第29話
「これたった一週間で集めたのか!?」
その日、ジェリダは錬金術ギルドに一週間ぶりに訪れ、その間に集めた素材をレントに届けに来ていた。ジェリダが持ってきた素材の量があればポーションが八百本は作る事ができる。
ジェリダは大量の素材を鞄に全て詰め込んでいた。それを全て取り出すと錬金術ギルドの床をほぼ埋め尽くしてしまう程の量だ。
レントはその量にも驚いていたが、ジェリダがこれだけの量を短期間で集めて見せた事にも驚いていた。
ジェリダはこの素材集めで使役語と調教のレベルが4まで上がった。そのかいもあり、ホワイトウルフのリーダーの背に乗る事ができるようになっていた。他のホワイトウルフ達も同様に背中に乗る事ができる。しかも、ルベルもアオイも乗る事ができる。だが、リーダーはジェリダだけを主人としたのか、ルベルとアオイが乗るのは嫌がった。
移動が効率化され、ジェリダは目標にしていたポイズンラーヴァの使役数を二十から五十へと増やしていた。後からリリィから聞いた話では使役語のレベルが1の時は三十まで使役可能で、それ以降のレベルアップでは三十体ずつ使役できる数が増えるとの事だった。
現在の使役数はゴブリンが二十四体。ホワイトウルフが五体。ポイズンラーヴァが五十体。今のレベルでは残り三十九体まで使役にできる。
「これだけの素材があればポーションは作れるが、三日は貰う事になるがいいか?」
「時間はかかってもいいけど、私が行っていた荷車と屋台は?」
「ああ、中古だが、大きなのを買ってある。外に二つとも置いてあるから確認するならしてくるといい。だが、作ったポーションはどれくらいを無料で使うんだ?」
「今あるポーションの在庫は?」
「ゼロだ。冒険者側がクエストを受けてくれなくて、素材が手に入らなかったんだ」
レントは錬金術師だ。冒険者のように戦闘力はあまりない。魔法使いより、魔術師よりの錬金術師は攻撃できる手段を持っていない。それは大昔の錬金術師達が戦闘よりも、物を作る技術の方に力を入れたためだった。
今のレントがゴブリンとの戦闘になれば、目くらましの魔術文字を使ってその場を逃げるのが精一杯と言えるほど弱い。一般市民とそう変わらない程だ。
「うーん、それは結構厳しいかも。もう少し素材を集めて、ポーションの在庫を最低でも二千個ぐらい確保できればいいかな」
東西南北と中央区でポーションの実演をして見せる量は百個ほどでいいと思っている。だが、一週間でジェリダが集められた素材では八百個が限界。在庫と実演用のポーションを確保するには時間が掛かりすぎている。ジェリダがもう少し使役語のレベルを上げ、使役できる魔物を増やしたとしても、ホロルの人口は六十万人。そこに外からやって来る人々を含むと百万人を優に超える。冒険者はその内の数千人。一般市民はその何十倍だ。
ポーションを格安で手に入れれるとなれば多くの人が買いに来るだろう。そうなるともう少し人手が欲しい。
「錬金術師はレント以外にいないの?」
「呼び捨て…まあいいや。俺以外の錬金術師はこの町にはもう一人だけいる。俺の幼馴染だが、あいつ手伝ってくれるかな……?」
「そこは任せるから、何としても協力してもらわないと。で、こっちの素材集めはどうするか……」
ジェリダは冒険者ギルド内に知り合いがいない。いや、一方通行で話しかけてくるブレイブやルベルの剣の師匠であるジェニオがいるのだが、その二人に協力を要請するのはジェリダの何かが嫌がっていた。だが、背に腹は代えられない。ジェリダは苦々しい顔で協力の要請を決意した。
「私は冒険者ギルドで素材集めを手伝う人を確保するから、ポーションの製造と協力者の確保、よろしく」
「分かった」
ジェリダは錬金術ギルドを出るとそのまま冒険者ギルドへと向かった。町の中で使役の魔物へ乗る事は禁じられているため、歩いて向かう。
最近は毎日行っていた冒険者ギルドに寄る事が少なくなっていた。特に今は素材集めが忙しく、寄る機会が減っていた。
ブレイブとジェニオの姿を探して一階を見回す。だが、一階には見当たらない。リリィに二人を知らないか尋ねる事にした。
「リリィさん、お久しぶりです」
「あ! ジェリダさん、本当に最近来なくなったのでお久しぶりですね。今日は何のご用でしょうか」
「あの、ブレイブとジェニオさんは今日来てますか?」
「ブレイブさんは今日はまだ見てないですけど、ジェニオさんなら今、ギルド長とお話し中です。しばらくしたら出てくると思いますよ」
(またジェニオさんはギルド長と話しを? なんだか最近よく来てるみたい。何かあったのかも……)
滅多に来ないというジェニオがここ数週間で頻繁にギルド長を訪れているのは、何かあったとしか思えなかった。だが、何の情報もないまま考えても無意味だ。ジェリダはその話し合いが終わるまで待つ事にした。
◇◇◇
「ドロテオが死んだ、か……」
「ええ。見張りの衛兵ごと。どうせ身内の者が殺しに来たのでしょう。思ったより刺客が来るのは遅かったと思いますが」
「また、振出しに戻るのか」
「そうとは限りませんよ。私が何の収穫も得ないままここに来ませんよ。ま、収穫と言っても小さな糸口程度ですが」
今、ギルド長室で話されているのはアオイを攫った明けの塔幹部、ドロテオについてだった。ドロテオはブレイブとジェニオによって一度警備兵に渡され、すぐに王都の騎士団の元へと引き渡された。ホロルの警備兵よりも王都の騎士団の元の方が口を割らす道具も多く、警備も強固だ。
ドロテオはそこで明けの塔について口を割らさせようと、拷問を受けていた。様々な拷問を試したが中々口を割らなかった。それどころか余裕で笑ってさえいた。その不気味さとしぶとさでジェニオが手を出す事になった。
ジェニオは本来、禁忌とされる記憶を覗く魔法を使った。記憶をひとたび覗けば、一気に莫大な情報が流れ込む。それを魔法で制御しながら記憶を覗く。もし、制御に失敗すれば大量の情報が頭の中に流れ込み、情報過多と魔法の反動で死に至る。
それほど危険の高い魔法を使ってでも、ジェニオは明けの塔に関する情報を得なくてはいけなかった。
「私が覗いた記憶に映っていた幹部と思われる者達は全てで四人、ドロテオを含めば五人でした。しかし、そのメンバーの内一人は何者かによって殺されたらしい。という事は元は六人の幹部が今は四人。
仲間意識の薄い連中のようでしたが、一応名前の把握はしていました」
まず、一番年長であり、古株なのはティオテモ・イーストン。彼はかつて優れた魔法使いでしたが、人体実験をしていた事を告発され、逃亡。次はフィリップ・クレイン。彼は優れた銃士だったが、猟奇的殺人を起こし逃亡。
「他にもバレンティア・オーズリーという吸血種の女。それとルシオという世界的にも指名手配されている暗殺者も幹部として名を連ねていました」
「いずれも多くの人々を殺した殺人鬼の集まりか。だが、一気に捉える事ができれば――」
「そう簡単にはいきませんよ。特にバレンティア・オーズリー。彼女は世界でももう数十体しかいない吸血鬼の生き残り。大昔の魔力の強かった人々ならいざ知らず、今の冒険者では手に余るでしょう。それに、彼女は僕の獲物だ」
いつも穏やかな雰囲気のジェニオにしては珍しく殺気立った最後の言葉に、ラドックは一瞬、気圧されてしまう。気を取り直してラドックは口を開く。
「……君がそこまで言うとは、本当に簡単に事は進まなそうだな。だが、殺人鬼が集まって一体何をしようというのだ」
「そこまでは……。すみません。僕の力不足です」
ジェニオは苦痛を堪えるかのように拳を固める。だが、ラッドクは首を横に振る。
「いや、幹部の名前が分かっただけでもいい事だ。君は忙しいだろうにずっと仕事をさせてすまないね」
「いえ、殆ど自分のためにやっている事です。僕はようやく見つけたバレンティアを逃がすわけにはいかない」
自然と、ジェニオは左の肩に手を当てていた。
次は5月6日21時に更新です。




