第18話
予約の日時を間違えたため、遅くなって申し訳ありません。
「お、お前がまさか私を攫った……!」
「ご名答ですよぉ。さぁ、センティービートたちぃ、その女を連れて来なさい」
ドロテオという男がそう指示すると二体のセンティービートは一斉にアオイへと襲い掛かり、その体に巻きついて拘束した。
「くそっ! はなせっ……! うぐ!」
「させるか!」
ルベルはセンティービートへと剣を振りかざす。するとどこからか、もう一体のセンティービートが現れてルベルの行く手を遮る。
「〈モーメントランジ〉ッ!」
三体目のセンティービートへと剣技を使う。ここ最近の稽古で多少なりとスピードは上がっている。素早い剣の動きをセンティービートは見切れない。その攻撃はその体を両断するはずだった。だが、その攻撃は弾かれる。
「なにっ!」
予想外のことにルベルは驚く。剣を持つ腕が痺れる。センティービートは自身の体を盾にしてルベルの剣を防いだのだ。その体の硬さたるや、まるで鋼のようだった。
「ではこの子は貰っていきますねぇ。次は貴女を攫いに来ますぅ。あぁ、もし貴女から来られるのでしたら、コレイラ山の洞窟の何処かにいますのでぇ。それではさようならぁ」
センティービートに拘束されたアオイはいつの間にかドロテオの元に運ばれ、気絶させられていた。
「待て!」
ジェリダは虫が苦手であろう炎の蛇をドロテオへ走らせる。だが、あと一歩の所で大きな蜂の昆虫、ビックビーがその身に炎の蛇を受け、焼け落ちる。もう一度ジェリダが炎の蛇を向かわせようとした時にはドロテオは多くの虫たちによって、彼方へと飛んで行っていた。
残ったセンティービートは殿は務めたとばかりに壁や床に同化して、窓から姿を消す。後には嵐が去ったような荒れた部屋が残るのみだった。
「くそっ!」
ルベルは口汚く悔しさを吐き捨てた。稽古を付けて貰っているから、相手は虫だから。そんな驕りが自分の中にあったと自覚がある。ルベルは自分の愚かさと無色さに唇を噛みしめる。
「……るよ」
「え……」
「追いかけるよ。あの男が次に私を狙うならその前にあの男を殺してやる」
そのジェリダの目は憎悪に燃えていた。力があるはずの自分がブレイブに続き、あんなひょろ長い男に傷一つ負わせられなかったことが、悔しい。侮られているのが許せない。
ジェリダが怒っているのはアオイを連れ去られた、ということではなかった。自分がやられたからやり返す。自分に害をなすなら徹底的に排除する。それがジェリダの中で燃え盛る憎悪の正体だった。ルベルはそれに気が付き、また悲しげな表情をする。ここまでジェリダは歪んでいる。何処かが普通の人とズレている。それがまだルベルの中では受け入れ難いものだった。
ルベルの表情には気が付かず、ジェリダは部屋を出て行く。それを慌ててルベルは追いかける。
「待ってください! また殺すんですか!」
ジェリダはその言葉で足を止めた。だが。
「そっか、約束だもんね。じゃあ、あのドロテオとか言う男をもう二度と動けないような体にしよう。それならいいよね?」
ニコリと、何の惑いもなくそう言ってのけたジェリダは、再びルベルに背を向けて階段を下りて行く。ルベルは一瞬唖然とし、パンッと自分の頬を叩いた。
(自分の主はジェリダ様だ。なら、俺があの人のすることに戸惑ってどうする…!)
今度こそ、ルベルはジェリダのこの歪みを受け入れる覚悟を決めた。ルベルはジェリダと共にドロテオが言っていたコレイラ山へ向かった。
「ほーう、まさか本当にこちらに向かって来るとは……。しかもすぐに追って来るなんて、面白い子ですねぇ。自分の力に自信があるのか、それともただの馬鹿なのか……。フフフフフ、いいですねぇ、そそりますよぉ」
既にコレイラ山の洞窟に帰り着いていたドロテオは、ジェリダたちの家の近くに様子見として潜ませておいた虫の目を通して行動を視ていた。
「この分ならすぐにこの場所を見つけてしまいそうですねぇ。ここは分かりやすく、虫たちの妨害で道案内とさせて貰いましょう……。フフフフフ」
ぞろぞろと洞窟内を這いまわっていた虫たちにドロテオは指示を出し、それぞれを洞窟への道案内のように妨害させる場所へと向かわせる。この妨害に当たれば自然と洞窟へ導かれる仕組みだ。
「さぁ、あの子はどんな悲鳴を聞かせてくれるのでしょうねぇ……」
喜悦に満ちた顔でドロテオは洞窟へと向かって来るジェリダを視た。その体を捉え、虫の毒や薬で同実験をしようかと様々な妄想を巡らせるのだった。
次は4月8日21時更新です。
変更
更新を都合により明日、4月9日21時に変更いたします。すみません。
変更
すみません、また更新日の変更です。ただ今腹痛で体調がが優れず、文を長く書ける状態ではないため4月12日に変更いたします。
更新を楽しみにしていた方々、本当に申し訳ないです。