第0章 闇風風魔の物語1 「終わりと始まりの物語」
………………………………夢を………………………………見ていた。
そこにはなにもなかった。
周りにあるのは、無限に広がる闇以外、何もなかった。
ここがどこなのか
どうしてこんな所にいるのか
自分が何者なのか
何も、わからなかった……………………………。
……………………………ピピピ、ピピピ、ピピピ…………………。
暗闇に包まれた部屋に、単調な電子音が鳴り響く。
その部屋にいた少年は、静かにベットの中で目を覚ます。寝床、というにはあまりにも簡素ではあったが。
部屋の壁と一体型のベットは固く、薄いマットの端は薄汚れている。しかし、その部屋の主は気にも留めていなかった。
彼は明かりを点けることもなく、そのまま部屋を出て行く。
………………彼の次の任務は、ある老人の暗殺だった………………………。
透き通るような青い空、穏やかに流れる小川、草花や木々で彩られた丘。
そんな美しい光景の中、少し離れた崖の上に黒のローブを身にまとった少年が、一人静かにたたずんでいた。
見た目でいうと17ぐらいだろうか。フードを深く被っているせいで顔を伺うことは出来ないが、その鋭い目線からは触れれば切れる刃物のような殺気を感じさせる。
しかし、今はその殺気を感じることはなかった。これから現れる標的に気付かれないために。
崖からすこし離れた道。少年からすこし離れた場所を、二人の老人が歩いていた。
前を歩く一人は、白髪の髪が腰のあたりまである長髪、歳の割にはかなりガッシリとした体格をしているように見える。
服装は、この距離からだと黒色の着物を着ているように見えた。その腰には、日本刀と小太刀をそれぞれ一本ずつ帯刀していた。
後ろを歩くもう一人は坊主頭で、前を歩く白髪の老人と同じ黒の着物、右手には木の杖を突いていた。
彼のいる位置からでは距離が離れているため、その顔までは窺うことはできない。しかし、彼にとってはそんなことはどうでもよかった。
標的がこの道を通るよう、他の道は封鎖しておいた。彼は左腕に身に付けているガントレットのような機械。そのタッチパネルを操作し<ステルスモード>を起動させる。瞬間、羽織っていたローブが周りの景色と同化していく。
そして地面に伏せると、傍に置いていた狙撃銃を手にとった。スコープを覗き、銃口を標的にに合わせ、狙撃体制を整える。
そして、彼は引き金を引いた。
バスッ! と、鋼鉄の弾丸が標的へ、前方を歩く白髪の老人の頭部へと飛んでいく。サイレンサーで発射音とマズルフラッシュを抑えた。老人にはこちらは崖が死角となっているはずだ。
仕留めたと考えた、その時だった________。
バキーーーッ!!!
突然、彼の構えていたスナイパーライフルがバラバラに砕け散った。金属と木材が砕ける音があたりに響き渡り、破片が頬を掠める。
「……………っ!!!?」
一瞬、何が起きたのか混乱したが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
………なぜなら、先程まで数十メートル先にいたはずの白髪の老人が目の前にいるのだから。
「……………………………。」
白髪の老人は、腰に帯刀している刀を握り、ローブを着た少年を眺めている。刀を抜こうと思えばすぐに斬りかかれるはずだが………………。
カラン、カララン……………。
不意に、足元に何かが転がった、次の瞬間。すざましい光が爆せ、あたりを塗りつぶした。さらに、光の爆発の数秒後、足元から煙幕が吹き上がり、辺り一帯を覆い尽くした。
その煙を振り払い、ローブを着た暗殺者は森の中に消えていた。