禁断の恋
初めての恋というものは人生の中で一度しかない。どんなに長生きしたところで、どんなに大勢の人を愛しても初恋は一度だけだ。
だからこそ初恋は特別なものであるし、男性においては初恋の人との思い出を一生大事にしながら生きていくのだが、どうやら俺には初恋の人に思いを告げることさえ許されていないらしい。
(ニコッ)
そうやって彼女は俺を見て笑う。その笑顔はとても可愛らしく、今すぐにでも話しかけたくなるほど可憐な少女であるのだが、この分厚い壁はそれを許してくれなかった。
彼女はあと数日もすれば売り飛ばされる。彼女を閉じ込めているガラスケースには予約済みの紙が貼られており、いつ彼女が引きずり出されてもおかしくない。
俺はまだ買われる様子がないのでこの施設に居続けるだろうが、彼女がいない生活を考えるとただでさえ重い気持ちが一層重くなってしまう。
(ニコッ)
毎日を楽しみに思えることは一度もなかったが、彼女が来てからの数週間はとても明るい毎日だった。
二人で笑い合い、時には売られていく恐怖に夜な夜な泣いたことだってある。彼女の声を聞くことはできなかったが、いつしか彼女とは心で通じ合う仲になっていた。
だから彼女には伝わっているはずだ。この笑顔が作りものだってことぐらい。
奴隷として売られていく彼女がどのような仕打ちを受けるかは分からない。肉体労働を強いられるかもしれないし、生きるよりも辛い思いをさせられるかもしれない。奴隷の使われ方は様々であるが、明るい未来が待っていないことは確かだ。
だからこそ俺は彼女を笑顔で見送ってあげたいと思った。この奴隷施設にいる間だけでも彼女には笑顔でいてもらいたい。声も名前も知らない彼女であるが、彼女の幸せを願うぐらいには好きになっていた。
(バイバイ)
彼女は俺に手を振り、俺はその手を振り返す。
二人して笑いながら、何時間も振り続けた。
その日、彼女がいなくなった部屋は一層暗く感じた。