闇夜の月
「キミの事はよく知っているよ」
唐突に現れた男は、その風体にそぐわぬ優しい口調で言う。
「通り魔に娘さんを殺されるまでは、熱心に教会に通っていたのにね。いやー、人って変わるもんだね。今やキミ自身が殺人者になるなんて」
「っ!」
思わず息を飲む。一瞬、警察が自分に行き着いたのかとも思ったが、相手の異様な雰囲気にそれは無いと思い直す。
白銀の髪に黒の衣を身に纏い。何よりその手にしている物は大鎌。農場で使うような代物ではなく、もっと別の…そう、命を刈り取るに相応しい禍々しさを感じさせる。
「一体何が目的だ!?」
いや、目的は分かっている。相手がその得物を隠そうとしない以上、それを振るおうとしているのは明白なのだから。
「そうだね…直感で分かっているだろうけど、キミはここで死ぬ事になる。ただ、誤解しないで欲しいのは、今ここにキミが居る。それが異常な事であって、ボクはただそれを正しに来ただけなんだ」
まぁ…と、疑問を投げ掛ける暇を与えず、男は言葉を続ける。
「今のは理由であって、目的じゃ無いんだけど」
「は…?」
「ほら、来た」
刹那、鈍い金属音と共に火花が散るのだった。