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旋風の闇蝙蝠(せんぷうのダークネス・ゾルビバット)  作者: 黒流風流
第1章 「そのの者の名は[_____]」
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第0章 闇風風魔の物語3 「襲撃前夜」


 パチ、パチッ!  


 日も沈み、影正と雲海は焚き火を囲み休息をとっていた。温かな火が赤く燃えるのを見つめながら、二人は昼間の襲撃者のことを話していた。


 そして、影正は今まで気になっていた、あることを雲海にうちあけていた。


 「左眼が、ですか?」


 影正は静かに頷いた。


 「あの少年の前に立った時、顔を見ましたから。その時、右眼と左眼が全くの別物でした。」


 あの時、あの襲撃者の顔を見たのだが、その時自分の目を疑った。右眼は黒の、いや、実際には水にすみを入れたように濁った色をしていたのだが。それよりも、問題なのは左眼のほうだった。


 「今まで様々なものを見てきましたが、あんなものは初めて見ました。」


 「…あなたがそこまで言うほどの代物ですか。異質な眼となると、氷妖の一族や砂塵鬼のようなものですかね。」


 雲海は顎に手を置き、自身の推論を話したが、影正は首を横に振った。


 「おそらく、そういうものではないと思います。あくまで、私の勘ではありますが。」


 「どういう意味ですか?」


 「………………………………。」


 しばらくの間、影正は黙ったままだった。彼がこの様に物思いに浸ることは珍しくない。だが、今の影正はいつもと様子がおかしい。幼き頃よりその背を見て育ち、共に過ごしてきたからわかる。 


 この様な姿を見るのは、あの時以来だろうか。

  

 そして、影正は閉ざしていた口を開いた。


 「………あの眼を見た時、違和感を感じました。あの暗殺者の前に立った時、その目には僅かにですが恐れを帯びていました。しかし、左眼には一切の感情の鱗片すらも表れていませんでした。」

 一度間を作り、影正は本題となる話をきりだした。

 「その時でした。あの眼の奥に、何か別の意識を感じたのは。」











 一方その頃、影正を追い暗闇を駆ける者。呪われた左眼を持つ彼は、現在二人から数百メートル離れた樹の上で様子を窺っていた。双眼鏡で焚き火を囲み、休息している二人を確認し今後の計画を模索していた。

 

 しかし、今のこの状況は彼にとって良くないものになりつつあった。


 その原因は二つ。一つは現在の影正達ターゲットの位置だ。影正の目的地はすでに調べていた。だが、こちらがここに来る際、少々のトラブルがあり、到着が遅れるとういうアクシデントに見舞われてしまった。


 こちらが作戦区域に来た時には、既に影正達は帰路についている最中だった。


 すぐさま行動を開始し、暗殺を実行したが結果はあのざまだ。このまま進めば、あと二日もすれば同行者(雲海)の寺へ着いてしまう。


 一見、影正が一人になり暗殺が殺りやすくなると考えられるが、それは大きな間違いだ。今朝の暗殺ファーストアタックの失敗からわかったが、相手の実力は自分などよりも遥かに高い。一人になり、自由に動かれる状況になればこちらの勝算はゼロに等しい。


 この状況でこちらにチャンスがあるとすれば、同行者と共に行動し護衛している今しかないのだ。


 二つ目は、どうやって影正を殺るかだ。これに関しては、未だ良い案が浮かばない。いっそのこと、また狙撃を試そうかとも考えられるが。………それは、出来なかった。


 先程、「こちらに来る際、少々のトラブルがあり、到着が遅れるとういうアクシデントに見舞われた」と、言ったが、それが原因の根源なのだ。


 ここに来る前、かつて受けた任務で襲撃した組織の残党に襲われた。そいつらの始末はしたが、銃器類の大半を失ってしまったのだ。あの時使った狙撃銃は、残り少ない、と言うより使わなかった余り物だったのだ。


 それさえも壊されてしまい、現在、銃器類の在庫はもうなかった。


 となると、残るのは刀剣類、各種グレネード、追跡式小型および中型ドローン三十数体のみ……。


 「………こうなったら、あれをやるか……………。」


 今まで実戦には向かないと思っていたが、この状況下ではあれをやるしかない。決行するなら準備や誘導に、少なくとも半日以上掛かる。やるなら、今しかないのだ。


 奥歯を噛みしめ、樹から飛び降りると、おそらく最後の襲撃機会アタックの準備に走った。


 (失敗は許されない。かならず、かならず暗殺せいこうさせる。)

 

 












 「…………………………。」


 「どうか、しましたか………?」

 

 雲海は影正に話しかけるが、返事はない。話の途中に、急に視線をあらぬ方向へと向けた影正を訝しげな表情で眺めていると。


 「…すみません。どうやら、あの者が近くにいたようです。」


 体の向きを元に戻し、焚き火に薪を足す。


 「ですが、どうやらもう移動したようです。今日は我々を襲撃する気はないようですね。」


 「そうですか。」

 

 夜はさらに更けていく。月と星が夜空を照らし、虫の声がゆるやかな演奏を奏で続けるのであった。











 必死になって逃げ出した。


 同じ顔、同じ姿、同じ声の者共からではない。


 幾つもの光の柱が降り注ぎ、何人もの自分が消えて逝く。


 無数の悲鳴、無数の絶叫、無数の怒号、無数の絶望への声が無残にも光の中に消える。


 自分を押しのけ、踏み台にし、突き飛ばして、ひたすら走る。


 そしてそのまま、意識は消えていった……………………………。

 


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