第26話
久々に長く書けて楽しいですね。大型連休、楽しんでください。
「おい、ありゃホワイトウルフか……?」
「ますます化物集団になっていくな」
ホワイトウルフを五体も連れているせいで嫌でも注目を浴びる三人だが、特に気にする様子はない。特にジェリダなどは人混みが勝手に割れて歩きやすいなどと思っていた。すいすいと人混みを割って歩き、ギルドにたどり着いた。ホワイトウルフは外に座らせて待機させる。
「リリィさん、クエストの報告お願いします。それと、ルベルの新しい職業選択も一緒に」
「はい、かしこまりました。ではまずクエストの報酬をお渡ししますね」
ルベルとアオイだけでポイズンラーヴァの剥いだ素材は顎が三十七個。毒針は一体に五本生えているので百八十五本を渡す。
「ではポイズンラーヴァの顎が一つ石貨四枚、毒針が五本で石貨八枚なので……銀貨十枚、銅貨二枚、石貨八枚ですね」
報酬を受け取った次はルベルの新たな職業選択に移る。
「では、ここに手を翳してくださいね」
石板に手を翳すと光り出して、ルベルの選ぶことのできる適正職業が浮かび上がる。
『二刀剣士』、『弓使い』、『槍使い』、『魔法剣士』、『森霊使い《ドルイド》』、『魔法使い』、『魔導士』、『神官』と依然と変わりない適性職業が現れる。
「以前と変わらないという事は、スキルレベルがまだ足りないという事ですね。スキルレベルを上げればそれだけ適正職業の幅も広がるので、頑張ってください」
リリィがフォローするがルベルは既になりたい職業を決めていた。
「新しい職業は二刀剣士にします。俺はこのまま剣の道を究めたいと思っているので。いいですか、ジェリダ様」
「それはルベルの決める事だよ。自分の事は自分で決めていいんだよ」
「ありがとうございます」
「サブ職業はいかがされますか? あ、そういえばジェリダさんは少し考える時間が欲しいという事で、サブ職業を選んでいませんでしたが、もう決まりましたか?」
ジェリダは新たに魔物使い(イビルテイマー)になった時、サブ職業の一覧表をリリィから見せて貰っていた。だが、その時はなりたいサブ職業が決められず、決めないままにしていた。サブ職業は無理に選ぶ必要がないため、ブレイブやジェニオのように、レベルが高くともサブ職業を選んでいない者も多いのだ。
「いくつか候補があって悩んでいたんですけど、私はサブ職業を商人にしようかなって思います」
「ルベルさんはどうしますか?」
そいう言ってリリィがジェリダにも見せたサブ職業の一覧表を見せる。細工師や執事、占い師などもある。
「なるほど。サブ職業は戦闘以外の日常で使えるものが多いのだな」
アオイもルベルの隣からサブ職業を覗き込む。まだアオイはレベルが30になっていないため、選べないが、今から悩んで決めておくのもいいだろう。しばらくルベルは表を見ていたが、ある職業に目を止める。それはルベルの心が一番惹かれるサブ職業だった。
「俺、この庭師がいいです。自分の固有スキルとも合いますし、今のボーボーの庭をどうにかしたいですし」
「あー……。色々あって放置してたね、そういえば」
「あれは確かに、少し手入れをした方がいいな。うん」
ジェリダもアオイも少し遠い目で庭を思い返す。家の中は管理が行き届いていた今の三人の家だが、庭は荒れ放題で、まだ手を付けていなかった。
ルベルは少し几帳面な所があるため、気になって仕方がなかったのだろう。それに、ルベルの言う通り、彼の固有スキル、緑の恩恵とは相性のいいサブ職業と言えるだろう。
「かしこまりました。では、こちらの石板に冒険者カードを乗せてください」
サブ職業を登録するための石板に一人ずつ冒険者カードを乗せる。それぞれ役割によって色が違うのか、今回は紫色だ。石板が光り、冒険者カードにサブ職業とそれに関するサブ職業スキルが新たに加わった。
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名前 ジェリダ
職業 魔法使い・魔物使い(イビルテイマー)
サブ職業 商人 LV 1
種族 人間
年齢 13歳
称号 なし
LV 32
HP 804
MP 848
筋力 254
知力 153
体力 165
魔力 740
運 50
《パッシブスキル》
回避 LV 2 up
威圧 LV 2
剛腕 LV 2
手加減 LV 2 up
足音遮断 LV 2 up
索敵 LV 3
夜目 LV 2
聴覚強化 LV 3
無詠唱 LV 3
自己回復 LV 2
使役語 LV 3 up
《アクティブスキル》
鑑定 LV 9
魔法基礎 LV 10
回復魔法 LV 9
死霊魔法 LV 8
付与魔法 LV 9
格闘術 LV 1
拳術 LV 2
護身術 LV 1
体術 LV 1
柔術 LV 1
投擲 LV 1
暗殺術 LV 1
短剣術 LV 2
回復詠唱 LV 1
神聖魔法 LV 1
白魔法 LV 1
黒魔法 LV 1
調教 LV 2 up
支配 LV 1
洗脳 LV 1
魔術基礎 LV 1
魔力感知 LV 1
隠蔽 LV 1
解析 LV 1
《サブ職業スキル》
話術 LV 1 new
交渉術 LV 1 new
暗算 LV 1 new
他言語理解 LV 1 new
《固有スキル》
悪食 LV 10
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「サブ職業はそれぞれ他の職が持たない特有のスキルを持つ事ができます」
「この他言語理解っていうスキルは何ですか?」
「それは他国の言葉を聞いて、しばらくすれば理解できるようになります。もちろん、レベルを上げれば会話も簡単になってきます。ですが、これは自分の理解しようという気持ちがないとそれだけ時間もかかりますので、ご注意を」
「へー、他の国の言葉が分かるようになるのはかなり便利かも」
ジェリダに説明をした後はルベルがサブ職業を登録する。ルベルは自身の冒険者カードをジェリダ同様、石板に乗せる。
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名前 ルベル
職業 剣士・二刀剣士
サブ職業 庭師 LV 1
種族 エルフ
年齢 15歳
称号 異端児
LV 30
HP 750
MP 580
《スキル》
弓術 LV 2
剣術 LV 6 up
槍術 LV 1
短剣術 LV 1
投擲 LV 1
二刀流 LV 1 new
《サブ職業スキル》
植物知識 LV 1 new
土壌管理 LV 1 new
成長促成 LV 1 new
《固有スキル》
緑の恩恵 LV 2
拘束の魔眼 LV 1
観察の魔眼 LV 1
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「これで登録が完了しました。他にご用事はありますか?」
「あ、そうだ。リリィさん、このホロルの外、門を抜けた先にどんな魔物や建物があるかという情報はありますか?」
「はい、代金は頂く事になりますが周辺の細かな地図と魔物の分布情報はありますよ。全てを購入なされるなら銀貨一枚と銅貨五枚になります」
「じゃあ、それでお願いします」
地図と情報の載った紙を鞄に入れ、ギルドを出て行こうとした時、約束のようにブレイブと鉢合わせした。
「何だあのホワイトウルフは。誰だよ連れて来たのは……っいって! 誰だ足踏んだのは! って、お前かよ」
「あのホワイトウルフは私のですけど、何か??」
ドアを開けて入って来たブレイブは外にジェリダが待機させているホワイトウルフを見てぶつぶつ言っていると、ジェリダは思いっきりブレイブの足を踏んでやった。見下ろすようにブレイブがジェリダを見ると、余計に不快感を露わにした表情を向ける。
「何ですか? 狙ってるんですか? なんでほとんど毎日あんたに遭わなきゃいけないんですか?」
「お前……最近本当に口悪すぎだぞ。それに、この前助けてやっただろうが!」
ブレイブは後半の方は周囲の冒険者に聞こえないように声を潜める。
「それとこれとは無関係。そこ退いて。邪魔」
「はあ? お前が邪魔なんだよ。お前こそ退け」
「嫌です」
バチバチと二人は火花を散らす。二人が入り口を塞いでいるせいで、入ろうとしている冒険者も出ようとしていた冒険者も出入りができなくなる。口を出そうにも相手はAランク冒険者のブレイブと、異例のランク昇格を果たしたジェリダだ。並の冒険者は割って入れないだろう。とそこに、救世主が現れた。
「その辺にしたらどうだい、ブレイブ。みんなの迷惑になってるよ。それに、出る方が優先なんだから、君が道を譲るべきだ」
そう言ってブレイブの背後から声を掛けて来たのはこの場の救世主、ジェニオだった。
「あ? お前もあの嬢ちゃん側に付くのかよ」
「そういう問題じゃないだろ。いいから譲ってあげなよ」
「チッ」
ブレイブは舌打ちをするとドアの前から下がってジェリダに道を譲った。ジェリダはムッとした顔でブレイブを睨みながら外に出る。
「師匠! ここに来るなんて、何かあったんですか」
ジェニオは冒険者であるが、最近はほとんどその活動をしていない。代わりに王都に指南役として呼ばれたり、研究をしたりと冒険者ギルドにはあまり顔を出さないのだ。その為、ルベルは何かあったのかと思ったのだった。
「やあルベル。ギルド長に今日は話があってね。稽古に時間には間に合うから」
「分かりました。あの、ジェリダ様。今の時間では家に戻ると間に合わなくなるのでこのまま行ってもいいですか?」
「いいよ。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「剣の稽古か。そういえば最近私も稽古をしていないな……」
「毎日稽古してたの?」
「ああ、朝から昼まで稽古をしてそれから座学。その後また稽古を夕飯前までやっていた」
「うわ……結構ハードだね」
「毎日の事になればそうでも無い。それに、私自身、稽古が好きだったから苦ではなかった」
「じゃあ、戻りたいとはどうして思わないの?」
アオイは前までの環境が嫌だったという訳ではないようだった。それなのに、ドロテオの元から解放され、戻る事もできたのにジェリダとルベルの元に残るという選択をしたのか。それがジェリダは気になっていた。
「そうだな……。私はあの場所にいるのは相応しくないと思ったんだ。剣の実力があったから。ただそれだけで私は選ばれた。だが、それでは誰も付いてこない。私よりも相応しい者がいるはずだ。私は狭い箱だけで生を終わらせたくない。外で見聞を広め、自分の実力を上げたいのだ」
アオイはどこか遠くを見ながらそう打ち明けた。そこには自信なさげなアオイの気持ちが滲んでいた。ジェリダはそんなアオイの背中を何も言わず、一度だけ叩いた。そして。
「アオイに何があったのか深くは聞かないけど、アオイがそう決めたならきっとそれが正解だよ。自分の人生なんだもん。自分で決めなきゃ面白くないよ」
「……はは、ジェリダの方が私よりも歳が下なのに、随分と達観しているのだな」
「そう? ま、この話はこれでおしまいにして、今日の夕飯の材料でも買いに行こうよ。私も料理覚えていきたいから、新しい料理教えて」
「分かった」
二人は以前よりも心の距離を縮める事ができたのだった。
◆◇◆
夜。漆黒の翼で静かに、何の来訪もなくホオズキはタチバナの屋敷を訪れていた。ホオズキが玄関から正式に入って来なかったのは、周囲に知られたくない話をしたかったからだ。部屋に入るなりホオズキは、懐から人型の紙を取り出し、術を使った。
人型はまるで生きているかのように空に浮かび、障子にピタリと張り付いた。そこから部屋全体を覆うように見えない結界が張られた。それを確認してからホオズキは口を開いた。
「なあ、タチバナ。お前はコウリョク様とスズナミ様、どちらの派に付くつもりだ?」
「ホオズキ、お前は武将五家にも拘らず、派閥争いに関わろうとしているのか。我ら武将五家は天子様を守護する家。それだけで影響力は大きいのだ。我らが派閥争いに関われば今の危うい状況が一気に爆発するだろう。それを分っているのか」
だが、その話しの内容が内容なだけに、タチバナも声に怒気が現れる。だが、そんなタチバナの威嚇はどこ吹く風と、ホオズキは話しを続ける。
「まあまあ、そう怒るな。別に俺は派閥争いに関わる気はねーよ。ただ、最近コウリョク様側が密かに動いているらしい。ただ、それだけならよかったんだが、何やらその動きにホタル家が関わっていると、私の部下が報告してきた」
「ホタル家が? なるほど。お前が単刀直入に話を俺に振って来たのは、俺にカマを掛けていたという事か」
タチバナはふっと怒りをおさめ、控えめに笑った。
「ご名答。ま、はなからお前の事は疑っていないさ。お前ほど家に誇りを持っている奴などいないからな」
「当然だ。天子様を守るという大義、誇りを持たずしてどうする。……だが、ホタル家が関わっているとはな」
「まだ断定はできないが、怪しいのは確かだ。明けの塔の事もあるのに世継ぎ問題で揉めるとは。まったく、上の方々は呑気なものだ」
今、ワ国は次の天子を誰とするかで揉めていた。先の天子は誰を世継ぎにするのか、それを決める事も出来ず、病で亡くなった。その為今の世継ぎ問題が生まれたのだ。
まず、第一皇女コウリョクは幼い頃から武芸に秀でていた。それに加え、勉学にも励み、文武共に素晴らしいと評されている。天子の資格は女性であっても選ばれるなら問題はない。民衆からの支持もコウリョクを推す者が多い。
もう一方の第三皇子スズナミはコウリョクとは対照的に体が弱く、臥せりがちだ。勉学の面では姉のコウリョクに勝るとも劣らない。だが、第三皇子であるにもかかわらず、世継ぎ問題に関係しているのはやはり、他の臣下達が御しやすいと考えているからだろう。
他にも皇子、皇女達も世継ぎ問題に絡もうとしているが、二人の派閥には遠く及ばない。その為、世継ぎ問題はこの両者のみになるだろうと噂されている。
「ま、私はどちらが天子の座に着こうがどうでもいい。そんな事よりもワ国に入り込んだネズミどもの方が気に入らん」
「明けの塔についてはお前に任せる。俺は少しホタル家の方を探らせよう」
「話しが早くて助かるよ。じゃあ、俺は帰る。くれぐれも、女共には気を付けろ」
「ああ、だからホタルは任せろ」
「ホタルだけじゃない。カスミもだ。ああいう女は危うい面を持っているからな」
ホオズキは低い声でタチバナに警告した。そして、誰にも見られないように音もなく廊下に出ると、空へと飛び立った。黒い翼は夜の闇に溶けてすぐに見えなくなった。そんなホオズキを見送り、タチバナは部屋に戻った。
朝、ルベルは朝食を済ませると庭に出てさっそく庭の手入れを始めた。今日はクエストを受けず、それぞれがしたい事をする日とした。毎日クエストに出かけるのもいいが、自由な時間も必要だろうというジェリダの考えだった。
アオイは軽く剣を振って鍛錬をした後、ルベルと一緒に庭の草むしりを手伝っていた。ジェリダは昨日使役にしたゴブリン部隊の様子を見に行くため、一人北へと出かけた。
ホワイトウルフは群れのリーダーだった一匹だけを連れて行くことにし、あとの四匹には番犬の役割を指示した。
今ジェリダの横を歩くホワイトウルフのリーダーは使役にするのに一番苦労した一匹だった。リーダーを務めるだけあって頭もよく、力も強い。まだ半分ほどしかジェリダの事を信用していないようだが、ジェリダはリーダーを手なずける事ができればあとのホワイトウルフも御しやすくなるだろうと考えていた。
本当はこのリーダーの背中に乗って北へと行きたいジェリダだが、乗せてくれないため、また町の中を通って昨日の場所まで向かった。そして、昨日ゴブリン達を解散させた所で、ゴブリン達のみ、指示がいくように意識して使役語を使う。
「【集合】」
ジェリダが言葉を使ってから数分後、ぞろぞろとゴブリン達が集まって来た。
「【整列】」
それぞれを部隊ごとに並ばせ、魔石回収の成果をみる。六つの部隊から回収した薄紫色の鉱物、魔石は大小様々だが、百個ほど集まった。
「おお、たった一日でこの成果はすごいな。でも、これだけの数の魔石を取ったって事はこの周囲の魔物をかなり倒したって事だから、場所は変えなきゃね」
いくら魔物と言えども、その環境から全ての魔物を倒してしまえばその場所のパワーバランスや環境を壊してしまう事にも繋がる。それを考慮してジェリダは新たな狩場を考えていた。
それは昨日冒険者ギルドにて購入した地図と魔物の分布場所からいい場所を見つけていた。今いる場所から少し行った所にドオルという人物が初めて発見したという、ドオルダンジョンがある。
ダンジョンの魔物事情は少し変わっている。野生の魔物達はそれぞれが繁殖し、数を増やしたりしているが、ダンジョンの魔物達はダンジョン内で発生する。つまり、知らない内に魔物がダンジョン内で湧き出すという事だ。
繁殖などをせず、ある一定の時間、ある一定数の魔物が倒されると自然と足りない分を補うように新たな魔物が出現する。その謎はまだ解明されていないが、ある学者が言うにはダンジョンは生きていて、どこかから魔物を転移させているのではないか、などという説もある。
ともあれ、このダンジョンの仕組みはジェリダにとってかなり都合がよかった。湯水のように湧き出す魔物なら、いくらでも狩って魔石を集めさせる事ができる。
ドオルダンジョンは地下九階までのダンジョンで、最深部にはボスがいるという。だが、ホロルにはその最深部まで行けるような冒険者が少ないため、ダンジョンの出入りは少ない。その為、大群のゴブリンがダンジョン内に入るのは簡単だ。
ジェリダはダンジョンの近くまでゴブリン達を連れてくると、説明をする。
「いい、魔石を集めるのがあなた達の仕事だから、無理に強い相手に挑む必要はないからね。それと、中に入って魔石を集めたらこの小さな鞄の中に入れる事。あと、魔石は小さい物をいくつか食べていいから。大きいのは鞄に入れて、二日置きに私が朝来るから渡して」
説明をする際には使役語は使わない。使役語は短い言葉に力を籠めやすいため、長い言葉の場合は威力が発揮されにくいのだ。
ジェリダはゴブリン達を六つから四つの部隊に編成し、リーダーにしたゴブリンへ昨日作った小さな魔法鞄を手渡す。小さな子供が持つようなポーチだが、中に十五キログラムほどなら入るようになっている。これで効率も上がるだろう。
「【行け】」
ゴブリン達はダンジョン内へと入って行った。それを見届けると、ジェリダは次の目的の場所へと向かう事にした。それは、錬金術ギルドである。
次は5月2日21時に更新です。




