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02 不思議なおじさん
私はてくてくと歩く。
色褪せた赤レンガの塀が続く道を、ただなんとなく歩いていく。
今日は何をしようか。
川へ魚を捕りに行こうか。お年寄りに甘えておやつでももらおうか。小鳥をからかってやるのもいい。
…驚くほどに猫としての生活に慣れきった自分がいることに驚く。
ふと視線を感じ、目線を上に上げる。
30代、いや40代ぐらいのおじさんが私を見ていた。
「………随分と育ちのいい野良猫さんだ」
その人はそう言って微笑んだ。
身なりは良い。良い生地の洋服、整えられた髪、無精髭もない。
背丈は多分この世界での標準ぐらい。痩せすぎず太りすぎずで、アクアマリンの瞳と黒髪が印象的な人。
というか、この世界で黒髪の人を初めて見たよ。
猫相手にそこらの女の子に話しかけるように話す、この変なおじさんはどうやら貴族っぽい。
身なりもだけど、その仕草だとか、纏っている雰囲気が他の人となんか違う。
どう違うのか良くわかんないけど、なんか違うのだ。