03 貧相な子供
おじさんはおもむろに懐中時計を取り出すと、
「あぁ、時間だ……それじゃあまたね」
そう言って去っていった。
なんだか不思議な人だったな。
何と言うか、今まで会ってきた人とは何かが違っていた。
ただ、その何かが分からない。
……まぁいいか。
私はまた歩き出す。
だが、宛もなく歩いていたからか、いつの間にか知らない道に入ってしまったようだ。
なんだか廃れた裏路地っぽいところだ。
困ったなぁ……。
キョロキョロしていると、いきなり怒鳴り声が聞こえた。
「…っの糞ガキぃぃ!!」
「っ……!!」
なんだなんだと思っていると、私のいる場所から3mぐらい先にある家…というか小屋っぽいところから子供が吹っ飛んできた。
まっすぐこちらに吹っ飛んでくる…
え…?えぇ………!?
どうしよう…このままじゃ私は子供に押しつぶされて死んでしまう。
圧死だなんて一番死後が酷いやつじゃないか。
―逃げなきゃ、そう思うのになかなか足が進まない。
まるでスロー映像のようにゆっくりと、そして確実に私と子供の距離は縮まっていく。
ふいに、子供と目が合った気がした。
ゆっくりと澄んだタンザナイトの瞳が見開かれていく。
―綺麗だ、そんな風に見蕩れてしまっていた。
あぁ、うん。最期にいいもん見れたよ。
私が諦めて目をつむった時、私はふわりとした感覚に陥った。
驚いて目を開けると、そこはさっきまでいた場所と違っていて、ただそう離れた場所でもないこともわかる。
ここは…あのボロ屋の屋根…?
「おい、さっきそこにいた猫が消えたぞ。」
「どうなってんだ…?」
「どうせあのガキがまた何かしたのさ。あいつは化物だ。」
「変な術を使うのでしょう?怖いわ…」
「さっさとどっかに行きやがれ、化物!」
地面に叩き付けられたのか、子供は苦しそうに息をしていた。
そんな子供の周りを囲んでいたぶる大人たち。
なんと残酷な光景だろう。
…私に力があれば良かったのに。
しばらくしていたぶるのに飽きたのか、子供の周りに人が居なくなる。
さっき大人たちが言っていたのと、私が瞬間移動?したことと考えると、この子は魔法が使えるのではないか。
ここは貧困街だし、魔法というものが認知されていないのかもしれない。
(以前大きな街に出た時には、魔法使いさんを数人だけど見かけた)
私は子供に近付いてみた。
灰色の髪、タンザナイトのような瞳。
食べてないのか顔はこけ、体はやせ細っている。
お風呂も入ってないのかな、ちょっと臭い。
何とかしてやりたいな。
そう思ってうんうん唸っていると、子供はフラフラと起き上がって歩き出した。
おぉぃ?どこ行くんだい…?