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悪食は最強のスキルです!  作者: 紅葉 紅葉
第一章 新米冒険者編
1/88

第1話


 そこは弱いものから淘汰されていく世界だ。


 食べる物もなく、ただ一日一日を過ごしていくのも弱肉強食の世界。


 その場所は国に見捨てられたとある小さな村。年寄りや体の弱かった者たちは一番先に死んでいった。残ったのは男とまだ元気な子供たちだけ。最初の内は協力して食べ物を分け合っていた。だが、その内に蓄えていた食料も殆ど底をつきだすと、自然と不満の声が高まりやがて自分が生き残るために奪い合いが起こるようになった。


 小さな子供たちは一人では大人に対抗できない。子供たちは知恵を働かせ、徒党を組んで必死に生き延びようとした。外に食料を取りに行こうにも、周りは殆ど赤土の痩せた土地で、ろくな獣も植物もない。


 枯れた木の根を齧る子供や大人たちは痩せ細っていった。そして、力尽きた者が出た時、それはその村の者たちにとって御馳走の日となる。


 そう、死んだ者の肉を食べるのだ。


 人は雑食ゆえに食えたものではない匂いがする。普通の思考なら食べる事はしないだろう。だが、ここは生き残るために奪い合う場所だ。皆その死体を夢中で食らった。その姿はさながら獣だった。空腹は人を獣へと変えてしまうのだ。


 そんな物たちの中に混じって小さな女の子が必死に死肉を貪っていた。彼女はその村で唯一生き残っている女の子だった。髪は伸び放題のぼさぼさで服もぼろ切れ同然だった。


 だが、その目だけは、生きているにもかかわらず死人の様な目をしている他の者たちとは違っていた。その瞳に世を恨む色を滲ませながら、絶対に自分だけはこの世界から抜け出してやるという意思に満ちていた。


 そんな彼女だからだろうか。神はその子供に才能を与えた。


 【悪食(あくじき)】というスキルを。




 ある日少女はもう元がどんな家だったか分からない程あばら家とかしたその場所で土の上に直に眠っていた。昼間は何も口にする事が出来なかった。無駄な体力を使わないために早々にあばら家に戻った少女は空腹を堪えて眠ったのだ。


 そんな夜。外から叫び声が上がった。少女は一瞬で覚醒して自分の気配を押し殺す。その警戒心は今まで過酷な環境の中を生き残るうえで身に着いたものだった。少女は用心深く、声のした方を家に空いた隙間から覗き見る。すると、外は阿鼻叫喚と化していた。


 どこからかやって来たアンデットの群れが村に住む者たちを殺して回っていた。逃げ惑う大人や子供を骸骨の姿をしたアンデットが、手にした弓や剣で殺していく。


 この村の者たちは戦う力も気力も無いために、ただただ逃げ惑う。すると、隙間から見える右側からアンデットではない生きた人間が歩いて来るのが見えた。


「はははは! 死霊魔法を使う練習場所にはもってこいの場所だなここは! 殺した分はアンデットにできるしな。あははははは!」


 声は男のものだった。どうやら魔法が使えるらしく、この場所で死霊魔法を使う実験場所として村の人々を殺しているようだった。しばらくして悲鳴が止んだ。恐らく少女以外のもの達は根こそぎアンデットに殺されてしまったのだろう。その時少女は殺されまいと息を殺していた。だが。


 ぐううううぅぅぅぅと、少女の腹が鳴った。こんな時でも人間腹がなる物なのだと少女は思った。そして、音のなった方を見た術者の男と少女の目が合った。


「おや、生き残りがいたか。行け」


 術者の男が短く命じるとアンデットは少女のいるあばら家目掛けて一斉に向かってきた。


「ひっ!」


 少女は裏の壁をけ破らんばかりに飛び出した。アンデットは少女が先ほどまで様子を窺っていた壁を剣で破壊しながら向かって来る。転がりそうになりながら少女は走った。必死に走っていると肩に鋭い痛みが走っる。 

 

 一瞬振り返ると弓を持ったアンデットが少女を狙っていた。さっきの痛みは矢が肩を掠っていったのだ。とっさに家の陰に隠れるため曲がる。そのすぐ後に弓矢が先ほど走っていた場所を射抜く。


 少女はその辺に転がっていた物をなぎ倒しながらアンデットの妨害をする。だが、小さな子供の抵抗など虫に刺された程度にしかアンデットには効いていない。


「ほらほらほら! 逃げろよ小娘! 死にたくなかったらなあ!」


 逃げる少女を術者の男は嘲笑う。自分がこの世界で一番の強者だと言わんばかりに愉悦に浸っている。少女はその男の声に、言葉に殺意を抱いた。ただ、こんな地獄のような場所で必死に生きていただけなのに、なぜこんな残酷な男に殺されなくてはいけないのかと。


 その時、少女の目にかつてこの村がまだ豊かだった頃に使っていたピッチフォークが目に入った。四本に分かれた鋭い先はずっと使わなかったせいで錆び付いているが、少女にとってそれは希望の光だった。家に建て掛けられていたそのピッチフォークを少女は素早く手に取った。


「お? 俺を殺しに来るのか? そんな小さな体で何が出来る」


「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」


 少女は必死だった。叫び声の様な声を発しながら男にピッチホークを掲げ、向かって行く。後ろからはアンデットが追ってくる。後戻りはできない。術者の男が懐から何かを取り出そうとしたその時、少女目掛けてアンデットが放った矢が狙いを外れて、男の左目に突き刺さった。


「ぎゃあああああ!!」


「やああああぁぁぁ!」


 少女は目を射抜かれて叫んだ男に勢いよくピッチフォークを突き刺した。


「があぁ、あ……う、そだ……」


 男は信じられないという目で少女を見ながら絶命した。すると、男が操っていたアンデットの動きがピタリと止まったかと思うと、ガラガラと崩れてただの骨になってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 少女は荒い息を吐きながら目の前で死んでいる男を見つめる。そして、村を見渡す。もしかしたらこの騒動が収まって出てくる者がいるかもしれないとじっと待ってみるが、誰も出てこない。この村で生き残ったのは少女だけになってしまったのだ。


「みんな死んじゃったのか……」


 特に悲しいという感情はなかった。この村ではいつ誰が死んでも不思議ではない環境だった。いちいち悲しんでいたら食事にありつけない。と、再び少女の腹が鳴った。


「お腹空いた……」


 少女は今自分が殺した術者の男を見る。村人たちは痩せて殆ど肉がいないが、今殺したこの男にはたっぷりと肉がついている。何を食べるのか選ぶまでもなかった。術者の男が来ていたローブや服を脱がしてその辺に置いておく。新しい服が手に入るのだ、汚すわけにはいかない。


 少女は一旦その場から離れて村人の中からある男を探す。その男は最初に死体を食おうと言った男で、ナイフを持っていた。それを少女は探しているのだ。目当ての男はすぐに見つかった。道にうつ伏せの状態で頭を射抜かれて死んでいた。何のためらいもなく少女はその男の死体を漁り、ナイフを拝借する。


 再び術者の男の元へ戻ると腹へ深くナイフを突き立てた。そこからは慣れた手付きで男の体を獣を捌くように切り裂いていく。食べる分だけ切り分けると少女は適当に集めて来た壊れた家の成れの果てに石を打ち合わせて火を起こした。パチパチと火が鳴り、大きくなると少女は捌いた肉を火に翳して炙る。


 人を焼いた時特有の匂いが少女の鼻を突く。だが、空腹の少女にとってその匂いは最高の肉にも勝るものだった。あらかた火が通ると少女はその肉を口に運ぶ。美味くはない。だが、生きて行くためにはこの肉を食べるしかない。無心で少女は肉を焼いては食らい、焼いては食らった。


 しばらくして十分な肉を口にし、腹が満たされた時、自分の体に変化が起きたのを少女は感じ取った。


「なに、この感覚……」


 その違和感は目の前にパラメーターが現れた事で理解できた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前 ジェリダ

職業 なし

種族 人間

年齢 13歳

称号 なし

LV 5

HP 64

MP 91

《スキル》

《固有スキル》


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「このパラメーターが見えるってことは私、スキルを持ったってこと? でも、本当は本を読まないと得られないものなんじゃないの?」


 この世界では一般的にスキルというものがある。スキルは特殊なインクと上で書かれた魔導書や冒険者ギルドなどで身につける事ができる。しかし、魔導書を読むには莫大な金がいる。冒険者ギルドでも手数料が取られる。普通の暮らしができる者にとってはすぐ支払える対価でも、この村に住む少女には到底払えるものではない。


 スキルは生活で役に立つものなどもあるが基本的には戦闘面でのスキルが多い。そのスキルを一つでも手に入れると自身のパラメーターを見る事ができるようになる。つまり、目の前にステータスが現れたと言う事は間違いなくたった今、少女はスキルを手にしたのだった。


 自身のパラメーターを見ながら少女――ジェリダはスキルと書かれた項目を見たいと考えた。すると、その思考に反応してパラメーターはスキル欄を開いた。


「わっ、パラメーターってこうやって使うのか。なるほど。で、私の得たスキルは……え?」


 ジェリダはパラメーターの使い方を理解して自身のスキルを確認すると、多くのスキルがそこには書かれていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《スキル》

鑑定 LV 1 new

魔法基礎 LV 1 new

回復魔法LV 1 new

死霊魔法 LV 1 new

付与魔法 LV 1 new

《固有スキル》

悪食あくじき LV 3 up

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「こんなにスキル私手に入れたの? 何があってこんなに……あれ、このあく、じき? っていうのだけ赤い色がついてる」


 一番最初に表示されている悪食というスキルだけ他のスキルとは違い赤い色で示されていた。それに、他のスキルよりもレベルが上がっていた。ジェリダはこの悪食がどんなものなのか詳細を知りたいと考えるとパラメーターが詳細を表示した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《悪食》

 自身が食べた者の能力や耐性を得ることが出来る固有スキル。食べるのは一部で構わない。自身の腹が満たされればスキルを得ることが出来る。

 相手のスキルが高くとも、自身に身に着くスキルはレベル1からとなる。同じスキルを持つ者を食すとレベルが1上がる。スキルは使用すればレベルが上がる。

 *魔物などからはスキルの他にその身体的特徴なども得られるため、あまり魔物を食すると人間の枠から離れてしまうため注意。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ジェリダはその詳細を見て気味の悪いスキルだとは思わなかった。むしろこれは、自分に与えられたチャンスなのだと思った。


「このスキル、私にはお似合いのスキルじゃない。今更、人以外のものを食べるのなんて抵抗なんてないし、人間なんていつでもやめてやる」


 ジェリダの目には喜びの色が混じっていた。ジェリダは起こした火に土を被せて消すと、自分の来ていたボロボロの服を脱ぎ、術者の男が着ていたぶかぶかの服を着る。男は身長があった方なので、ジェリダが上の服を着ると大きすぎてワンピースの様になってしまった。またその上からローブを羽織ってみるが、こちらは地面に付くほど長かった。そこで拝借したナイフで適当に長い部分を切り捨てる。


 ジェリダは術者の男の懐や腰に付けた鞄を漁る。すると懐からは金貨三枚と銀貨五枚、銅貨八枚が出て来た。ジェリダは金貨はもちろん銀貨や銅貨すら見た事がなかったため、思わず手に入った大金に目を丸くする。


「こんな大金持つの初めて……。この男もしかしていい所の坊っちゃんか何かか? ま、こんな奴より私が有効に使ってやる」


 巾着の中に貨幣を戻し、鞄の中身を確認する。するとある事に気が付いた。


「これ、魔法鞄じゃない!」


 魔法の鞄とは鞄の大きさは変わらず、中に堆積以上の物を入れる事の出来る名前の通り、魔法が掛けられた鞄だ。これも金のある一部のものしか手に入れる事の出来ない物だ。


「幸先が良いじゃないか、私! 一通りいい物が揃ってる。これがあれば町の方へ出られる」


 ジェリダはこの村から少し行った所にある町へと行こうと考えていた。おそらく術者の男もその町からやって来たのだろう。それだけ男の身に着けている物はいい物だらけだった。


 一通りジェリダが男から身ぐるみを剥いだ時には空が明るくなってきていた。その明るさに目を細めながら、ジェリダは初めて朝が心地よいものに感じられた。


「ここから私の人生は始まるんだ!」


 空に向かってジェリダは叫んだ。やっと手に入れたチャンス。ジェリダにとってこれが出発点となった。




第2話は3月16日21時に投稿します。

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