表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第一章 新米冒険者編
19/88

第19話


 ジェリダは洞窟へと向かうため慣れたトールの森を迷いなく進んで行く。まだ暗い森の中を迷うことなく進んで行く。夜目のスキルを使うため、暗い森の中でも少し明るく見えるのだ。その後ろをルベルが慎重に進む。


 夜の森の中はジージーと鳴く虫の声や風に揺れる草木の音がやけに大きく聞こえる気がする。


森を進んでいると索敵に引っかかる魔物の気配があるが、自分との力量差を測って襲ってこない。例え、出て来たとしても、今のイラついたジェリダによって瞬殺されるだけだ。


 森を抜け、以前ソルジャーゴブリンを狩るためにやって来たコレイラ山までたどり着く。すると、待ち構えていた大型の虫が飛び出してきた。


「あはは、やっと当たれるものが来た」


 ようやく鬱憤を晴らすための敵が出て来たとジェリダは十匹程の虫を炎で一気に焼き尽くす。それでもまだ多くの虫たちが飛来し、その大きな顎で噛み付こうとする。それを簡単に炎の壁で防ぐ。後ろで虫たちに襲われていたルベルの剣にジェリダは魔法で炎を纏わせる。


「ありがとうございます!」


 炎の刀身でルベルは先程以上に虫たちを切り捨てていく。それでも虫たちに死ぬ恐怖はないのか、炎を振り回していても、いくらでも飛んで来ては噛み付き、毒針で刺そうとしてくる。その虫達を全て炎で焼き払った後には黒い灰が風に舞って行った。


 しばらく進むとまた虫達が襲い掛かって来る。何度か虫達の妨害を受けると流石に二人も勘付いて来る。


「誘導されてるみたいだね」


「はい、俺もそんな感じがします」


 誘導するように現れる虫達を焼き払い、薙ぎ払っていくといつの間にかコレイラ山の上の方まで来ていた。今までたどった道は広くはないものの、人が二人並んでギリギリ歩けるほどの道幅しかない。


 その道の上には大きな穴の開いた洞窟が見えた。だが、その穴の前には襲撃してきたセンティービートよりも二回りほど大きな一匹が門番をしていた。


 二人に気が付いた大型センティービートはピクピクと触覚を震わせると、その大きな顎を広げて襲い掛かってきた。そのスピードは巨体の割に素早い。


「っ!」


 ジェリダは咄嗟に炎の壁をつくり出し、相手を怯ませようとした。だが、ジェリダの思惑は外れ、臆することなく大型センティービートは炎へと突っ込んできた。


 ジェリダは自分が噛み砕かれる事を想像し、息をのむ。と。


「ぐうっ!」


 ガチャン! という音がして大型センティービートの攻撃は間一髪、ルベルがその剣で防いだ。今だジェリだの掛けた炎の魔法は刀身を熱く燃やしているが、大型センティービートは怖がるどころか、逆に剣を折ろうとガチャガチャと顎を動かす。


「今のうちに後方へ!」


 ジェリダは知らずしらず前方へと出て戦闘をしていた。今まではジェリダの方がルベルよりも強く、それでも戦闘が成り立っていたが、この大型センティービート相手ではそれが通用しない。今はルベルも成長して強くなっている。ジェリダは頭を冷やしつつ、後方へと下がる。


「〈パワーリフレクション〉!」


 新たに覚えた剣技によって大型セティ―ビートを吹き飛ばす。この技はジェニオが最初の稽古でルベルに見せた技だった。〈パワーリフレクション〉は相手が自分よりも力が強い場合、その力を利用して同じだけの威力を持って攻撃する、というものだ。


 後ろへと吹き飛ばされる大型センティービートに追い打ちを掛けるようにしてジェリダは周りの岩を鋭く尖らせ、貫こうとする。それはこのコレイラ山でソルジャーゴブリンを狩った時に使った岩の棘だった。


 だが、一見柔らかそうに見える腹でも、硬い甲殻に守られてしまう。無暗に攻撃しても無駄だ。それを考慮してジェリダは甲殻と甲殻の隙間を狙って攻撃する事にした。


「ギュィィイイイイ!」


 戦闘の緊張感で細かいコントロールが全て上手くはいかなかったが、大型センティービートの体の三か所に突き刺すことができた。棘は体の後ろの方を縫い留める。大型セティ―ビートはそれをどうにかして引き抜こうと、ジェリダ達から視線を外し、棘の方へと捻る。その隙を逃すはずもなく、畳掛けるようにしてジェリダは前方の体にも岩の棘を突き刺す。


「ギュイイイ! ギュギギイイイ!」


 U字状に体を縫い留められた大型セティ―ビートは痛みに体をのたうたせる。だが、棘はより一層身体に食い込むだけだ。


「ルベル!」


「はい!」


 ここに来るまでに話し合ったセンティービートの急所目掛け、ルベルは走った。


 よくセンティービートは大きなムカデと表現される事が多いが正確にはそれは間違いである。姿は同じでもムカデは節足動物、センティービートは昆虫型魔物。魔物虫という分類だ。今まで二人が倒してきた虫達は全て魔物虫だったのだ。それらの特徴は二つ。どんな虫よりも大型である事。そして、頭部に必ず急所である器官があるという事だ。


「はぁぁぁあああああ!!」


 上へと飛び、勢いを付けてルベルは大型センティービートの脳天へと剣を突き刺す。そしてすぐに飛びのくと、痛みに悲鳴を上げる口からジェリダの纏う炎の蛇が体内へと侵入する。


「ギギギギギ! ギュギギギ…ギ、ギ、ギィ……」


 じたばたと体内を焼かれる痛みと熱さに何とも言えない悲鳴をあげると、やがてシュウシュウと煙を出しながら力尽き、動かなくなった。辺りに肉が焦げるような匂いが漂う。


 ルベルは剣に付着していた青色の血液を剣を一振りして払うと、鞘に納める。


「怪我はないですか、ジェリダ様」


「大丈夫。守ってくれてありがとう」


「当然の事です。これだけの大物を門番にしていたのですから、ここがあの男の住処ではないかと思いますが…」


「罠ならまた探せばいいよ。とにかく中に入って確かめよう」


 ジェリダは暗い洞窟内を照らすため、光る球体を魔法でつくり出すとそれを浮遊させる。洞窟内は緩やかな下り坂だった。行動内は以前に鉱石を取るためのものだったらしく、照らされた壁などに少しキラキラと輝く鉱石の欠片があるのが分かる。


 コツリ、カツリと二人の歩く足音が洞窟内に響く。下り坂で長いからか、少し中は湿っていた。それは、アオイに逃げて来た場所を訊いた時に言っていた特徴と一致していた。


「意外と長いね」


「元からこんなに長くはなかったでしょう。所々、最近削ったみたいに小さな削り跡が残されていますから」


 長く感じるのは一本道という事もあるだろうが、ルベルが指摘するように、道の端には新たに削られて道を作ったような岩や土が小さな山になっている。


それからは会話することなく、五分ほど歩いただろうか。前方にぼんやりとした明かりが視認できた。その距離まで来るとジェリダの聴覚に二人分の呼吸の音と、無数に蠢く昆虫型魔物達の足音が聴こえる。


 二人は視線を交わし、いつでも戦闘ができるようにそれぞれの武器に手を掛けておく。そして、二人は同時に明かりのともるその空間に踏み込んだ。


「何これ……」


 思わずジェリダはそうこぼした。その空間は丸く広い部屋になっていた。一つだけある机の上を三本の蝋燭が照らす。その明かりだけで見える範囲に二人は絶句した。


 その空間の天井からは人の手や足がぶら下がっていた。いや、それだけではない。一人の少女が首、手、足、に円形の金具を肉に深々と通され、そこから操り人形のように宙吊りにされていた。


 明かりの届く部屋の隅にはまるでお姫様のように沢山のフリルの付いたドレスに身を包み、綺麗に着飾った少女が椅子に座っている。だが、体のあちこちに縫い目が見える。その皮膚の色は斑のように違っていた。恐らく別人の皮膚をいくつも縫い合わせたのだろう。少女は当然、死んでいる。部屋には甘い死臭が漂っていた。


 そんな少女の隣にアオイが椅子に拘束されて座っていた。目を閉じて微動だにしないが、ジェリダの聴覚はずっとアオイの呼吸が聞こえている。だが、もう一つの呼吸音、ドロテオは唐突に姿を現した。


「あぁ、貴方達がここにいるという事は私の可愛いエンティリオスちゃんがやられれてしまったという事なんですねぇ。ああ、私は悲しいですよぉ」


 悲しいと、そういうドロテオだが、口元とは笑っている。喋り方や場所がより一層、ドロテオという男の異常さを際立たせる。


「まあ、標本にでもすればいいですかねぇ? あぁ、でも体がばらばらだったらどうしましょうかぁ」

 

 二人はあからさまに表情を歪めてドロテオを見る。それでもジェリダは男の実力を測るために鑑定を使う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前 ドロテオ・アーデン

職業 虫使い(バクテイマー)・魔術師

種族 人間

年齢 不明

称号 明けの塔幹部

レベル 48

HP 1854

MP 1600

《スキル》

調教 LV 10

支配 LV 9

洗脳 LV 10

魔術基礎 LV 7

魔力感知 LV 5

魔法感知 LV 5

隠蔽 LV 8

《固有スキル》

なし

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(明けの塔? 何かの冒険者パーティーの名前?)


 ジェリダが鑑定を使う中で称号に何かある時はその人物の二つ名や、役職でも管理職などについている場合に称号が表示されるということを学んでいた。それは冒険者パーティーでも同じことで、大きな冒険者パーティーに所属している者は幹部メンバーなどがいる。そういう冒険者の称号にはドロテオと同じような表示がされるのだ。


「おやおやぁ? もしかして貴女、私のパラメーターを見ています? 貴女の目に魔力を感じますねぇ。私の隠蔽スキルより貴女の鑑定か解析スキルが上のようですねぇ」


 自分のパラメーター、つまりは情報を観られたにもかかわらず、ドロテオは飄々としていた。そこで、ジェリダはドロテオに気になっていた事を問いかけた。


「ここ最近、五人の冒険者が死んだんだけど、もしかしてあなたの仕業?」


 ドロテオはその質問が意外だったのか、一瞬キョトンとした表情をして、突然笑いだす。


「あははははぁ! 一体真剣な表情で何を聞いて来るのかと思えば! えぇ、あの冒険者達は腕試し兼、魔物虫達のご飯ですよぉ。この町のCランク冒険者がどの程度のものか知りたかったのでぇ。そしたらいとも簡単に死ぬんですから、拍子抜けしましたぁ」


 ぐるぐると濁った目でドロテオは嗤う。


「まぁ、貴女は今のランクよりも実力は上のようですし? 貴女を調べていてとても面白そうだとは思っていましたが、直接話すともっと興味が沸いてきますよぉ!」


 興奮するドロテオに不快感を露わにしたジェリダは、努めて冷静に言葉を続ける。


「私を調べていたってどういうこと」


「おや、あまりにも興奮したせいで喋ってしまいましたかぁ。ま、いいでしょう。貴女はある名もない村で死霊魔術を使う男を殺した事を覚えていますかぁ?」


 ジェリダは死霊魔術を使う男という言葉にピクリと体を震わせた。忘れるはずもない。あの晩、ジェリダの人生の全てが変わったのだから。


「あの男が貴女のような子供に殺されたのはただただ、情けない話なのですが、貴女が我々の顔に泥を塗った事は許されない事なのですよぉ。だから……貴女を始末するのですよ!」


 突然大声を出したかと思うと、ドロテオはパンと手を打ち鳴らす。すると、それを合図にどこからともなく魔物虫が溢れ出す。ブンブンと蜂のような不快な羽音を響かせてジェリダとルベルに飛んでいく。


 その時、ジェリダの表情は。




 嗤っていた。




次は2日後の4月14日21時に更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ