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1、異世界創造は天使様と共に

ファンタジー異世界転生は初投稿です。

お手やわらかによろしくお願いします。


「君、明日から来なくていいから」


 俺、片野かたの りくが童貞のまま迎えた三十歳の誕生日。社長からプレゼントされたのは、解雇通知だった。


 なんという事であろう。この会社に就職して八年。ブラック企業だと思いながらも精いっぱい仕事をして来たのだが、そもそも必要とされてなかったとは衝撃である。


 もちろん今までの残業代は支払われず、退職金も雀の涙ほどしか出なかった。最初から期待などしていなかったが。


 俺は再就職を試みるも、この不況の時代に三十を過ぎたおっさんを雇ってくれる企業など存在せず、再就職に失敗。見事、自宅警備員ニートに成り果てた。



 ☆ ☆ ☆



 ある日、俺はいつもと同じ様に当てもなくパソコンをいじっていた。


「はぁ~、何か面白い動画とか無いかな?」


 そう呟きながら動画サイト『ニヤルニヤル動画』にアクセスしようとすると、こんな全面広告が立ち上がった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



『異世界をオーダーメイド! 望む世界に転生しよう。詳しくはURLをチェックしてくれ! ~異世界創造サービス~』



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 な、なんだってぇ! 俺が少年の頃から思い描いてきた異世界を創造できるだとっ。

 しかも転生もできるだって。これは神の計らいか。 

 やったぜぇ! これでイケメンチート持ち勇者に転生し、ハーレムを形成するという俺の夢がかなってしまうではないか。




 ……いやいや、冷静になれ。片野 陸よ。これはただの転職サイトの広告に違いない。

 『転生』は『転職』の誤植だろうし、『異世界』は『転職先の比喩』であることは明確である。


 しかも、普通に考えて『異世界創造サービス』などある筈がない。

 たとえあったとしてもわざわざこんな動画サイトに広告する意味が分からない。

 どうせ、クリックしてもらうためにワザとこんな広告にしているのだろう。なかなか策士な広告代理店だ。


 ……しかし、気になる。もしかしたら本当に異世界をオーダーメイドできるのかもしれない。

 仮に転職サイトだったとしても俺にとって必要であることには変わりない。

 流石に社畜時代の貯金も底が見えてきた。働かなくては飢え死んでしまう。


「まあ、ものは試し。クリックしちゃいますか」

 

 俺は自分にそう言い聞かせ、迷いを振り払いURLをクリックした。


 するとクリックと同時に激しい頭痛に襲われる。

 俺は頭痛に抗おうとするが握っていたマウスが床に落ちる。身体の力が段々と抜けて行っているのだ。

 何だこれ。どうなっているんだ。こんな症状生まれて初めてだ。


 ……いや、分かったぞ! これは広告に見せかけた某国の新型兵器だ。

 いやぁ~、『ワンクリック詐欺』ならぬ『ワンクリック兵器』でしたか。

 これは引っかかる日本人、山ほどいるぞ。俺もその中の一人だが。


 俺はそんなバカみたいな戯言を呟いていたが、やがて身体から完全に力が抜け落ち、椅子からくずおれる。

 そして意識が薄れて――……ああ、人生わずが三十年、って思って――。


 ――


 ――――


 ――――――――


 ――――――――――――――――


「いらっしゃいませ。こちら、『異世界創造サービス』です」


 はつらつとした少女の声で俺は目覚めた。

 適切な音量に聞き取りやすい発音。そこからは社員研修が行き届いた会社であることがうかがえる。

 ――いや、今問題にすべき点はそこでは無い。


 待ってくれ。状況を整理すべきだ。俺はゆっくりと上半身を起こす。


 俺の視界に入ったのは見慣れた自室ではなく、ただ真っ白な空間だった。どうやらここに倒れていたようだ。


 ああ、ここは異世界転生する前に立ち寄る空間か。そうか、あの後俺は死んでしまったのか。

 普通だったらこんな簡単に自らの死を受け止められないものだが、どういう訳かすんなりと受け止められた。


 正面を向くとそこには少女が立っていた。

 腰まである長く美しい銀髪を束ねたポニーテールに深海の様に深い色をした碧眼。

 なにより目につくのは彼女の頭に浮かび軽く発光しているリングと純白の羽が生えた翼。

 ――ではなく、身に着けている服だ。


「なんで天使がビジネススーツを着ているんだよッ」

「おや、お客様。なかなか良い洞察力ツッコミをお持ちの様で。ワタクシの正体と見抜くとはやりますネェ」


 天使は嬉しそうに微笑を浮かべる。いや、俺が気になるのはそこでは無いのだが……


「自己紹介が遅れました。ワタクシ、『夢の守護天使』ニアエルと申します。以後お見知りおき」


 ニアエルと名乗った銀髪の少女はそう言い、お辞儀をする。その角度45度。見事な最敬礼である。


 彼女は頭を起こすと俺に名刺を差し出してきた。

 参ったな。俺、無職だから返す名刺がないのだ。

 こんな事ならば作っておくべきだったかな。『自宅警備員ニート 片野かたの りく』みたいな名刺。


「いや、なんで天使が名刺を渡してくるんだよ」

「にゃははは、今からあなたと『商談』をする為ですよ。片野さま」

「えっ、『商談』とは一体!?」

「何言っているんですか? 今から共に異世界をオーダーメイドしていくのですよ。片野さま」


 天使ニアエルはニヤリと微笑み、指を鳴らす。すると何もなかった空間にテーブルとイスが出現した。


「凄い。天使というのはこんな事もできるのだね。まるで奇跡だ」

「ええ、けれどこれぐらい朝飯前です。あなたが望むのならば、何だって創造できます。例えばこんなだって」


 彼女が指を鳴らすと、可愛らしい女の子が現れた。

 いや、ただの女の子じゃないっ! 森の精霊、エルフである。

 異世界ファンタジーの定番であり、俺が一番好きな種族だ。

 こんな子を俺が創造できるというのか。素晴らしいな。天使の力。


 彼女が再び指を鳴らすとエルフは霧散した。そんな簡単に消せるのか。

 もはやこれは神の力だ。なぜ彼女は神なんかに仕えている天使なのだろうか?


「さて、このように何でもできることが分かって頂けたところで、どんな異世界を創りますか? 片野さま」


 ニアエルは俺の顔をジッと見つめる。『答え』を聞かせてほしいという事か。


「それはもちろん、『俺が一番輝ける異世界』です」


 俺は即座にそう答える。


「にゃははは、合格です。片野さま。貴方こそ異世界の創造主にふさわしい」


 彼女は奇妙な笑い声でひとしきり笑ったのちに拍手する。


 そうだ! 俺が輝く異世界をオーダーしよう。俺が異世界の創造主となるぞ。

 自分が創った世界ならば転生してもラクラクだ!


 しかし、この時の俺は知る由もなかった。自身が創り出す異世界の過酷さも、この天使ニアエルの本当の素顔も……

今回は大正要素ゼロです。ごめんなさい。

次回更新は今日の19時頃を予定しております。

次回もよろしくお願いします。

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