06 森の屋敷
目覚めると子供の姿がなくて、慌ててニャーニャー叫びながらキョロキョロしていると、パシャパシャと水をはじく音がした。
音の方に行くと、子供が水浴びをしていた。
「あぁ…ネコさんおはよう」
『おはよー』
ニャーと返すと、ふわりと微笑が返された。
子供はさっぱりした顔をして川から出てきた。
体中の汚れを落としたからか、随分小ざっぱりしている。
灰色だと思っていた髪も、元の色らしい綺麗な射干玉の黒髪へと変貌していた。
ずっと顔を上げているのはしんどいので視線を下に下げる。
…と、思わず目をそらしてしまう。
いや、子供とはいえね…直視するのがはばかられるアレが付いてた…
うん、君、男の子だったのね…
ちょっとした動揺から返って、私はまた歩き出した子供についていく。
今度はどこに行くつもりなんだろうか。
川沿いを―おそらく上流の方向に向かって―子供は進んでいく。
次第に木の数が増え、森のような場所に出る。
というか、樹海………?
ぼんやりしてると確実に道を見失いそうな森で、子供はまるでどこをどう行けばいいのか分かっているかようにずんずん進んでいく。
私は置いてかれないように、必死に足を動かす。
というか、ほぼ全力疾走だ。
猫的に成人を迎えている私だが、ほかの猫たちより小柄なのだ。
子供とはいえ、体格差のあるものに合わせていくのは辛い。
だんだん距離が開いていく…。
不意に子供がこちらへと振り向く。
私がワタワタしながらついてきているのを見て、子供は一度立ち止まり、私が来るのを待っててくれた。
わたしが追いついてゼーゼー息を吐いていると、ひょいっと脇の下に手を入れられて持ち上げられた。
みょーんと体が伸びる。
「…うわぁ」
猫の体が伸びたところを初めて見たのか、子供は少し引いていた。
まぁ…分からなくもないけどね。
前世では私もそうだったし。
…取りあえず、ちゃんとした抱き方をして欲しいな。
私を抱き直して、子供はまた進み出した。
木が生長しすぎてて、陽の光があまり降り注いでこなかったのに、次第に道の先が明るみ始めた。
まぶしさに思わず目を瞑って、しばらくしてもう一度目を開けると、私はこれでもかというように目を見開くこととなった。
私の目の前には古びたレンガのお屋敷がそびえ立っていた。