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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第二章 ワ国編 
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第30話


 ジェリダが冒険者ギルドでジェニオが出てくるのを待つこと二十分。ようやくジェニオはギルド長室から出て来た。素早く立ち上がったジェリダはジェニオに声を掛ける。


「ジェニオ……さん」


 ジェリダはその時思わず立ち止まる。それはジェニオから感じるオーラに気圧されたからだった。今にも人を殺してしまうような、鋭い殺気。それを感じたのは他の冒険者も同じのようで、冒険者ギルド内がシン…、と静まる。だが、ジェリダの声に反応したジェニオは振り返ってくれた。


「どうしたの? ジェリダちゃん」


 もう、振り返った時にはその殺気は欠片も感じなかった。ジェリダは知らずホッと息を吐き出す。他の冒険者達も呼吸を深くする。


「あ、あの。少しあなたに話しが合って。どこか、人があまりいない所でしたい話しなのですが」


「それならここでいいよ。僕が結界を張れば周りに話しは聞こえない。読唇術ができる者が見たとしても、でたらめに見えるようにするから」


「ここでいいなら。それで私は構いません」


 という事で、ジェリダはさっきまで座っていたテーブルでジェニオと話しをする事にした。


「〈フェイク・カバー〉」


 ジェニオが呪文を唱えれば、二人の周りを半円形の魔力で編んだ結界が覆う。


「さて、僕に話しって?」


「私に、いえ、私のしようとしている事に手を貸して欲しいんです」


 ジェリダはこれからしようとしている商売の内容を説明した。自分の目的も話せる所まで話した。全てを聞き終わったジェニオは一つ頷いた。


「いいよ。手を貸そう。錬金術ギルドと冒険者ギルドが手を組むなんて今まであり得なかった事だ。君がきっかけで両者の関係が良くなる事を期待するよ」


「そんな簡単に……」


「そうかい? でも、一般の人々にもポーションが出回るのは素晴らしい事だ。この町でも貧しさで死ぬ人々は沢山いる。ただ、誰も気づかなかったり、知らない振りをしてるだけで」


 大きな町であろうと、光があるなら影もある。普段ジェリダ達が歩いているのは光の部分。だが、ひとたび道を逸れれば奴隷市のような場所、影側に踏み込む事になる。


「ポーションの材料は知ってるから、集めた材料を届けるよ。どこに届ければいい?」


「なら錬金術ギルドに届けておいてください。でも、どうやって材料を集めるんですか?」


「それは秘密だよ」


 人差し指を口に添え、薄く微笑む。普通の女子ならばその仕草だけで恋に落ちるのだろうが、ジェリダは特に反応は示さず、そうですか、とだけ返した。


「あれ、君はきゃーとか言わないんだね」


「言って何になるんですか」


 ジェリダは冷めた視線をジェニオに投げる。大人しい好青年だと思っていたが、このような一面もあるようだ。そう思うと、ジェリダの中のジェニオに対する諸々の感情が降下した。


「あはは、確かにそうだね。あ、そろそろ時間だ。僕は次の用事があるから失礼するね。材料は毎朝届けるから。それじゃ」


 ジェニオは結界を解くと席を立った。ジェリダはジェニオが去るのを見送り、ジェリダは久々にトールの森に向かう事にした。


 トールの森でもゴブリンは多く生息している。ジェリダは出会ったゴブリンを手あたり次第に使役に下す。その過程で使役語スキルのレベルが4に上がり、使役できる数も上がった。


 ジェリダはゴブリンの数を合計五十体に増やした。トールの森のゴブリンにはその場での魔石集めを命令する。今回はチームなどにせず、単体で魔石の回収をさせてみる事にした。


 その後は家に帰る事にした。まだ明るいが、ルベルとアオイの庭の手伝いでもしようと思ったのだ。トールの森からいえまでは近い。ホワイトウルフに乗って走ればものの五分程で帰り着いた。


「ただいま」


「おかえりなさいませ、ジェリダ様。どうでしたか、錬金術ギルドのレントさんの反応は」


「たった一週間でこれだけ集めたのか! って驚いてたよ。毎日薬草集めしてくれてありがとう」


「いいえ。ジェリダ様の頼みですから。庭に植えたベイ草も根付いてきましたし。もう一週間ほどすれば定期的に摘む事ができますよ」


「そう、それは良かった。あれ、アオイは?」


「中で夕飯の準備をしてますよ。今日は少し手の込んだ料理を作ってくれるみたいですよ」


 最近のアオイは冒険者ギルドのルミルに料理を教わりに言っているらしく、様々な料理を作るようになっていた。そのどれもが美味しく、華やかだった。今日もルミルから教わったレシピを試すのだろう。


「じゃあ料理ができるまで手伝うよ」


 ジェリダは腕をまくってルベルの隣にしゃがみ込む。つい最近まで庭は荒れ放題、伸び放題だったが、今は綺麗に整えられ、ハーブと薬草を中心に庭に植えている。庭の半分ほどの面積を使ってベイ草を植えているが、小さな白い花を年中咲かせるベイ草は綺麗だ。


 ホワイトウルフ達は体が大きいので、庭の外を少し綺麗に草を抜き、そこで過ごさせている。最近は晴ればかりで問題ないが、そろそろ小屋でも作ってあげたいところだ。


 泥で手を汚し、ハーブや薬草の植え替えや採取をしているとアオイが夕飯の支度ができたと呼びに来た。それに二人は返事をし、道具を片付けて家の中に戻って行った。


 その時、一羽の黒い鳥が空へ舞い上がった。




◆◇◆


 夜。蝋燭の元、読書をしていたホオズキは、どたどたと騒々しい足音に眉をひそめた。その足音は次第に近づき、ホオズキの部屋に飛び込んで来る。足音の主はホオズキの従者であるタケマルという青年だった。グレーの翼を背に生やしたまま襖を開け、額には汗を掻いている。読書を邪魔されたホオズキはタケマルを睨む。だが、タケマルはそれどころではなかった。


「ホオズキ様! ただいまアオイ様を見つけたとの情報が入りました!」


「何だと! それで、どこにいた。生きているのか」


「はい。見つかった場所はここより東にありますステリド国、ホロルという町の近くです。お命に別状はなく、なにやらエルフの青年と人間の少女の三人で暮らしている様です」


「暮らしている、だと……?」


 ホオズキは声のトーンを落とした。ヒヤリとした空気がタケマルの背を這う。だが、報告を止める訳にはいかない。


「は、はい。アオイ様は何の抵抗も見せるような事も無く、その二人のエルフと人間と親しくしているとの事で――」


「今すぐ武将五家を集めろ!」


「はっ!」


 ダン! とホオズキは文机を殴った。タケマルは思わず体を震わすが、急いで立ち上がり、空へと舞い上がった。一人部屋に残ったホオズキはまだ怒りが体内を渦巻いていた。


「何を考えているのだあいつは!」


 ホオズキはアオイに対する見損なったという感情から、今の怒りが生まれているのを感じていた。


 ホオズキは他に控えていた使用人に数名、力と体力のある者を連れて来いと命じる。そして自身の翼を出すと、高く空へ舞い上がる。一つの羽ばたきで土や葉が舞い上がった。怒りの感情に身を任せ、力強く翼を動かす。ホオズキは一足先武将五家が集まる屋敷へと向かった。


 各家に召集が掛かり、十分程で全員が屋敷に揃った。一番に口を開いたのはカスミだった。


「それでホオズキ! アオイは、アオイはどこにいるの!?」


「つい先ほど俺の部下から報告があった。ステリド国、その近くにあるホロル近くにて発見した。だが、一つ問題があってな。アオイはそこで監禁されるでもなく、エルフの男と人間の女と共に暮らしている(・・・・・・)らしい」


「なっ……」


「それは本当か、ホオズキ」


 カスミとタチバナが驚きの声を上げる。


「信じたくないのは俺も同じだ。だが、俺の部下が俺に嘘を言うはずもない。それに、俺の使い魔にもそちらへと向かわせた。しばらくすれば報告が来るだろうさ」


「どうして、アオイは攫われたんじゃなかったの……。そんな状況なら何で帰ってこようとしないの……」


 カスミは余程ショックだったのか、涙を流す。誰もが驚き混乱する中、ホタルだけが静かに座していた。いつもなら気にかからないその行動は、今のホオズキにとって気に障った。思わず怒りをホタルへと向けてしまう。


「おい、ホタル。お前は何で何の反応もないんだ。まさか、お前は知ってたんじゃないのか」


 矛先を向けられたホタルはつ、とホオズキに視線を流す。その瞳は冬の夜のように冷え冷えとしていた。


「知っていたか、ですって? 知っていたらこんなにも怒りに震える事はなかったわ。貴方達は私のこの怒りの意味が分かるでしょう? 現にホオズキ、貴方も怒っているんでしょう」


 ホタルは無関心で黙っていたのではない。怒りを堪えるために黙っていたのだ。だが、もうその堰は決壊した。押さえていた感情が溢れる。


「私達は誇りある武将五家の当主よ! 幼き頃から厳しい修練を修め、実力を認められてこの座にいる。なのに! あの子は、私達の約束を破ったのよ! 怒らない訳がないでしょ!」


 この場に居る全員が、ホタルがここまで感情的になるのを見るのは初めてだった。大抵の事に興味を示さないホタルが感情的になっている。誰もが唖然とし、その瞳から零れた一滴の涙に視線を吸い寄せられた。いつも達観した意見や行動をするホタルが、年相応の表情で泣いている。だが、その涙の訳はその場にいる誰もが承知していた。


 彼らは幼き頃から互いを知っている仲だ。歳も一、二歳ほどしか変わらないため、よく修練が終わると集まり、他愛ない事を話していた。その内、彼らは一つのある約束をした。


 『必ずここにいる五人で当主になろう』と。彼らはまだ幼く、実力も兄や姉に劣っていた。だが、その約束を胸にそれぞれは厳しい地獄のような修練を耐え、実力も家の中で抜きんでるようになった。そして、彼らは幼き約束通り当主となった。


 それが今、アオイはこれほどまで悲しんでいる者達のいる事に気が付かず、遠い東の国で暮らしている。攫われたと聞いていたにもかかわらず、安穏と。


「……行こうよ。アオイを連れ戻しに。もしかしたら操られているのかもしれないし」


「だが、我ら武将五家が今、この国を離れる訳には……」


「なら貴方はここに残ればいいわ。私もカスミと共に行く」


「俺も行こう。あの女に訳を聞くまでこの怒りは収まらんだろうからな」


「はぁ……。お前達がいくなら俺も行かねばならんではないか。誰がお前たちの暴走を止めるんだ。だが、数日もこの国を出る訳にはいかん。明日の夜には戻るぞ」


 一番年長のタチバナは戻る期限を定める。今のワ国はとても不安定だ。数日も開ける事はできない。そこで鳥獣人であるホオズキがある提案をした。


「俺の部下達にお前達を今から運ばせれば、明け方頃には着くだろう」


「飛んでいくつもりか?」


「その方が早いだろう。それぞれ武器は持って来ているんだろ」


「ああ」


「もちろん」


「早くいきましょう」


 それぞれの家が得意とする武器を手にする。ホオズキは一つ頷くと近くに連れて来ていた部下を呼ぶ。計六名がそれぞれを籠に入れて飛ぶために呼ばれた。翼も大きく、力のある者達ばかりだ。


「急ぐぞ」


 短くそれだけ告げてホオズキは空に飛び立つ。その後ろを追う形でその部下が他の三人を籠に入れて飛ぶ。


 この若い当主達の行動が正しい物だったのか。それは後になってみなくては分からない。



次は5月7日21時に更新です。

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