私の従者
「終わったよ」
ふうと一息ついてから、手を離す。
ピアスの表面をなぞり、魔力を流し込む。
じっと耐えてくれたけど、気だるそうだし、やり取りの負担は大きいんだろうなぁ。
ピアスの石の色は、クリアからオレンジに変化している。うまく魔力が込めることができた証だ。
「ねえ、ルシア 今回ピアスに多く魔力を込めたのね。だからしばらく、あなたとの魔力のやり取りを減らせると思うの。」
「そう、でしたか」
いつもより、感情のこもった声でルシアが答える。
「僕はもう用済みですか?」
なぜそうなる?
「そうじゃない! 私の容量の小ささは変わってないし、護衛の役はもちろん必要としてる」
ゲームの中のエミリーの従者は、魔法が優秀な分、ひ弱な少年だったけど、この世界のルシアは文武両道?護衛としても優秀な、なんともいい感じに育っているのだ。
「今はピアスみたいないい魔具もあるし、その、、ルシアにはやりとりは負担なのでしょう?」
「お嬢様のためであれば、この身を捧げることなど厭いませんが」
14歳のいたいけな少年にこんなことを言わせてしまう従者制度、胸が痛むわ。
「ルシア〜」
思わず泣きつく私と、ぎょっとしたように固まるルシア。
役割とか責任とか、きちんと理解して従者としての役目を果たしているのだ。
異世界の記憶を持っているばかりに、この世界の慣習に染まりきれず振り回す主人の元で。
「っく、ごめんね、私の従者になったばっかりに」
「お嬢様の突飛な行動は、今に始まったことじゃないですし」
ぎこちないながらも、あやすように背中をポンポンと優しく撫でてくれるから、私はますますルシアに頭を預けてしまう。
入学が近くなってるからか、気持ちがどうも不安定だ。
部屋のソファとはいえ、ゆったり二人は掛けられるので、転がり落ちることはない。
主人の特権で、冷たくて優しい従者に、今日も甘えてしまおう。
沙耶の頃にはできなかった異性への振る舞いも、15歳の悪役令嬢エミリーとしてなら、様になる振る舞いなのだ。