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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第一章 新米冒険者編
13/88

第13話


 ルベルの剣術指南の願いを受け入れてくれたジェニオだが、用事が色々あるので夕方からの数時間だけ教えて貰えるということになった。そのためクエストに割く時間などは変わらない。話が終わるとジェニオはすぐに帰って行った。


「んじゃ、俺も帰るわ。俺も用事があるんでな」


 ジェニオが帰るとブレイブも席を立ってさっさと帰って行く。あんた如きが何の用事があるのかと言おうとしたジェリダだったが口を噤んだ。また喧嘩になっても面倒だからだ。


 二人はいつものカウンターへと行くといつもの様に朝食を摂る。その辺りから食堂は人が増えて来た。その冒険者たちの話は勿論、昨日起こった事件の話しばかりだった。スキルの訓練もかねて冒険者たちが話す情報に耳を澄ませてみるが、特に目新しい情報はなかった。


 そのあと一階でいつものようにクエストを受けると、ふと、昨日の事件ですっかり忘れていたが、ゴブリンアンデットが持ってきたあの薄紫色の鉱石についてリリィに聞くのを思い出した。


「あのリリィさん、これ、なんだか分かりますか?」


「何ですか?」


 ジェリダはリリィにその鉱石を手渡す。一度ジェリダがその鉱石に鑑定を使ったが、ただ魔力を含んだ鉱石というのが分かっただけだった。リリィはそれを手に乗せてああ、と声を出した。


「これはいわゆる魔石と言われるものですね。この魔石はここ数十年で発見されたもので、まだあまり冒険者たちの間には広まっていない物なんですが、どうやら錬金術師の方々は古くからこれを使っているらしいんです。

 でも錬金術ギルドとは仲が悪いのでこちらが買い取って錬金術ギルドに売る、ということが出来ないんです。なので、買取りが出来ないんですよ。」


「いや、大丈夫です。ありがとうございました」


「お力になれず、すみません」


 ギルドを出るとジェリダはトールの森ではなく北区へと向かった。


「ジェリダ様、北区に何か用事でもあるんですか?」


「うん、ちょっとノエズさんにこの魔石について知らないか聞いてみようと思って」


 以前武器を買った際にノエズは花や鉱石についての知識を少なからず持っていた。なのでノエズが魔石について何か知らないかと考えたのだ。北区に近づくとまだ朝早いというのに、既に槌を振るう甲高い音があちこちから響いていた。


 ジェリダは迷うことなくノエズの店へ行くと少し眠たそうな目をしたロイがまた店番をしていた。


「おはよう、ロイ。お母さんはいる?」


「あ! ジェリダさん! いらっしゃいませ! おかあさんをいまよんできます」


 ロイはたたったと走って工房に入るとすぐにノエズを呼んで来てくれた。


「いらっしゃい! どうしたんだい、こんな朝早くに。武器でも欠けたかい?」


「いや、これを見てもらいたくって」


 そういってジェリダは鞄から魔石を取り出してノエズに手渡す。ノエズは魔石を一目見るとすぐに魔石だと言い当てる。


「魔石とはまた珍しいね。この町はテイマーの冒険者が少ないから滅多に魔石なんて見かけないんだけどね。あんたは虫か魔獣、魔物のテイマーにでもなったのかい?」


「いえ、まだ職業は魔法使いだけです。でもなんで、テイマーが関係するんですか?」


「ああ、それは簡単なことさ。魔石は何故か魔物が魔物から取り出さない限り手に入らない。だから、その魔物を使役できるテイマーにでもなったのかと思ったんだよ」


(なるほど。だから私たちが普通に魔物を狩っても魔石が取り出せなくて、あのゴブリンアンデットには魔石を取り出せたんだ)


「でもこの魔石の加工方法を知ってるのは錬金術師だけらしいんだ。錬金術師が多く所属してる錬金術ギルドは秘密主義だからか、冒険者ギルドと鍛冶ギルドとは仲が悪いんだ。技術の秘匿、それが大事なんだとさ。だから魔石を冒険者が持っていても何にもならないのさ」


「そんな関係があるんですね」


 冒険者ギルドと鍛冶ギルドはその性質上、仲がいいのだが、冒険者ギルドや鍛冶ギルドができるよりも前から、錬金術師の集まりというのはあった。今は錬金術ギルドと名乗っているが、古くからの技術を他に伝えないため、秘密主義なのだという。


 だが、ギルドである以上、収入がないとやっていけない。そこで錬金術ギルドが独占して売っている物がポーションである。ポーションは回復魔法などの効果と同じで傷口に掛けたり、飲んだりすると怪我や体力の回復ができるという優れ物だ。


 しかし、優れ物なだけに値段はかなり高い。一番低い価格の物でも銀貨十枚ほどする。それが買えるのは一般の冒険者ではなく、Bランク以上の冒険者の一部や貴族などの金持ちお抱え傭兵者達だけである。ポーションを使えば病気の快復にも繋がるらしいが、一般人にそんな大金を出すのは中々に難しい。


「ま、その魔石を売りに行くならこの町にも一応ある錬金術ギルドの所に行ってみなよ。トールの森へ行くときに西門をくぐるでしょ。その近くに錬金術ギルドの支店みたいなのがあるから行ってごらん。もしかしたら買い取ってくれるかもしれないよ」


「分かりました。ありがとうございます。また装備で何かあれば来ますね」


「ああ、待ってるよ」


 ジェリダはさっそく錬金術ギルドの支店へと行ってみることにした。どうせトールの森のついでだとダメもとで向かうことにするが、一つ思い出した。


「あ、あのゴブリンアンデットとの約束があったんだった。先にそっちを済ませようか。約束のある方が優先だよね」


「待たせていても特に問題はないと思いますが……」


「そんな冷たいこと言わないで」


 少し拗ねたようなルベルをたしなめて、先にトールの森へ行き先を変更する。だが、トールの森について約束の場所に行ったジェリダはその場で硬直する。ジェリダの目の前にはゴブリンアンデットの切り離された首と胴体が転がっていた。その表情はぽかんとしていて、反撃する前に首を落とされたようだった。


「あーあ。だれか他の冒険者に見つかったのかな。薬草があったっぽい場所から薬草が盗って行かれてるし」


 最初に驚いた反応を見せたジェリダだが、発せられた言葉は淡々としたものだった。ルベルはまた少し悲しげな表情を浮かべる。その表情はゴブリンアンデットへ向けたものなのか、ジェリダへ向けたものなのか。


「流石に頭を飛ばされたら死霊魔法をまたかけてもだめなのか」


 手を翳してジェリダは死霊魔法を使うが首が斬り落とされたゴブリンアンデットはピクリとも動かない。すると、ジェリダはゴブリンアンデットに貸し与えていたナイフを手に取ると、ゴブリンアンデットの腕にぐさりと突き刺した。


「ジェリダ様、一体何を」


「んー? ちょっと食事。あんまりお腹空いてないからちゃんと発動するかな」


 そういうとゴブリンアンデットの肉を一部剥ぎ取り、口に運ぶ。


「なっ! ジェリダ様それはお止めください!」


「そっか、ルベルは私がこうして食べるのを見るのは初めてだっけ。でも、このゴブリンアンデット、黒魔術を持ってたから欲しいなと思って。うーん、あんまり美味しいとは言えないね、やっぱり」


 肉を削いでは口に運ぶジェリダ。その悪食スキルを使ったジェリダの行動にルベルは慄いて何も言えない。嫌悪感は抱かないが、恐怖を感じていた。魔物の肉を何のためらいなく口にするジェリダに、奴隷だった自分の方が余程、恵まれていたのではないかとさえ思う。


 ゴブリンの二の腕を全て食べたジェリダはパラメーターを確認してみる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前 ジェリダ

職業 魔法使い

種族 人間

年齢 13歳

称号 なし

LV 15

HP 350

MP 465

《スキル》

鑑定 LV 9

魔法基礎 LV 9

回復魔法 LV 9

死霊魔法 LV 8

付与魔法 LV 8

格闘術 LV 1

拳術 LV 2

護身術 LV 1

威圧 LV 2

体術 LV 1

剛腕 LV 2

柔術 LV 1

手加減 LV 1

足音遮断 LV 1

索敵 LV 1

夜目 LV 1

回避 LV 1

投擲 LV 1

暗殺術 LV 1

短剣術 LV 2 up

聴覚強化 LV 1

回復詠唱 LV 1

神聖魔法 LV 1

白魔法 LV 1

無詠唱 LV 1

自己回復 LV 1

黒魔法 LV 1 new

《固有スキル》

悪食 LV 10

――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あ、上手くいってる。良かった」


 ゴブリンアンデットから得た黒魔法が新たに追加され、短剣術のレベルが一つ上がっていた。


 ジェリダは特にゴブリンアンデットの死を悲しまなかった。食べるのも食事で豚や鳥の肉を食べるのと同じような感じだった。ルベルは痛みを堪えるように奥歯にぐっと力を入れる。そして、一つ頭を振るといつもの表情に戻る。


「どうしますか? 犯人を見つけて盗られたものを返してもらうか、また新たに薬草を摘むか」


「そうだねじゃあ――ゴフッ! ガハッ!」


「ジェリダ様!?」


 ジェリダは突然苦しみだしたかと思えば口から泡と血を吐く。喉や腹が焼けるように熱かった。じりじりと体の中から焼かれているようだった。その場に膝を付いたジェリダにルベルが駆け寄る。肩を掴んでジェリダの体を支える。


「ジェリダ様! どうしたのですか! しっかりしてください!」


 「ごほっ、ごほっ!」


 血が溢れるのが止まらない。次第に手足が痺れて目の前もぼんやりとしてくる。やばい、そう思った時、突然体を焼くような暑さも痺れも、視界の歪みも全てが消える。


「ジェリダ様!? どうしたのですか!」


「治った……」


「は?」


「苦しいのが全部なくなった……」


 ジェリダ自身も何が起きたのか訳が分からないと言った表情だった。茫然とルベルを見上げていたのだが、突然ジェリダはハッとする。


「もしかして、これは悪食の能力?」


 ジェリダの持つ悪食は食べた者の特徴を得たり、耐性を得ることができる。その能力のお陰でゴブリンアンデットに仕組まれていた毒に耐性が付き、症状が消えたのだろう。


「能力ですか? なら、今症状が消えたのはその能力で耐性ができたから…。あのゴブリンアンデットには何か毒が仕込まれていたのですか」


「そうみたい。まあ、治ったからいいけど」


「よくありません!!」


 突然ルベルは大きな声で怒鳴った。至近距離だったためジェリダの体が思わず跳ねる。ルベルはもう我慢の限界だと言わんばかりの表情だった。


「いいですかジェリダ様! 今後一切能力が欲しいからと言って簡単に魔物を口にしないでください。いいですね!」


「え……」


「いいですね!」


「……はーい」


 ルベルの言うことに納得できないジェリダだったが、念を押して問いかけてくるのでしぶしぶ、本当に嫌そうにジェリダは返事をする。だが、間延びした返事が気に入らないのか、じっとジェリダを見る。


「あーもー! いいじゃない! 毒を食べればその毒に対して耐性が付くんだし、二度目からはその毒が効かなくなるんだよ!」


「そうだとしても、自分の体を大事にしてください! ジェリダ様は自分自身に頓着が無さすぎる! いくら優れた能力を持っていようと、命は一つだけなのですよ!」


 パタリと、ジェリダの頬にルベルの涙が落ちた。ルベルのその言葉はとても重みがあった。家族を失った悲しみは、ルベルの心に深く刻まれているのだ。涙で震える声でルベルは続ける。


「俺は、もう二度と、誰かを失いたくないのです。俺はまた大切な人を、目の前で亡くすのかと――」


「……ごめん、私が無神経だった。大丈夫。絶対にルベルの目の前で死んだりしないから」


 そう言ってジェリダはルベルを抱きしめてやる。歳はルベルの方が上なのだが、ルベルはよく泣く。心が優しく、感情が豊かなのだろう。そんなルベルを少し、ジェリダは羨ましく思った。


「私は今のルベルみたいに泣くことはできない。他の人と少し自分がズレてるのは分かってる。けどもう、自分の命を大切にしないようなことはしないから。ね。だから泣き止んで?」


「っう…すみま、せん……」


 ルベルはゴシゴシと涙を袖で拭う。


「あーあー、そんなに擦ったら赤くなるよ」


 ジェリダが言った時にはもう遅く、ルベルの目の周りは赤くなってしまった。


「あはは、私よりルベルの方が年上なのに、なんだか大きな弟を持ったみたい」


「う……」


 ジェリダに笑われて恥ずかしくなったのかルベルの顔が赤く染まる。それを見てジェリダはさらに笑う。


「あはははは。笑ったら元気でたや。よし、錬金術ギルドに行って、またここに戻って来るのも面倒だし、せめて薬草採取クエストだけでもこなしてから行こうか」


「はい」


 昨日と同じようにソルジャーゴブリンのクエストも受けていたのだが、その日にこなさなくてはいけないということではないので明日に回すことにした。


 近くに生えていた薬草を適当に摘み、二人は錬金術ギルドに向かった。正確な場所が分からなかったので西門の門番に場所を聞くと門に沿って行って、突き当りだと教えて貰う。


 教わった通りに行ってみると突き当りに小さな店があった。看板にも錬金術ギルドと書いてある。見た目からして閑古鳥が鳴いていそうな雰囲気だった。ドアを開けると鈴が綺麗な音を奏でる。だが、カウンターと思われるところには誰も座っていない。誰かが来る気配もない。


「留守なんでしょうか?」


「でも、店の方は開いてたし、戸締りしないで行くなんて不用心でしょ」


 店の中には錬金術に関連のあると思う複雑な装置や道具が置かれている。中には鉱石もまとめて飾られており、太陽に反射してキラキラしている。


「すみませーん、誰かいませんかー」


 ジェリダが声を出すと、奥でガタン、という何かが落ちる音がした。そうかと思うとドタドタと足音がし、カウンター近くにあったドアが開いた。


「あーはいはい、なんでしょう」


 出て来たのは若い青年だった。左目を隠すように伸ばし、少しだぶだぶのシャツを着ている。あまり見かけない青に近い髪色をしていた。歳はまだルベルに近いのではないか。寝ていたのか客の目の前だというのに大きな欠伸をしている。そのだらしのない態度にルベルはムッとするが、ジェリダは気にせず魔石を取り出した。


「この石をここだったら買い取ってくれるかもって聞いたんですが」


「石? どんな――って魔石じゃん! これでしばらくは金に困らないな……」


 何やら小さな声でぼそぼそと言っているが、ジェリダの耳にはしっかりと聞こえている。そして、青年は何かを取り繕うように、一つ誤魔化しの咳を入れる。


「ゴホンッ。えーっと、魔石なら石貨三枚で買い取ってるよ」


(絶対にこいつ足元を見たな。錬金術師は魔石を唯一使う職業なんだから需要はあるはず。なのに、石貨三枚はおかしい)


 青年がぼそりと言っていた内容に金に困らないと言っていた。それはつまり、この青年にとっては魔石はかなりの価値があるということだ。


そして、この店が支店のならば、青年は買い取った魔石を本部にでも売るはず。そして、しばらくは金に困らない額を貰えるということは、自分に入って来る利潤を大きくするためにジェリダには石貨三枚で売ろうとしているのだろう。


「あっそ。石貨三枚ならいいや」


 ジェリダは素気無くそう言って店を出ようとした。すると、青年はサッと青くなって必死で引き留めようとする。


「ちょ、ちょっと待って! なら銅貨一枚! いや、三枚でどうだ!」


「そんな額もらってもな~。まいっか。これ買い取らなくていいからあげる」


「い、いいのか!?」


 ジェリダは魔石を青年に渡す。それを受け取った青年はパッと表情を輝かせる。その表情にジェリダは心の中でにやりと笑う。


「ならありがたく貰っておくぜ」


「よし、受け取ったね。おにーさん、タダより怖いものはないって知ってる? これ、貸し一つね」


「ハッ」


 今更、気が付いたのかとルベルは呆れる。ルベルは少しづつ主人のやることが分かってきた。恐らく、こういうだまし討ちみたいなことをするんだろうなと。一方のジェリダは面白いように青年が引っかかってにやにやしている。まるで獲物と肉食獣のように力関係がはっきり分かれた。


「やっぱかえ――――」


「さっき貰っちゃたんだから、大事にしてね? そんな貸しって言ってもしばらくは来ないと思うし、安心してその魔石をお金に換えてご飯でも食べてなよ」


「え、ホントに?」


(この人阿保なんじゃないだろうか。すごく騙されやすそう)


 青年のあまりの気楽さに逆に大丈夫か、と心配になるジェリダだった。




「あの人すごく能天気な人でしたね」


「ルベルもそう思う? でもね、多分あの人やるときはやる人だよ。後で存分に使ってあげなきゃ」


「次は何をするんですか……」


「んー、まだ正確には決まってないけどちょっとした取引をしたいなと思ってね。ま、こっちの準備が全然整ってないからまだかなり先のことになると思うけどね」


 ジェリダは何かを考えているようだが、ルベルにもまだ秘密のようでまだ教えて貰えなかった。そのジェリダのビジョンが後に冒険者ギルド、鍛冶ギルド、錬金術ギルドの三柱の改革につながるのは、まだ少し先の話。




次は4月1日21時更新です。

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