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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第一章 新米冒険者編
3/88

第3話


(衣食住の確保は出来た。あとは何処かのパーティーに入れて貰えたらいいんだけど、こんな子供入れる所なんてないだろうし、何より私が信頼できない。それに……)


 ジェリダは先ほどのギルドで受付嬢のリリィがジェリダの冒険者カードの情報を見ようとしていたのに気が付いていた。


(魔法スキルが上がったからかな、何か魔力が集まったり流れる所が見えるのよね。さっきのリリィって人の目にも魔力が集まってたし。でも、多分情報は見られてないはず)


 魔法の知識の中にスキルレベルが高い方が低いスキルレベルの者の技を跳ね返すというのがあった。その知識は恐らくほかのスキルでも同様だと思われた。


(今後もう少しお金を稼ぐにしても魔物との戦闘は必要になってくるから、魔法だけじゃ戦闘面で限りがあるだろうし。どうにか前衛が欲しいところなんだけど……)


 選べる職業がどれも後衛職だったためジェリダはアタッカーとして前衛職と組みたいところだった。今受けたクエストは薬草集めのため戦闘になることはないと思うが、後々のことを考えると戦闘員は欲しい。ジェリダがどうしようかと悩みながら歩いていると、いつの間にか少し薄暗い道へと入って来ていた。


「あれ、私どこに来ちゃったんだろう」


 人の往来は多いものの、皆一様に顔を隠すようにフードを被っていたり俯いている。ここは何処かと落ち着いて周りを見ると檻に入れられた人や獣人が多くいた。


(もしかしてここ、奴隷売買の場所?)


 奴隷売買はこの国では普通に認められているものだった。金持ちの家には奴隷は必ずいるものだ。労働力として買われたり、中には人体実験の為に買っていく者や性的な行為のために買う者の少なくないという。今のジェリダも一つ間違って入ればこの檻の中にいたかもしれない。


(こんな所、長くいたくない……)


 ジェリダは不快な気分を早く消し去りたくて足早にその場を離れようとした。すると目の前に立ちはだかる様にして誰かが行く手を塞いだ。ジェリダが上へ視線をやると綺麗な身なりをした壮年の男が見下ろしてきていた。


「おやおや、こんな場所に僕一人で買い物かい?」


 その男はからかう様な口調で話しかけてきた。だが、男が言った『僕』という言葉にジェリダは疑問符を浮かべる。


(こいつ私のことを男だと思ってる? 節穴かよ、こいつの目は。勘違いさせておいた方がマシかな。女だと分かって奴隷にされても嫌だし)


 孤児で、しかも女となれば奴隷として売られたり、攫われる事も多い。こんな危険な場所では男だと偽っている方が良いとジェリダは判断した。


「僕はただの迷子ですよ。すぐに帰ります」


「そんなこと言わないで、どうです? 奴隷を買いませんか? 今ならお安くお売りできる奴隷がいるんですよ。さあ、さあ、さあ」


「ちょっと、勝手に――」


 男はどうやら奴隷商の様で、ジェリダの話しが聞こえないという様に無理やり奴隷のいる小屋の中へと背中を押す。ジェリダはずるずると押されて小屋の中に入ってしまった。


 小屋の中は薄暗く、大きな檻が四つあった。その中に前までジェリダが来ていたぼろ切れ同然の服を着せられ、男女が身動きが取れない程押し込まれていた。鑑定を使うと種族は檻ごとに分けられていて、亜人や獣人、人間、エルフ、ハーフエルフなどがいた。


 ジェリダの服装を見ても金持ちには見えない筈だが、奴隷商の男は今までの勘でジェリダが奴隷が買えるほどの金を持っていると察したのか、小屋の中へと連れて来た。


「どうです? まだ若い奴隷が多いでしょう? 今ならお安くお売りしますよ。夜伽の相手としてもいいし、労働力としてもいい、はたまた魔物をおびき寄せる餌や囮にするという手もございますよ?」


 その男の口から出てくる言葉はどれも吐き気がした。奴隷を物として見ている言葉だからだ。露骨にジェリダは眉をしかめる。さっさとここを出て行こう。そう足を踏み出そうとした時、エルフの奴隷の中に一人異質な者がいた。


 ジェリダはその奴隷に鑑定スキルを使った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前 なし

職業 奴隷

種族 エルフ

年齢 15歳

称号 異端児

LV 2

HP 13

MP 15

《スキル》

弓術 LV 2

剣術 LV 1

槍術 LV 1

《固有スキル》

緑の恩恵 LV 1

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(スキルに剣術を持ってる! しかも弓術や槍術まで! HPが低いのはこの環境で弱ってるからか? エルフだから万全の状態ならMPが高いはず。もう少しレベルを上げたら前衛に行けるかもしれない。ん? 称号に異端児ってついてる)


 ジェリダが見つけたそのエルフはほかの者より白い肌にジェリダよりも濃い金の髪を持つ少年だった。しかし、周りのエルフの瞳は皆一様に緑色をしているにも関わらず、その少年だけは赤色をしていた。ハーフエルフの檻を見てもそんな色の瞳を持つ者はいない。その目が異端児の称号の理由だろう。


(それに固有スキルまで持ってる。緑の恩恵ってなんだろ)


 ジェリダは緑の恩恵について視てみる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《緑の恩恵》

 自然に愛されている証。自然系のスキルが伸びやすく、植物の毒に対する耐性や採取で質の良い物を手に入れやすい。

 *デメリットとして炎系の魔法や技に弱くなる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(これはなかなかいいんじゃないの?)


 エルフの少年はジェリダの視線に気が付いたのか赤い目を動かすと、じっとジェリダを見てきた。そして、他のエルフを押しのける様に前に出て、ジェリダへ格子越しに手を伸ばしてきた。


「―――っ、――――、――――!」


 少年ははくはくと口を動かして何かを訴えている。首を見ると何やら首輪の様な物が巻かれている。そこに魔力が働いているのがジェリダには分かった。恐らく、それは奴隷が自由に喋れないようにするための魔道具だろう。


 ジェリダは少年のその瞳を見て心の中で口角を上げた。


「ねえ、この赤い目のエルフの子はいくら?」


「おや、これは美しい容姿をしていますが少年ですよ? もしかしてそちらの趣味がおありで?」


「そんなんじゃない。いいから、いくらなんだ」


「そのエルフ、捕まえる際に足を射られていましてね、歩くのが不自由ですよ? まあ、だから安くお売りできるんですがね。女のエルフは性奴隷として人気が高いのですが、男のエルフはそう人気がないんですよ。少し変わり種で珍しいですが、まあそうですね、銀貨五十いや三十でどうでしょう」


「銀貨二十。足の怪我は治せないのか?」


「神官団の教会へ連れて行けば治してもらえるでしょうが、金貨十枚は掛かると思いますよ? 大きな怪我を治すには回復魔法のレベルが8はないと、まずくっつけたり、駄目になった腱の回復なんかはできないんですよ。

 でも、冒険者の中にもそんな回復魔法を使えるのは限られてますし。何より、この町にそんな冒険者がいませんからねぇ」


(回復魔法のレベルが8っていうのは冒険者の中でも数が少ない? 現に私のスキルレベル8なんだけど。もしかしてこれってかなりすごい事?)


 ジェリダはスキルについてほとんど何も知らない。Dランク冒険者のスキルレベルの平均がどれほどなのかも知らない。だから今の自分がどれほど飛び抜けているのか分かっていなかった。


(これは軽々しく喋っていい情報じゃないはず。ここは無難にやり過ごそう)


「ま、怪我をしてても後でどうにでもできる。で、結局いくらなんだ」


「では間を取って銀貨二十五枚はいかがでしょう?」


「それでいい」


 懐が少し寂しくなってしまうが、まだ金貨は二枚残っている。当分はどうにかなるだろう。


「ありがとうございます。では、こちらでお手続きの方をお願いします。おい、その奴隷を連れて来い」


 奴隷商の男は後ろに控えていた屈強な男に指示を出してエルフの少年を檻から連れ出す。暴れて逃げないようにと手に枷を嵌めて連れてくる。


 小屋の奥に通されて奴隷についての説明を受ける。


「奴隷には購入された方の印としてこちらが呪印を施させてもらいます。この呪印は――」


「そんなのいらない。それは飛ばしてさっさと手続きを終わらせて」


「ですが、お客様、この呪印がございませんとお客様に奴隷が向かって来た時などに止める事が出来なくなりますよ?」


「その時はその時で対処する。いいからさっさと手続きをしてくれ」


「……畏まりました」


 奴隷商の男は証明書を作成し、そこにジェリダが拇印を押す。そして代金を支払って取引は成立した。そして、エルフの少年の手枷と首にあった魔道具が外される。少年は枷を外された自身の手をまじまじと見つめる。


「この子に何かマシな服はないの?」


「こちらにございます」


「じゃあこれ、着替えてきて」


「あ…は、い。旦那様……」


 エルフの少年は擦れた声で返事をすると監視の屈強な男と共に着替えのスペースへと入り、着替えて帰ってきた。服装はそうジェリダと変わらないシャツにズボン姿だった。やはり足が不自由なのだろう、右足を引きずっている。


「行くよ」


「はい、旦那様」


 ジェリダは用はすんだとばかりにさっさと小屋を出て行った。その後ろを足を引きずる少年がついて来る。奴隷売買の場所を出て町の通りへと出た。ジェリダは一度少年の方を振り返り、一つ頷いた。


「よし、一度ギルドで借りた部屋に行こう。色々話すのはそれから」


 少年が返事をする間もなくジェリダは少年の腕を掴むと歩を合わせながらギルドへと向かう。腕を掴まれた少年はぎくしゃくと固くなる。


「旦那様、私に触れては旦那様が汚れてしまいます」


「いいから」


 冒険者ギルドに戻って来たジェリダは先ほどいたリリィを見つけて声を掛ける。


「リリィさん、この子も一緒に宿に泊まる事になったんだけど」


「お連れの方……いえ、奴隷ですか?」


 リリィの目に魔力が集まる。鑑定を使っているのだ。リリィの言った奴隷という言葉に少し、ジェリダはムッとなるが堪える。


「後で冒険者登録するから。料金はいくら払えばいい?」


「それでしたら先ほどと同じ料金で銀貨一枚と銅貨四枚になります」


 ジェリダはリリィに提示された金額を支払い、三階の二〇六号室へと向かった。ドアを開けてみるとベッドが二つあった。元々二人部屋だったようだ。ここでようやく少年の手をジェリダは離した。


「とりあえず、そこのベッドに座って」


「い、いえ。旦那様、私は床に座りますから……」


「あ、その旦那様だけど。私、女だから」


「し、失礼しました。おじょ――」


「ジェリダ。そう呼んで。あと、そんなに畏まらないで。そして、ごめん。色々な面であなたを下に見る言い方をして。あの場ではそう言わないとこっちが舐められちゃうからさ」


 少年はジェリダが謝罪をしたことに目を丸くする。そして、ゆるゆると首を横に振る。


「構いません。奴隷相手にあれ以上の態度を取る方もいらっしゃいますから。ジェリダ様はお優しいのですね」


「そんな様なんていらないのに。私ね、奴隷にはならなかったけど、ずっと貧しくて泥水をすする以上の生活をしてきたの。だから、あなたと初めて目が合った時、自分だけでも生き延びてやるっていう強い目をしてた。周りはもう諦めた目をしてたのに。あなただけは違った。だからあなたを選んだ。

 でも、今はその目が消えてる。ただの小娘に頭を下げるただの奴隷になってる。あの時私が感じた感覚は間違いだった?」


 ずいっとジェリダに迫られて少年はたじろぐ。その拍子に少年はベッドへと座り込んだ。なお瞳を覗き込むように見てくるジェリダに、少年は覚悟を決めたように口を開いた。


「俺は、生きたいと思いました。あんな環境の中でも自分だけは生きてやるって。そして、あなたが俺を買うと言った時、すぐに逃げてやると思いました。

 でも、あなたの態度から私に何かひどい事をするようには思えなくて。戸惑っているうちにこうなりました。……ははっ、こんな人も世の中にはいるのですね」


 その時少年は初めて笑った。初めて出会う優しい人間に戸惑う部分もあるのだろう。だが、その笑みは心からの笑みだった。少年につられてジェリダも微笑む。


「私ね、職業が魔法使いなの。でも、これから冒険者をしていくならどうしても前衛が欲しい。だからどうしようかって考えてたらあなた剣術や弓術、槍術まで使えるみたいだからすごくいいって思ったの」


 ジェリダはゆっくりと向かいのベッドに座ると言葉を続けた。


「私の仲間になってくれる?」


 ジェリダは少年へ手を差し出す。その手に少年は躊躇わず自身の手を重ねた。


「俺はあなたのものです。いえ、そうでなくても俺は、あなたについて行きます」


 


◇◇◇


 二人が部屋で会話を交わす少し前、ギルド長室でリリィは報告をしていた。


「ギルド長、先ほど受付に来た子供がいたのですが、かなりの大物になりそうですよ」


「子供? いくつだ」


「まだ十三歳です」


「十三だと!! その年で冒険者になる者は少ない! そもそもそんな子供に何を考えて冒険者カードを作ったんだ! 冒険者は子供の遊びとは違うんだぞ!!」


 ギルド長は執務机に座ってリリィの報告を聞いていたが、冒険者になったばかりの子どもの年齢を聞いて声を荒げた。大分白髪の混じり始めた髪をオールバックでしっかり固めて、気難しいイメージのラドックはこのギルドを五十年以上守り続けてきた。


 その長い経営の中で、今までにそんな子供が冒険者になるなんてことはなかった。精々でも十五歳ほどで来る者はいても、追い返されるのが普通だった。


「誰もその子供を止めなかったのか!? いつもならちょっかいをかける奴がいるだろう!」


「それが、最初にスキルを持っているというのでもう十八歳ほどかと思ったんです。スキルを買う事ができるのは十八歳からですし……」


 この世界でスキルはほとんどが金で買うものである。だが、決まりもある。スキルを得る事ができるのは十八歳からという決まりがある。金持ちの中には違反している者もいるにはいるが、ジェリダはそのような裕福な子供には見えなかったのだ。


「その年でスキルを持っているだと? 何処かの金持ちの子どもなんじゃないのか?」


「それが、名前を記入する際に聞いた限りではジェリダという名前だけでして。苗字を持っていないので孤児か貧しい生まれのはずなんです」


「はず、とはどういう事だ。お前はこのギルドの受付嬢の中でも鑑定スキルが一番上だろう」


「それが、一番の問題でして。私よりもそのジェリダさんの方が鑑定スキルが上のようでして……。情報を見ようとしたら弾かれて一部を一瞬しか見る事が出来なかったんです……」


 ギルドの受付嬢は皆鑑定のスキルを持っている。その中でもリリィは責任者である分、務めた長さも実力もトップである。冒険者ランクBの者ならば鑑定スキルがリリィよりも上の者はごろごろいるが、今日なったばかりのDランク冒険者がリリィよりも鑑定スキルが上というのは初めてだった。


「はあ!? お前よりもたった十三歳の子どもの方が鑑定スキルが上だと! …………はあ。で、その一瞬見れた情報は?」


 いったん落ち着こうとラドックは煙草を取り出して火を付けようとした。


「恐らくスキルのレベルは8だと……」


「なっ!……っあつ!」


 ラドックはあまりの驚きに火を付けた煙草を口から膝に落としてしまう。悲鳴を上げてすぐに拾い上げる。そして、もう一度リリィに確認する。


「本当に、その子供はスキルのレベルが8だったんだな」


「はい。魔法基礎がレベル8だというのも視えました」


「これは……本当に大物が来たかもしれないな」





次は3月18日の21時です。

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