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3、東都 赤夢区にて


 俺は片野かたの りく


 東都とうとの名門、御津門みつかど大学に通う二十歳。そしてこの異世界『エルダードリーム』に転生した転生者だ。


 前世の俺は、明らかに怪しい広告をうかつにもクリックしてしまい、成り行きから異世界を創造することになった。

 そんでもって創り出したこの異世界に転生したワケだ。


 この『エルダードリーム』は、日本の大正時代をベースに西洋ファンタジー文明を融合させた世界観を持っている。

 だから電車やラジオといったものがあったり、大学や近代的軍隊が存在したりするのだ。


 しかし、海の向こうの大陸が日本人が描く西洋ファンタジーのイメージそのままである。

 なので、大陸側の都市ではゴブリンやオークといった魔族が農業を営んでいたり、そうではない東都でも渡来してきたエルフやサキュバスなんかの精霊の姿が確認できる。


 またファンタジーの定番、『魔法』も大陸を中心に発達しているという。

 まあ、その辺詳しくは、おいおい話していくとしようか。


 俺は大陸の書物『Necr●n●mic●n』の断片を翻訳していた。


 御津門大学の図書館は、一般書籍から史料価値の高い論文まで、ありとあらゆる本が収められている。

 俺はここで大陸言語で書かれた書物の断片を訳す作業をしていた。


 ここには大陸で書かれた書籍や文章の一部が多く存在しており、その中には大陸でも禁忌である魔法、禁術が記された『魔導書』なんかもあるという。

 まあ、そんなのはあくまで根も葉もない噂ではあるが。


「うーん、難しいぞ。コレの翻訳。ああもう、今日は止めだ、止め」


 この書物は抽象的な表現が多く用いられ、しかも独特な固有名詞も数多く出現している。

 またタイトルや文章に虫食い穴が開いており、きちんと翻訳できないのだ。

 さらに古書特有の臭いによるものか。

 先ほどから吐き気と頭痛を感じる。


 俺は翻訳を諦めることを決め、書物を片づけ帰宅することにした。

 

 学校の校門の方までトボトボ歩くと、門の近くに俺の知り合いがいたのが見えた。


「お疲れ様です。旦那様。翻訳作業はどこまで進みましたか?」


 そう言いながらやってきたのは、銀色につやめく髪を大胆にカットしたショートボブに、紺色のワンピースの上にフリル。

 前世でいうところのメイド服を身にまとった若い女性。


 この人は内田うちだ阿斗あと


 メイド服を身にまとったレイヤーではもちろん無く、俺に仕える敏腕びんわんメイドだ。


 そして、その正体はなんと、俺を転生させてくれた『夢の守護天使』ニアエル様である。


 どうやら俺が持つ『天使使役チート』の効果がこのように作用し、異世界ではメイドとなったようだ。


 これが異能チートと考えると少し微妙な様な気がするが、最初から従順な仲間がいるのは心強い。

 それに彼女によると、俺は三十六個のチート能力を持っている様だ。一つぐらいショボいのがあっても問題ないだろう。


 ちなみに、異世界では俺が雇用主である為、呼び捨てで構わないとのこと。

 未だ違和感を感じるが……


「いや、あんまり進まなかったな。とりあえず家に帰ることにするよ。……今日は車でここまできたのかい?」

「ええ、もちろん。そちらの方が都合が良いと思いまして」

「流石、気が利くな。さて行くとするか」


 俺はそう言い、荷物を内田さんに預け、車に乗り込んだ。


 ☆ ☆ ☆


「ふぃ、なんとか不自然なく乗り切れたかな。一応学友にもばれなかったし」


 俺はそう呟き、上着を脱ぎすて、後部座席に横たわる。


「当然ですよ。異世界転生において、めんどくさい幼少期をスキップするというわが社一押しのチート能力『タイムカット』ですからぁ」


 内田さんは声を弾ませて答え、ハンドルを握りアクセルを踏み込む。


「しかし、凄いチートだな。自身の記憶にこの異世界に転生した時から昨日までの『体験していない時間』が刻まれているとは……」


 俺は『経験』はしていないが、この異世界では『軍需産業で儲けた資産家の家に生まれ、まだ大陸の先進国ですら発明していない”アニメ”を生み出し、家を発展させた神童』としての『記憶』がある。

 これはおそらく世界を書き換える事によって発生しているチート能力なのだろう。


「にゃるるるる、気に入ってもらえたようで嬉しいですね。わが社の『副社長』の能力」


 内田さんは自身が天使として勤める『異世界創造サービス』が褒められたことが嬉しかった様で陽気な声を出す。 

 ――俺はなぜだか鳥肌が立ってしまったが。


「しかし、俺のあだ名はなんでこんな事になっているんだい?」

「にゃははは、ワタクシは大好きですよ。そのあだ名。それに負けティンダロスには吠えさせておけばいいではありませんか」

「まあ、それもそうなのだが…… 流石に『邪神片野』はあんまりではないか?」


 なぜ『邪神片野』とあだ名がつけられたかというと、小学・中学・高校の九年間、毎年、俺の学友から死者や行方不明者が出ていたからだ。

 ……実際には経験してないけれど。


「君の言う『副社長』の能力を使えばあだ名を書き替えることぐらいできると思うのだが?」


「いえ、それは無理です。これは確定事項の様です」


「えっ、それは変更できないことかい?」


「ええ、その様です。もし仮にあなたのあだ名を『肩パット』を変更しようとするとタイムパラドックスが発生し、何やかんやあった末に宇宙創造のビックバンからやり直しになってしまいます。なのでこれぐらい我慢してください」


「えっ、マジですかい? ではそのぐらい我慢するか」


 俺はあだ名を変更できないと悟ると、その後の言葉は半信半疑で聞き流した。

 ……ぶっちゃけあだ名を『肩パット』にされるぐらいならば『邪神片野』でいいと思ったし。


「外の景色でもご覧になって、気持ちを落ち着かせてみては? 待ち望んでいた『異世界』が見えますよ」


 内田さんはバックミラーで俺の顔を見ながらそう告げる。俺はそれに従い、東都の街並みを眺めることにした。


 ここ、赤夢あかゆめ区は東都でも特に発達している。例えると大正期の銀座の様な発展を遂げていた。

 ただ、銀座との違いはそこにいる人々の様相だ。

 

 窓から赤夢を見渡すと、買い物をする和服美女や、土木作業に従事する緑の肌をしたオークとの混血児が目に入る。

 また通りでカフェー(現在の風俗店)のビラ配りをするサキュバスや、道ばたで歌を披露し、おひねりを貰うセイレーンの姿もあった。


「まさに和洋折衷なファンタジー世界ですよね。これは全て旦那様の想像から創造されたんですよぉ」

「実感は沸かないがな。面白い世界であるのは間違えないと思うよ」

「にゃははは、有り難きお言葉。お客様にそう言っていただけると働いてきたかいがあるというものですよ」


 内田さん、いや、ニアエル様はそう言って頬を赤らめた。

 気恥ずかしきなった俺は、視線を窓に向けた。

 するとなんと裏路地で女性がチンピラに絡まれているのが目に入った。



「おい、車を止めてくれ。俺は今から……」

「あの女性を助けに行くのですね。旦那様」

「察しがいいな」

「ええ、何せ敏腕メイド兼天使ですからぁ」

「手出しはしなくていい。なに、できるだけ穏便に済ませるさ」

「にゃははは、それではワタクシは、車を端に止めて待ってますネ」



 俺は内田さんの言葉を聞くと、まだ減速しきっていない車から飛び降りた。


 ――せっかく俺が創造した世界だ。

 せいぜい好き勝手、暴れる創造主となってやるさ。



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