第28話
「は~~~~」
錬金術ギルドを出たジェリダは深いため息を吐いた。商人のスキル、話術があったとはいえ、成功するかジェリダ自身不安だったのだ。
この取引をなぜジェリダが錬金術ギルドに持ち掛けたのか。それは最低、自分の身の回りだけでも守れる力が欲しかったのだ。ジェリダの考える力は二つある。一つ目は純粋な力。武術や剣術の類。もう一つは金だった。大抵の人は金がを見せれば動く者が多いというのはそれだけ金には威力があるという事だ。
錬金術ギルドが秘密主義のお陰で魔石の事は存在を知っていても使い方やそれを用いた商売はまだない。そこをいち早くジェリダは利用する事にしたのだ。
市場に出回るポーションは庶民が手にするには高額過ぎる。そこでジェリダはその価格を下げる事にした。同価値の商品が安値で売られていたならば、高い方をわざわざ買う者はいない。自然と値段を下げる事になる。
ホロルは三か国の境界線にある。その為商売に来た商人が多く通る。そこで品質のいい安価なポーションが売られていれば、ホロルまで買いに来る者も現れる事だろう。そうして徐々に噂を広めて行けばいい。
「とりあえずルベルにこの取引で必要な薬草を庭に植えるように言って、そのあと北に行って……」
ぶつぶつとジェリダはやる事を呟きながら家の方へと向かった。
ジェリダが去って行くのをレントは窓から覗いていた。あのような小さな子供が今まで誰も気づかなかった商売を持ちかけて来るとは、今でも信じがたかった。だが、持ち掛けられた話はレントにとって中々魅力的ではあった。
レント・ラーウェン。ラーウェンと言えば錬金術を扱う者達や商人の間では知らない者はいない程、有名な名だった。それはラーウェン家は錬金術ギルドを立ち上げた家であり、千年以上前から続く錬金術の名家なのだ。
レントの父は現在のラーウェン家の当主。そして、レントはその家の長男だった。ではなぜこのような所で細々とした錬金術ギルドの支店のような事をしてるのか。それはラーウェン家のしきたりだった。ラーウェン家を次に継ぐ者は十三歳になれば家を追い出され、外で錬金術ギルドの支店長という立場で一人、経営を学ばされる。
今のレントの歳は十七歳。あと一年で何らかの成果を出さなければ勘当すると言い渡された。レント以外に男は二人。その二人も今はそれぞれ違う町で錬金術ギルドをやっている。だが、まだ成果は何も出ていない。父親は成果を出した者に家を継がせると言っている。何としてもレントはこの競争に勝ちたかった。
「俺が利益の四割なのはまあ、仕方ない。とりあえず成果をあのクソ親父に見せつけなくちゃいけないんだから」
そう呟いたレントはいつも出てくる部屋には戻らず、その近くの本棚に行くといくつかの本を取り出し、入れ替える。すると本の表紙と裏表紙に掛かれた言葉に魔力が流れる。それは錬金術師がよく使う魔術文字だった。重なった魔法文字が反応した事により本棚全体が浮かぶ。そして、その後ろに隠れていた扉が姿を現す。
その扉をレントが開けるのは久しぶりだった。そこはレントの工房だ。中には錬金術を行うための道具や素材が揃っている。最初の頃はまだ素材を持ってくる者もいたのだが、他の町に移動したりしたのか、徐々に訪れる者はいなくなった。レントはその頃に貯めていた金で何とか食いつないできていたが、数日前についにその貯金もそこを付いた。
食べる物が何もない状態が続いた時、ジェリダが魔石を持ち込んだ。それをすぐさま加工し、王都の錬金術ギルドへと売った。それで得た金でしばらくは生活していた。あの魔石は中々上質なものが多かったのだ。それをタダでくれたのもありがたかった。
工房にはうっすらと埃が積もっていた。少し踏み入っただけでも埃が舞う。レントは口元を手で覆いながら、眉をしかめる。
「こりゃ、掃除しないとだめだな……」
幸い、時間はいくらでもある。レントは取引のため、ポーションを作るため、工房の掃除をする事にした。
その後のジェリダの予定は忙しいものとなった。庭の手入れをしていたルベルに薬草の事や取引の内容を話し、了解してもらった。その後ジェリダはポイズンラーヴァを使役にすべく、北に向かった。
ポイズンラーヴァはあの廃村の近くに生息していた。ポイズンラーヴァの毒針は一回抜けても次の日にはまた作られている。その事を考え、一日一回毒針を採取するとなると最低二十体は使役にしたいところであった。そうすれば一日に百本の毒針が採取できる。
とにかくその日は夜まで時間があまりなく、廃村の近くにいたポイズンラーヴァ十体をジェリダは使役にした。そして、へとへとになって家に帰ろうにも連れて来ていたホワイトウルフは背中に乗せてくれない。仕方なくジェリダは歩いて帰る事になった。
「ただいま……」
珍しく元気のないジェリダはふらふらと居間に向かうとソファに顔面から倒れ込んだ。ポイズンラーヴァは食料のある住処の方にそのまま置いてきた。隣の調理場からアオイがジェリダの様子を見てクスリと笑う。
「おかえり。珍しいな、ジェリダがそこまで消耗しているなんて」
「そりゃね、距離が……。というより、あのホワイトウルフのリーダーが背中に乗せて走ってくれればこんなに疲れる事も……」
そこまで言ってジェリダはウトウトとして目を閉じた。規則正しい寝息が聞こえる。アオイは仕方ないなと言って、ジェリダをそのままルベルが返ってくるまで寝かせる事にした。ジェリダの上に布を被せてそっとしておく。
ジェリダがここまで疲れているのは歩いて帰ったという事より、一気にMPを消費した事が疲労に繋がっていた。ジェリダのMPは使役語を使った事によって三分の一程が消費されていた。
すやすやと眠るジェリダを居間に残すと、アオイは料理の続きに取り掛かる。トントントンとリズムのいい音で野菜を切る。
ルベルが帰るとジェリダを起こして夕飯にした。まだジェリダはウトウトしていたが、それをジェリダより年長の二人は温かく見守っていた。ジェリダがここまで年相応の仕草を見せるのは今までなかった。いつもしっかりとした発言や行動をしているジェリダだが、今はまだ十三歳の少女だという事を思い出させてくれる。
食べ終わったジェリダは軽く汗を流し、いつもより早く眠りに着いた。
翌日もジェリダは北に向かう事にした。ルベルとアオイは昨日に引き続き庭の手入れをするという事だった。庭は昨日だけで半分の手入れが行き届き、生い茂っていた雑草は綺麗に引き抜かれていた。今日で庭の手入れも終わるだろうとの事で、ルベルは余裕があればベイ草を庭に植えて育ててみると言っていた。
ジェリダはホワイトウルフのリーダーを連れ、北に行く。今日もその背に乗ろうと試みるも、振られてしまった。調教を使ってみても中々上手くいかない。まだスキルのレベルが足りないのか、リーダーとしてジェリダを信用できていないのかもしれない。
とりあえず北に付いたジェリダは昨日使役ににしたポイズンラーヴァから毒針を採取し、次にゴブリン達を向かわせたダンジョンに向かう。
ゴブリン達は呼べばすぐに集まった。もし冒険者が近くを通っては面倒なのでダンジョンを少し離れた所で魔石を受け取る。
一日でゴブリン達が取って来た魔石は三百近くあった。これはジェリダの予想を超える量だったため、驚きの声を上げる。
「すごい、これだけあるってことは三百匹以上の魔物を倒したってことだよね。レベルは……全体的に上がってる」
多くの魔物と戦い、いくつか魔石を食べた事によりゴブリン達はレベルが平均5は上がっていた。中には怪我をしている者もいたので、回復魔法を掛けてやり、傷を治してやる。
「よし、よく頑張ったね。じゃあまたお願いね。【行け】」
使役語を使うとゴブリン達は再びダンジョンへと戻って行った。そしてジェリダはポイズンラーヴァを使役にするためその姿を探しに向かう。
そんな材料を集めるための行動を一週間続けた。
次は5月4日21時に更新します。




