少女の葛藤
「だってこれ、21世紀の人が18世紀にタイムスリップしたとかでなく、ゲームに転生パターンだものね。」
そう、25歳の沙耶の記憶によれば、エミリー・サレニー嬢は乙女ゲームのキャラの一人だったのだ。
「学園に入学する15歳まで、悪役令嬢がどんな生活してたかなんて分からないし、そもそも8歳から婚約者いたっていう貴重な情報すら、この世界じゃ当てはまらないし!!」
ゲームの中では、エミリーにはカナンという婚約者がいたが、カナンは悪役令嬢との婚約を破棄しヒロインに走るルートがあったのだ。
「ストーリーの中では、エミリーの8歳の誕生パーティがカナンとの婚約披露の場だったと、カナンが語っていたスチルがあったのに、私が熱出しから誕生パーティ中止なって婚約延期なってるし、カナンは遠い全寮制の男子校に行って帰ってこないし。。」
「だいたいそこまでやり込んでたわけじゃないから、悪役令嬢の行動パターン覚えてないし、攻略対象の隠しキャラ不明だし、どんなヒロインが田舎からやってきて入学するのかすら分からないんですけど!!!」
思わず声が荒くなったが、人払いをしていて部屋にはだれもいなかったことにほっとする。
メイドが身の回りの世話をすることは、この世界では当たり前だがごく最低限にとどめてもらっている。
「ゲームだと、風呂だのトイレだの出てこないものね、、ベタに魔法がある世界でよかった、、衛生レベルやばかったら、生きていけなかったかも」
ゲームでは日本語だった言葉や文字は、見たこともないものになっていたが、エミリーが使いこなしていたおかげで困ることはなかった。
「家柄はいいし、衣食住安泰、ゲームスタートの年齢まで、悪役令嬢らしからぬ幸せないい子で過ごせてしまったのは、幸せだったのか不幸だったのか」