数の気配に気が付いて目を覚ました。アオイやルベルは気が付いていないのか、家の中は静かだ。ふと、気配が家の近くで止まる。


 窓の外から見れるかと覗いてみるも、姿は見えない。しかたなくジェリダはベッドから起きると、舌に様子を見に行くことにした。その間にも気配は近づいてくる。庭の近くまで来たようだ。ホワイトウルフが唸る声が聞こえ、急いで扉を開けると、ホワイトウルフへと武器を構える男女がいた。


「早朝から何の用? 泥棒?」


 ジェリダが不機嫌丸出しの声と態度でそう言うと、剃髪の男、タチバナが前に出た。


「早朝からこちらに伺った失礼は詫びよう。だが、我らは友人を探しに、いや、迎えに来た」


 詫びると口にしているものの、そこにいる四人とも隙が無い。いつでも攻撃に対応できるような体制を取っている。


「この家にアオイって奴がいるだろ。そいつを出して欲しい」


 タチバナの後ろにいたホオズキが口を挟む。


(アオイの故郷の人達? でも証拠がない。またあのドロテオと繋がりがあるならここで始末するのがいいと思うんだけど)


「おい、どうなんだよ」


「ホオズキ、お前は黙っていろ。話しが進まない」


「あなた達が探しているアオイっていう子がここにいるとして、あなた達はどういう関係なのか証明できる?」


「だから! アオイがここにいるのは分かってるんだよ! アオイを出して話せば知り合いだと分る!」


 ホオズキが堪えきれなくなって大声を出す。ジェリダは眉根を寄せる。その不機嫌さがホワイトウルフ達に伝わり、吠えだした。


「どうしたんだ? 何か――」


『アオイ!』


 騒々しさに目を覚ましてしまったアオイは様子を見るためドアを開けた。その姿と声を聞いた瞬間、ジェリダの目の前にいる四人は揃ってアオイの名を呼んだ。そして、呼ばれたアオイはここにいるはずのない者達の姿を見て目を見開く。


「な……なんでタチバナやホオズキ、カスミもホタルもここにいるんだ。いや、国の、天子様の守護は……!」


「お前が攫われたと聞き、情報を集めていた。そして、ようやくこの場所にたどり着いたんだ」


「アオイ! 無事で本当によかった。さあ、帰りましょう? 私達と一緒に」


 まだ戸惑っているアオイにタチバナとカスミが声を掛ける。その様子を見守るジェリダだが、警戒は解いていない。


「アオイ、あの人達は本当にあなたの友人なの? またあなたを攫いに来たのかも」


「何だとこのガキ!」


「私達の姿を見て名前を呼んだ。それだけで証拠となるのでは?」


「そんな物で信用できるわけ無いじゃない。馬鹿なの?」


 ジェリダは完全に冷め切った言葉を投げる。空気が一瞬にして張り詰める。


「ま、待ってくれジェリダ。彼らは、その。本当に私の知り合いだ。だから、そんなに殺気立たないでくれ。頼む、彼らと話しをさせてくれ」


「……分かった。だけど、家の中には入れさせない。この場で話し合って」


「了解した」


 アオイは一歩、二歩と四人の元へと歩み寄った。ジェリダは離れてはいるものの、いつでも魔法が使えるように杖を握りしめる。


「アオイ…本当に、本当に生きててよかった……」


 四人の元へアオイが行くと、カスミはぽろぽろと涙を零した。


「……みんな、元気そうでよかった」


「それはこっちのセリフだ馬鹿が! なぜ俺達に連絡の一つもないんだ。まさかあのガキがお前を攫ったのか!?」


「いや、私を攫った男は捕まった。あのジェリダという子は、逆に私を助けてくれたんだ」


「ならどうして帰って来ないの。ここは貴女のいる場所じゃないでしょ」

 四人がそれぞれの心配の仕方をしていた。涙を流したり怒ったり。安堵の表情を浮かべていたり。だが、アオイの表情はどこか思わしくない。困っているような、思い詰めているような表情だった。


「私は、自分でここにいたいと思ったんだ。私は武将五家に相応しくない。ただ家の中で実力があるのが私だった、ただそれだけだ。だが、一族を率いるのは私には向いていないんだ。私よりも弟のカズミの方がよっぽど適任だ」


 アオイはその場で初めて自身の気持ちを吐露した。幼い頃から当主となる事を約束し、実現した。だが、アオイは選ばれてよりずっと、自分は当主に向いていないと考えていたのだ。


「私はただ剣を少し上手く扱えるだけだ。人望などを集めるには向かない。先代も先々代も一族の物に厚く慕われていた。だが、私はこの不愛想さだ。人望など集まらない。それでは組織の長としては駄目なんだ。だから、私は攫われたということにして、この場所で冒険者をしながら暮らそう、そう考えたんだ」


 アオイが話し終わっても、誰も何も言えなかった。こんなに近くにいたのに、その本心さえ気が付かなかった。友が苦しんでいたにもかかわらず、一切分からなかった。


それがただ、不甲斐ない。


「でも、でも……。私達に連絡や相談をしてくれてもよかったんじゃ……」


「そうすれば、お前達は引き留めようと必死になるだろう? 私はもう、武将五家に縛られたくないんだ」


 カスミが微かな可能性に縋ろうとするも、あっけなく振りほどかれた。そんな時、一羽の鳥がホオズキの肩に降り立った。その足には小さな紙が括りつけられている。


「待て、俺の部下から知らせが届いた。内容は――は!?」


「どうした、ホオズキ」


 ホオズキは鳥の足に付けられていた手紙を読んで大きな声を上げた。そして表情を青くする。


「スズナミ様派の奴らが動き出した。数時間前にコウリョク様の屋敷に兵を送り、市民を巻き込んだ内乱が起きているらしい……」


「それは本当なの!? 私達がいない今を狙った…?」


「考えるのは後だ! 今から俺が描く円の中に入れ! お前らは自分の翼全力で動かして戻れ!」


 連れて来ていた部下に素早く指示を飛ばす。そしてホオズキは近くにあった木の枝で大きな円を描きだす。その中にタチバナとカスミ、ホタルが入る。


「アオイ! お前も来い! 今は家でしてる場合じゃねえだろ!」


 躊躇っていたアオイだが、事態の重大さに頷いて円の中に入る。武器は数日前に打って貰ったばかりの刀を携えている。ちらりとアオイがジェリダの方を向くと、ルベルと何か揉めていた。流石にルベルも起きてきたようだ。だが、その表情は珍しく怒っていて、ジェリダに何か言っているようだった。


「術であの屋敷に転移する。転移後に魔術酔いが少しあるかもしれんが、そこは堪えろ。術を発動するぞ!」


 ホオズキも円の中に入り、呪文を唱えだした。すると円が青く光り出し、幾重にも陣が形成される。と、ルベルの大声が聞こえた。


「だから駄目ですって……あ! ジェリダ様!」


 ジェリダはルベルの制止を振り切り、アオイ達が入っている陣の中に飛び込んだ。


「え!? ジェリダ! 何を……!」


「私も付いて行く。アオイに何かあったら大変だもの」


「〈我らをかの地へと導き給へ〉!」


 ホオズキの唱える転移魔法の最後の一説が唱え終わった瞬間。陣の中にいた六人は霧のように姿が消えた。


 その場に取り残されてしまったルベルはへなへなとその場に座り込んだ。


「ジェリダ様…………」




 一瞬の浮遊感の後、ジェリダが目を開ければそこは屋敷の一室だった。


「はあぁ!? 何でお前がここに!」


 気付いていなかったのか、ホオズキは驚愕の声を上げた。その他の者はジェリダがギリギリに陣の中へ入って来たのを目撃していた。驚きの声はないが、少し怒っているようだった。


「これから私達が向かうのは戦の中。貴女のような子供が遊びに来る場所じゃないわ」


「あのね、私これでも冒険者やってるの。そこらの子供と一緒にしないでくれる?」


 冷たく言ったホタルの言葉に特に堪えた様子もなく、平然と言い返す。しばし両者は睨み合う。


「ついて来たのはもう仕方がない。それよりもコウリョク様のお命をお守りせねば。それとスズナミ様にも何かあってはならない。二手に分かれてお守りするぞ。

 コウリョク様の元へは俺とアオイ、お前はジェリダと言ったか。一緒に来い。スズナミ様の元へはホオズキ、ホタル、カスミが行け」


「おい待て! そのガキが信用できるかも分からないんだぞ! 連れて行くのは危険すぎる!」


「私もあんたたちの事信用してないから大丈夫。寧ろお互い監視出来ていいでしょ」


「そういう事だ。この割り当ての方が前衛後衛のバランスも取れている。今は一刻の時間も惜しい。行くぞ」


 タチバナは庭に出てそのまま塀を飛び越える。これで付いてこれないならジェリダを置いて行こうというのだろう。


(上等……!)


 タチバナとアオイに続いてジェリダも塀を軽々と飛び越え、その後を追って行った。


「くそ、あのガキ。あれで飛べなかったら笑い飛ばすつもりだったのに…!」


「くだらない事言ってないで、私達も行くわよ」


 子供じみた対抗心を燃やすホオズキに釘を刺し、ホタルも駆けだす。塀を飛び越え、タチバナ達三人が向かった方向とは逆へ向かう。恐らくスズナミの意思で内乱が起こった訳では無いはず。スズナミ側の派閥に属する者達が行った事だろう。


 町を走ってスズナミの屋敷へ向かう途中、白んで来た空に夕焼けのような火の手が上がっているのが確認できる。有力な貴族の屋敷にも兵が送られたのだろう。かなりの屋敷に火が放たれている。あまりの騒ぎに町民達も何事かと外に出てきている。


「こんな事をしてもスズナミ様の方が不利になるとは考えないのかね」


 ホオズキが空を飛びながら周囲の様子を窺う。早くこの騒動を収めなければ町民達へも被害が出るだろう。


「ここまでよく持った方なんじゃない? ずっと均衡は危うい物だっんだし」


 ホタルの横を並走しながらカスミが答える。


「小さなきっかけがあればすぐに切れる程、張り詰めた糸だったんだよ」


 カスミはどこか、自嘲気味にそう呟いた。


 一方、ジェリダ達が向かった先では剣を交えるような甲高い音と怒号とが徐々に近づいてきていた。前方に燃える屋敷が見えてきた。


「あそこだ!」


 真っ直ぐに屋敷へと走る。周りは鎧に武装した者達が剣を合わせている。赤い胴を付けたのがコウリョク派、青い胴を付けたのがスズナミ派だ。


「やああぁぁああ!」


  三人に気が付いたスズナミ派の兵士が、刀を振りかぶってタチバナへ襲い掛かる。


「ふんっ!」


 振り下ろされた刀を躱し、兵士の鳩尾へ深く拳をめり込み、胴がバキバキと割れてしまう。兵士は言葉もなく白目を剥いてくず折れる。


「スズナミ様派の兵士を捕らえろ! 降伏するなら今の内だ! 抵抗するならば切って捨てろ!」


『はい!!』


 コウリョク派の兵士達に指示を出すと、切り結ぶ兵士達の合間を縫って屋敷の中へと入る。屋敷の中には火の手が回り、何人か切り殺された兵士の死体が転がっている。その死体にも火が移り、人の燃える匂いが漂っていた。


(この匂い久々だな……)


 転がる死体を平然と見つめながらジェリダは二人の後に続く。広い屋敷をコウリョクを探して走り回る。


「コウリョク様! どこにおいでですか! コウリョク様!」


 アオイが声を張り上げるも返事がない。だが、ジェリダの耳はどこかで切り結ぶ剣の音を捉えた。


「こっち! こっちに誰かいる!」


 ジェリダは庭に飛び出すと駆ける。他の場所からは人の気配もない。恐らくコウリョクがいるのはその音のする所だ。アオイはジェリダを信じて後を追う。


「おい! ったく、勝手に進むなよ……!」


 タチバナは悪態を吐きつつも同じ方向へと駆け出した。




 ジェリダが掛けた先には単衣姿の女が小刀を手に、三人の兵と対峙していた。


「くっ…! 何故! 何故私の屋敷に火を放ったのです!」


「それは、あなたがよくお分かりでしょう!」


「コウリョク様!」


 振りかぶられた刀を受け止めたのは、アオイの黒い刀身の刀だった。この刀の刀身に使われているのは黒紅石と言われるものだ。鋼よりも頑丈で刀として打てば、黒の中に赤色の混じる美しい輝きを見せる。初めて使うその刀は、しっかりと兵士の剣を受け止めていた。


「コウリョク様のお命狙ったその罪、この場で償ってもらおう!」


 ぶわりと、全身の毛を逆立てたアオイは、兵士の剣を素早く押し返す。


「うわ――」


 体勢を崩した所をアオイは容赦なく斬りつけた。その間僅か二秒。気が付けば切られた男の首と両手は胴体から離れていた。血しぶきが天井まで飛び、仲間の男二人にも飛び散る。


「ひ、ひいいいぃぃぃ」


「た、助け……」


 慄く二人の兵士の声に耳を貸さず、一瞬でアオイは切りかかり、さっきの男同様に首を落としてしまった。


 ぱたり、ぱたりと天井から、アオイの髪から血が滴る。タチバナとジェリダはただ見ているだけだった。一分もかからない内に死体が三体出来上がってしまった。


 剣を下げ、死体を見下ろすアオイの妖艶な姿にその場にいた全員が呆けたように見つめた。




次は5月8日21時更新です。

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