第20話
訂正
パラメーターのHPとMPの基本値とスキルなどによる追加値の計算を間違っていたので、訂正するので、ジェリダのパラメーターがすごい事になると思います。
「あんたが私を殺すっていうのなら、私も全力で殺しに行ってあげる」
その顔は心底この状況が楽しいと言わんばかりに歪んだ笑みだった。ドロテオも同じく笑みを増す。
「いいですねぇ、いいですよぉ貴女! 久々に楽しい気分です!」
ルベルは冷静に剣を抜く。ジェリダは飛んでくる魔物虫を炎で焼き払う。そして、アオイの元にルベルが行きやすいように優先して魔物虫を排除していく。ルベルは切り開かれた空間を通ってアオイの拘束しているロープを剣で斬っていく。
ジェリダが炎を使った事によって部屋全体が明るくなり、部屋の天井の至る所に穴が空いている事が分かった。突如現れたように見えた魔物虫はその穴から這い出て来ていたのだ。ジェリダは炎をその穴に送り、これ以上出てこないように焼いてしまう。出て来ていた魔物虫は途中でジェリダからルベルの方へと標的を変えるが、細かなコントロールをするジェリダの炎魔法によってすぐに焼かれる。
「ん…………」
「アオイさん、気が付きましたか? とりあえずここを離れましょう。立てますか」
「ルベル……ジェリダ……」
薄っすらと目を開けたアオイにルベルは話しかけるが、アオイの目は虚ろで、夢見心地のような言葉のたどたどしさだった。仕方なくルベルはアオイに肩を貸して歩かせる。ほとんど引きずるようにしてアオイを守るようにジェリダの後ろへと避難させる。
「ルベルは出口に向かって。私はあいつを殺すから」
「……分かりました」
ジェリダはルベルと約束をした事を決して忘れている訳ではなかった。人を殺さない。これは人が生きて行く上でも簡単にしてはいけない行いだ。だが、今ここでドロテオを生かしたとしても、またこのような事が続くだけになってしまう。それを防ぐには今ここで、誰かが始末するしかないのだ。
それを分っているからこそ、ルベルも渋々承諾した。まだぼんやりとしているアオイを抱きかかえ、ルベルは出口へと向かって行った。ドロテオは終始自分から攻撃を仕掛けて来なかった。それが何を示すのか分からないが、ルベルがアオイを助けている間も妨害をするようなそぶりを見せなかった。
ジェリダは足音が小さくなるのを確認して炎を納めた。既に魔物虫はジェリダの炎魔法によって全て焼き払われていた。残るのは黒く焦げた残骸のみ。それをドロテオは手に掬い取る。
「あぁ、私のいとし子達……」
掬えばボロボロと手の隙間から零れて落ちる。ふぅと息を吹きかけて手の上の黒い死骸を吹き飛ばす。
「ま、魔物虫はいくらでもいるのでいいですけど。どうしました? もう終わりですか?」
ジェリダは魔物虫を焼き払う時、ドロテオに向けて炎の蛇を幾度となく差し向けていた。だが、ドロテオは何かに守られているかのように、炎の蛇が当たる直前で霧散させていた。それは数を増やしても威力を増しても同じだった。ドロテオはジェリダの様子を窺うようににやにやと笑っている。
「私が得意な魔法はこれだけじゃないから」
そう言うとジェリダは一瞬にしてドロテオに周囲の岩を檻のように組み立てた。
「おぉ、五大元素の炎が苦手な土関係の魔法が得意とは――」
ドロテオが閉じ込められてもなお楽しそうに語っていた途中で、ジェリダは容赦なく檻から鋭く尖らせた岩の棘でドロテオを貫く。これはソルジャーゴブリンを倒すときに使った方法だった。だが、今度は攻撃はするりとドロテオの体に傷一つ付けずにすり抜けた。
「おやおや、こんなものですか。私を殺すんでしょ? これじゃあいつまでたっても私を殺せませんよぉ?」
ドロテオのからかう口調に苛立たしさが募るジェリダだが、思考は冷静に保つ。
(攻撃の無力化をしてる? それとも幻覚? それなら本体が何処かにいるはず……)
ドロテオは檻の中で動かないのかと思えば、まるで幽霊のように檻をすり抜けてその隣に立つ。
「すり抜け魔法~。な~んて。そんなのがないのは、魔法使いである貴女がよく知ってますよねぇ」
ひらひらと手を振るドロテオ。するとその手から不意にセンティービートが飛び出し、ジェリダに向かって来る。
「っ…!」
ジェリダは反応が遅れ、素早く距離を詰めたセンティービートに手でガードしてしまう。その手に深々とセンティービートは噛み付いた。
「ぐぅっ、あ!」
ミシミシとそのまま腕を折ってしまおうとしたセンティービートに炎の蛇をぶつけて離れさせる。
「くっそ……」
ボタボタと左腕から大量の血とセンティービートの毒が落ちる。センティービートの毒は緑色だが、血に混じるとすぐに透明に変わる。これは毒を体内に流し込み、それを食べる他の者に分からないようにするためのものだ。匂いもないため、野生動物でも気付くのは難しい。ジェリダはすぐに自分へ回復魔法を掛ける。みるみる傷は塞がっていく。
「回復魔法を使えるのは面倒ですねぇ。折角のセンティービートの毒が回らないのはぁ。では、そろそろこちらから行きましょうかぁ」
そう言った時、ジェリダの顔のすぐ、目の近くにジェリダを挟むようにして魔法陣が展開された。
「!?」
ジェリダは嫌な予感がして素早くしゃがんで魔法陣から抜け出す。するとすぐに爆発するような音が響く。そのまま攻撃を食らっていたらジェリダの頭は半分吹き飛んでいただろう。だが、ドロテオの攻撃はそれだけでは済まない。
ジェリダがとっさにしゃがんで走った先、そこにさっきよりも大きな魔法陣が展開する。ジェリダはすぐに杖を地面に立て、ぼこぼこと地面を盛り上がらせる。それによって歪んだ魔法陣はスゥと消滅する。
「はははぁ。中々やりますねぇ。でも、これは予想できました?」
「しまっ…!」
地面を盛り上げた上、天井に最初と同じ大きさの魔法陣が展開されていた。全てジェリダの行動が読まれていたのだ。防ごうと思った時には遅かった。こんな所で終わるのか。そうジェリダが考えた時。
「〈プレベント〉」
その落ち着いた声と同時に展開していた魔法陣が消失した。
「誰ですか!」
ドロテオが初めて焦った声を出す。だが、今までこの部屋にはこの二人だけのはずだった。突如聞こえた声にジェリダも驚く。するとジェリダがさっきまでいた入り口に背の高い男が立っていた。
「やあ、ジェリダちゃん。大丈夫かい?」
この場には相応しくない明るい声でそう言ったのは、ルベルの剣の稽古をしているジェニオだった。
「よお、嬢ちゃん」
更にその後ろから現れたのはブレイブだった。ジェリダは嫌な顔をするのも忘れ、ただ茫然としていた。
「どうして……」
「それは、僕もこの男を追っていたからかな。僕は色んな所に目を持ってるんだけど、最近この変に置いていた目の役割をしているソルジャーゴブリンが狩られたみたいでね。ここに来るのが遅れたんだ」
「ほ、ほ~。そんな事があったのか」
思い当たる節あるブレイブはそっぽを向いてそんな事を言っているが、ジェニオにはお見通しのようでニコニコとした笑顔で圧がかかっている。
「ま、結果的にここにたどり着けたからいいんだけど。さて、ドロテオ。君には喋って貰いたい事が沢山あるんだ。大人しくこちらに来てくれると助かるんだけど」
「あははぁ。貴方達の事は魔物虫達に聴いて知っていますよぉ。破壊神と両道の天才でしょう? そんな方々と会えるなんて幸運ですねぇ。でも、今はあの子と遊んでいるんですよぉ。引っ込んでいて貰えますかねぇ」
そう言うと両手から再びセンティービートを四体呼び出した。よく見ればその手に魔法陣が展開されていた。そこからセンティービートは出てくる。まるで魔法鞄の空間を自分の体の中に作っているようだった。
「なるほど。冒険者が五人も死んだのはあなたの仕業のようですね」
「ほぅ……。ジェニオ、ならこいつは殺しても大丈夫だろ。どうせ死霊魔法をすぐに使えば記憶はあるんだからよ」
「はあ……。こうなるだろうからブレイブを連れて来たくなかったんだ」
やれやれと首を振るジェニオだったが、すぐに切り替える。ジェニオの纏う空気が冷気のようにさえ渡る。それはブレイブも同じで今までジェリダが見たこと無いような真剣な眼差しに変わっていた。その目の奥には五人の冒険者達を殺したドロテオへの怒りが燃えていた。
「いくぞ!!」
ブレイブは大刀を手に持ってドロテオに突進する。その大刀はいつも持っている物よりも柄の小さなものだった。狭い空間を想定して装備を変えてきているようだった。
「うおおおぉぉおおお!」
大きく大刀を振り上げ、横に薙ぎ払う。たったそれだけで風圧が起きて地面に落ちていた魔物虫の残骸が舞い上がる。しかし、その攻撃はジェリダ同様すり抜けられる。ブレイブは気にせず二合、三合と攻撃を仕掛ける。それでも攻撃は一度も当たらない。
「ふーむ。魔術師が得意とする幻術か」
(あれは幻術なのか。ならやっぱり本体が何処かにいるはず!)
ジェリダは部屋の中を見回す。するとある違和感に気が付いた。ジェリダが炎魔法を多用したため、どこもかしこも黒く焦げたりしていた。その辺にぶら下がっていた喜色の悪い人体の一部も、ジェリダの炎で燃えていた。だが、一点だけ、燃えていない所があった。集中してそれぞれの呼吸を確かめる。
(呼吸の数は自分を含めて四つ。自分はいいとして、落ち着いた音はジェニオ。少し心拍数が上がっているのはブレイブ。もう一つは……)
ジェリダの炎が燃やしていない一点、蝋燭の灯った机に視線を向ける。そして、暗くて気付きにくい机の側面に小さな魔法陣を見つけた。
「そこだ!!」
ジェリダはその魔法陣目掛けて炎の蛇を叩き込んだ。
次は4月17日21時に更新です。




