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旋風の闇蝙蝠(旋風のダークネス・ゾルビバット)  作者: 黒流風流
第2章 「四龍影正」
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第0章 闇風風魔の物語6 「『名のない』暗殺者」

投稿をしなくなり、あれから一体何年が?





 「…………………う、うう____」

 闇にのまれていた感覚がやっと収まった頃、【――】は目を覚ました。


 目を開こうとするが、薄目から差し込んだ光がやけに眩しく目を閉ざした。だが、どうやら夜はすでに明けたようだ。


 ___あれから、いったいどれくらい経ったのか?


 未だ意識は混乱していて、頭痛と吐き気がする。体中が焼けるように熱く、わずかに動いただけでも刺すよう痛みが全身を駆け巡る。

 息をするのも辛い。それに喉もカラカラで、無意識に水を求めていた。


 「___み、水………___」

 苦しみあえぐように、うわ言が口から吐き出される。


 と、ふと口元に水気を帯びたなにかがあてられた。感触からして、布だろうか?ひんやりとした感触が熱くなった頬を冷ましていく。


 無意識の内に、その布を吸う。あまり多くは吸い出せないが、喉の渇きがすこし治まり、呼吸も楽になった。


 口に当てられていた布が離れる。それからすこしして、今度は額に冷えた布が置かれた。熱くなった頭の熱を布が適度に奪ってくれる。


___その後また意識を失ったが、すこしだけ表情から苦痛の色が和らいでいた。












 それからいったいどれくらい時がながれただろうか。


 日の光を感じ、再び目を覚ましたのはそれから2日後のことだ。


 ぼんやりとした意識の中、目に飛び込んできたのは光の差し込む障子と畳だ。なぜこんなものが?と目線を動かすと、木製の天井がある。どうやら部屋の中のようだ………。


 未だ痛む体を起こし、片腕をつきつつ改めて部屋の中を見る。


 まず目についたのは、自身の上にかけられた布団。それから周りを見ると、障子の反対側はきれいに塗られた土壁。

 その中央に蒼い龍の描かれたふすまがある。後ろには床の間があり、こちらには水墨画の龍の掛け軸と白い花の生花があった。


 (ここは、一体どこだ………?)


 ___たしか、白髪の老人の暗殺中に下手なミスをしてしまい負傷した。自身の仕掛けた罠にかかるなど、これほどみっともないことはないが………その時そいつは目の前に現れた。


 何度も何度も殺そうとしたにもかかわらず、白髪の老人あいつはなぜか俺を救った___

その後失血で気を失ったのだが………気がついたら知らない場所に寝かされている状態だった。


 なぜこんなところに居るのかはわからないが、ひとまずそれは頭の隅に追い払う。まず必要なのは、場所の特定だ。とにかくこの部屋から出るとしよう。


 畳に手を付き立ち上がろうとした瞬間、背中にすざましい激痛が走った。声こそ上げはしなかったが、あまりの痛みに敷かれていた布団の上に倒れてしまう。


 それから痛みに耐えること数分。ようやくマシになったが、これでは動くことのできないだろう。


 横向きの体勢のまま、ふと自分の体を見ると着ているものが変わっていることに今更気がつく。白に青い格子状の模様ついたここでいう「浴衣ゆかた」を着ていた。



 「………なんでこんなものを。それに「メモリーガントレット」はどこにいったんだ?」

 辺りにそれらしきものは見当たらない。まさか、どこか別の場所にあるのだろうか………?

それと………、なんだか違和感があった。いつもと違うような、よくわからないがそんな感覚がする。


 「___身につけていたものであれば、もう使い物にならないほどでしたので燃やしてしまいましたよ」


 突然だった。突然後ろから声が聞こえ振り返ると、そこには一人の僧侶が立っていた。


 「こうして挨拶するのは初めてですね。私の名は雲海うんかいと申します」

 コイツはたしか………あの白髪の老人の隣にいたあの僧侶だ。坊主頭にススキを思わせる肌の老人。顔にはいくつもシワがあるが、それでいてどこか歳を感じさせない『なにか』___を感じたような気がする。歳は60くらいだろうか。黒の法衣の下には、年の割にはしっかりとした体格をしているようだった。

 

 手に持っている盆には、素焼きの蓋のついた小さな器が一つと平皿が二つ。それと細く切りそろえられた白い布の束が3つ、それと水の入った湯呑が一つがのせられていた。


 (こいつが俺をここまで運んだのか。だが、一体なぜ………)

となおも疑る表情で眼の前の僧侶を睨みつけていたが___


 僧侶は気にする素振り一つせずそばへとやってきた。そして枕元に盆を置くと、その場に腰を下ろし掛け布団をはがした。

 一体何を………と警戒していたが、動くこともままならないこの状況では抵抗もできない。


 僧侶は闇風の背に手を差し入れ___右肩と腰を支えながら、ゆっくりと上半身を起こした。

 一瞬また痛みに襲われると身構えたが、………どうも怪我の位置を知っているらしくそこには触れないように起こしたようであまり痛みはなかった。


 「___さて、それでは傷のほうを診させてもらいますね」

そう言うと僧侶は着ていた浴衣の結び目をほどき、上の浴衣を脱がし始めた。とっさに阻止しようとしたが、思っている以上に体にダメージが残っているらしく抵抗できそうにない。

上衣を剥がされ、その下には各所に巻かれた血の滲んだ布がいくつもあった。

 気を失っている間に手当もしていたのか___と僧侶を一瞥したが、僧侶は視線に気づくと一旦手を止める。


 「そう警戒しなくとも、私はただ傷の手当をするだけですよ。影正殿かげまさどのから、そう頼まれましたから」


 ………………は? 一瞬、その言葉の意味を理解できなかった。


 

 ___自分に手当を頼んだのは影正だった。

 なぜだ、こちらはその本人を幾度も襲撃し、暗殺しようとした張本人だというのに?


 その言葉を理解できないでいる間、僧侶は手慣れた様子で血に塗れた布を外していく。

すべて外し終えるとそこにはいくつもの傷があった。長さや深さもそれぞれで、いくつかの傷は縫合されていた。

 僧侶は盆にのせてあった器を手に取り、蓋を開けた。中から薬草のような匂いがする、軟膏のようなものが入っていた。

 「すこし傷に染みますが、すこし我慢してくださいね」

そう言うと指につけた薬を傷に塗り始めた。


 薬と指が傷口に触れた途端、染みるような痛みが体を駆け巡り思わず歯を食いしばった。

その後も傷に薬を塗られ、そのたびにうめき声を出さぬよう耐えるので精一杯だった。


 ようやく治療が終わり、薬を塗り終えた肌に清潔な布を巻いていく僧侶。

やっと終わるのか、安堵と苦痛からの開放から絞り出すように息を吐いた。


 「さて、あとは…………」

僧侶は横に置いてある盆から飲み薬だろうか、粉のようなモノが入った皿と水の入った湯呑を差し出された。


 「痛み止めの薬草を調合した薬です。苦いのであまり口に残さず、水で流し込んでください」

この状態でそれを断ることはできない。仕方なく皿に乗っていた薬を口に入れる。


 「____………………ッッ!?!」

あまりの苦さに思わず吐きそうになった。差し出された湯呑を奪うように取ると、一気に喉に流し込んだ。

 水で流し込んだあとも薬の味がほのかにする。顔をしかめ、口元を手で何度も拭う。


 飲み終えた薬の皿と湯呑を盆に戻し、浴衣を止めていたヒモを結び、彼の背に手を添えてゆっくりを布団へと横たえさせる。


 一体なぜこんな事になっているのか、

 ___その時だった。彼は何か違和感を感じたのは。


 いつもと何かが違う………。そう築いた途端、急に辺りが暗く寒いように感じられた。


 (なんだ、この感じ………?___『何か』が、欠けている?)

いつからだろうか、こんなことになにも思わなくなったはずなのに。

 

 ふと、僧侶がこの部屋に入ってきた言葉が頭をかすめた。


『___身につけていたものであれば、もう使い物にならないほどでしたので燃やしてしまいましたよ』


………『身につけていたものは、燃やした』だと?


 その言葉の意味が理解できた瞬間、全身を寒気が支配した。気づけば片付けをしていた僧侶の襟元を掴みかかり、血相を変えて叫んだ。


 「___燃やしたってどうゆうことだ、俺の持っていたものをどうしたんだッ!!?」


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