目が
私は気になったものは、自分で調べずにはいられない性格でした。
そんな性格が災いしたのかもしれません。
見えない望遠鏡の噂をご存知でしょうか?
私の住んでいる町の隣町……仮にA町としておきましょう。
A町の裏山にある展望台には、コインを入れて使う、観光用の双眼望遠鏡が置いてあります。
昔、小学校の遠足で行った事があるので、少しだけ記憶に残っています。
どうやらその望遠鏡が"見えない望遠鏡"らしいのです。
展望台の望遠鏡は、町が見渡せる南向きに、二基設置されています。ですが、夕暮れ時に訪れると、三基設置されている事があるそうなのです。そして、三機目の望遠鏡は、覗いても何も見えず、使った人は呪われてしまうという噂でした。
「えー。私そんなつまんない物見るために、連れてこられたのー?」
自分の呪われ具合を確かめるために連れてきた友人は、怪奇スポットに理解のない人でした。そういう人の方が、証人として説得力が出るので私としては、好都合だったのです。
展望台への道中は、友人の日頃の愚痴をひたすら聞かされるという、苦行でした。私は、見えない望遠鏡への期待だけで、もくもくと道を進みました。
日没が近づき、少しずつ辺りが赤く変わっていきます。
木々に囲まれたうす暗い道を抜けると、一気に景色が開けました。
展望台です。
私は、たまらず駆け出しました。
白い塗装がはがれたコンクリート製の建屋。さびた手すり。そして見るからに古い望遠鏡。いそいで数を数えます。
一、二……
二基。
思わず、望遠鏡をつかんだまま、その場に座り込んでしまいました。
「しょせん噂だからねー。普通に景色見たら? 結構いい眺めだよ」
友人に、このガッカリ感が伝わる事はないでしょう。
私は、せめて気分だけでも味わいたいという気持ちから、財布から百円玉を取り出して、手元の望遠鏡に放り込みました。
カツンと何か詰まったような音がしたのは、気のせいでしょうか。
「あれ?」
覗き込んだ先の景色は、真っ暗でした。
やっぱり、さっきの音は百円玉が詰まった音で、この古い望遠鏡は壊れていたのでしょう。
私は、望遠鏡を覗き込んだまま、本体を叩いてみました。振動で百円玉が落ちると思ったのです。
結果は、何も変わりませんでしたが。
すっかり落ち込んでしまった私をよそに、友人が嬉しそうな声をあげました。
「見て見て!」
「何?」
「あった、あったよ! こっちに、三つ目の望遠鏡!」
「えっ!? どこ?」
思わず顔を上げて望遠鏡の位置をたずねる私に、友人は少し間をおいて悲鳴をあげました。
私には、一体何があったのかわかりませんでした。
困惑する私に、友人は「目! 目! どうしたの!?」と騒ぎます。
何の事でしょう?
そんなことより、さっきからずっと景色が真っ暗になったままの状況を何とかしないと、確認のしようもありません。
私は自分の目をこすってみて、ようやく気付きました。
無かったのです。