優しさの理由
「部屋の中でくらい、そういうのやめてって言ってるのに、ルシア」
「そうはまいりません、お嬢様」
「呼び方も、やめてってば」
「そうはまいりません、お嬢様」
「昔は、私より可愛い顔してたのに、今のルシアかわいくない」
「従者に、可愛さは不要です」
温かさのかけらもない声音でスラスラと答える、ルシア・コーエンハイム。
私の従者だ。
この世界の貴族には、基本一人に一人の従者がつく。
同年代の子供から選ばれ、訓練を受け騎士のような忍者のような護衛をするのだ。
もう一つの役目が魔力の補給。
この役目は、魔具で補ったり、訓練で魔力の容量を大きくしていくことで徐々に不要になるのだが、私は15歳になった今も、ルシアから補給が欠かせない。
ゲームでのエミリーのコンプレックスは、魔法容量の小ささ。
それを補えるほどの技術があるから、学園への入学は余裕だったのだけど、規格外の容量を待っているヒロインのことを一方的にライバル視してた記憶あり。
ゲーム内では、悪役令嬢と従者がどんな力関係だったかなんて詳しく出てこなかったけど、か弱い男の子を従えてる様子はちらほら出てきた。
本当だったら、私もそう振る舞うべきだったんだろうけど、8歳以降の私は良心が痛み、仲のよい幼馴染のような関係になりたかった。
魔力の相性がいいからって、親元離され訓練を受けさせられるこの制度に納得できなかった。
おまけに、行きたい学校も選べず、私の年齢に合わせて、私と同じ学園に従者として入るのだ。
貧しいところの親は喜んで従者として子供を差し出すらしいが、ルシアのところはそうじゃなかった。
理解はしてたけど、悲しんでた。
かといって、私の従者をやめさせて、サレニー家からルシアを追い出せば、次の従者が私には当てられる。
ルシアとその家族には、従者のなりそこないとその家族レッテルが貼られ、サレニー家からの恩給が打ち切られるのだ。
私のルシアへの優しさは、自由にさせてあげることのできない、負い目なのかもしれない。