第17話
流れの調節したらこんなに短くなってしまって申し訳ないです。
いよいよ、あの男が動きます。
ルベルが食材を買って来て一つ問題が起きた。
「料理が出来ない……」
ルベルとジェリダの二人は料理というものを作ったことが今までになかった。というより、何かを焼いたりしたことはあるが、料理と名のつく物を作った経験がなかったのだ。どちらかが料理をできるだろうと考えていたのだが、両方ができないは思わなかったのだ。
「どうしたのだ? 料理ができないのか? ならば私がやろう」
「あなたは料理ができるのですか?」
「簡単な物ならな。肉と野菜はある……。調味料は塩とコショウぐらいなものか。よし、どうにかなりそうだな」
調理場の把握を一通り済ませたアオイはさっそく料理を作りにかかる。この時ルベルは稽古の時間が近づいてきたので中央区へと向かった。
「そうだ、調味料がないって言ってるから帰りに買って来てもらってもいい?」
「分かりました」
ルベルは駆け足で中央区の方へと稽古に向かって行った。それを待つ間に二人は調理を開始することにした。
「何か手伝うことはない?」
「包丁は使えるか? それで野菜と肉を食べやすい大きさに切ってくれ」
「分かった」
二人で使ってもまだ余裕のある調理場で、ジェリダは料理の手伝いをした。ジェリダは包丁をナイフのような持ち方をするので、アオイに怖い! と言われて正しい持ち方に直されたりしていた。手際のいいアオイに料理を教えて貰い、ルベルが返ってくる時間丁度に料理が完成した。
今日もルベルはボロボロだったが昨日ほどではなかった。ポーチを買うついでに立ち寄った服屋で何着か買った練習着から着替えて、ルベルは料理を運ぶ手伝いをする。
作った料理はルベルが適当に買って来た食材とこの家にあった最低限の調味料で作った二品だった。野菜と肉を塩コショウで味付けした野菜炒めと、肉と野菜のコクと甘みで作った簡単なスープだった。
椅子が四脚あったのでルベルとジェリダが隣でアオイは反対側に座って食事にする。
「いただきます」
「それは何?」
アオイが手を合わせていただきますと言うと、ルベルとジェリダの二人は不思議そうな顔をする。
「これはワ国で食事の前に行う食事に感謝する言葉と行動だ。食べ終わった時はごちそうさまでした、と言う。私たちの糧となるために死んだ動物や野菜、それを作った人たち全てに、こうして感謝を述べるんだ」
「へー、とてもいい文化だね」
ホロルの町や今いる家の国、フィルム大国とステリド国はもちろん、北に位置するカラル国でも食事の前に何かするということはない。この世界でも珍しく、ワ国は食事の際に感謝を述べる。
そんな互いの国の話をしたりしながら楽しく食事の時間は過ぎた。食べ終わった後はまた三人で洗い物をする。
「アオイちゃんは――」
「アオイで構わない。私はそう呼ばれる方が好きだ」
「分かった。アオイは何で料理ができるの?」
「ワ国では女が基本料理などの家事をするんだ。私は少し特殊なのだが、最初は女としてそういった家事や裁縫を簡単に教えて貰った。だが、すぐにある事情があって男として育てられた。剣の稽古ばかりになったよ」
(だから喋り方が男の人っぽいのか)
アオイの喋りは男のように不遜というか力強い。それは男として育てられたからだという理由にジェリダは納得する。
「剣の稽古をしていたということは剣術が使えるのですか?」
ルベルは今、剣術について稽古を付けて貰っているルベルにとっては興味のある話だ。だが、アオイは首を横に振る。
「私が使うのは剣術は剣術だが、抜刀術と二刀流だ。ほとんど抜刀術の方を私は使っているが、剣術とは全然足運びや動作が違う。何より、剣は刀という物を使う。ワ国の武器はこれが主流だ」
「今その剣は?」
「捕らわれた時に奪われてどこにあるのか分からない」
「そっか。私、刀って言うのを見たことがないからいつか見てみたいな~」
ここの主流はルベルが使っているようなロングソードがほとんどだ。あとは弓や槍もいるが、冒険者の剣術が使える者は、一番扱いの簡単なロングソードを選ぶ。探せばアオイと同じ国の出身の者がいるかもしれないが、今の所ギルドでも刀を持つ冒険者をジェリダは見たことがない。どんな戦闘をするのか見てみたいと思っていた。
そんな話をしたり、全員が風呂に入ると時間はそろそろ寝る時刻になっていた。今日はアオイのこともあり、この家で初めて寝ることになるため、部屋割りを決めることにした。それと一緒に二階を見ていなかったので確認して部屋を決める。
「二階の北の方に並んで部屋が丁度三つあるからそこにしようか。真ん中だけベッドが二人寝れるみたいだけど、お客さんだしアオイが行きなよ」
「いや、そんな大層な部屋を渡されても申し訳がない!」
「大丈夫。私たちは寝床は地面でもいいぐらいだから」
最近はベッドで寝ていたが、もともと二人とも地べたで寝るような生活の方が長かったのだ。まだ床で寝ても体がいたくならない自信があった。
それに、アオイの話を聞いている限りどうも、アオイはいい所の出なのではないかと思う節がいくつかあった。三部屋とも家具の配置は変わらないが、少し大きな部屋にした方が落ち着くだろう。ルベルとジェリダは逆に落ち着かないのだ。
「じゃあおやすみ」
ルベルは一番左、真ん中にアオイ、右端にジェリダの部屋割りで就寝することになった。部屋は本当に掃除が行き届いていたため、特に掃除をすることなく眠ることができる。ギルドの部屋よりも柔らかなベッドにもぐってジェリダは目を閉じ、眠りに着いた。
三人が寝静まってどれ程が経っただろうか。ふと、ジェリダは何かの気配を感じ取って跳び起きた。そして、息を潜めて索敵を行う。まだ範囲は狭いが階段付近まで気配を感じ取れる。それと同時に耳も澄ませる。
微かにだがカサカサと何かが歩く音が聞こえる。それも一つではない。音の発生源はいくつかあるようだ。と、その時。
「わああああ!」
「!」
隣の部屋でアオイの叫び声が聞こえた。ジェリダはすぐに自身の杖を持って隣の部屋に飛び込む。
「アオイ! っつ!?」
飛び込んだアオイの部屋には大きなセンティービートが二体、アオイのいるベッドを囲んでいた。その大きさたるや二メートル近くもある巨体だった。ワサワサとオレンジ色の手足を忙しなく動かし、大きな顎でアオイを狙っている。
センティービートは窓から入ったらしく、窓が開け放たれ、カーテンが風で揺れている。
「これは……!」
ジェリダと同じく部屋に飛び込んで来たルベルも部屋の状況に言葉を無くす。すると、窓にフッと影が落ちた。
そこにいたのは黒衣を羽織った眼鏡の男だった。突然現れた男はニヤリと笑う。コツン、と窓枠に足を掛けて男は中に入ってくる。ここは二階だ。そこへ小さな虫を搔き集め、足場にして男は中に入って来たのだ。
そして男は恭しく一礼した。
「お初にお目にかかります。私の名はドロテオ。この狐獣人を引き取りにまいりましたぁ」
次は4月7日21時に更新です。