幸せ流星群
困難の多い、恋愛をしているのでしょうか。
☆幸せ流星群(天翔雪音×時津如月)
私は、如月がいないと、駄目なのだろうか。
あの日と同じ、言葉を呟く。
「……分かんないよ、そんなの」
ただただ、如月に会いたいと、思うだけで。
『雪音、どうしたんだ?』
確かに私と如月は繋がっている、ずっと、ずっと、機械越しに。
「……大丈夫だ」
『大丈夫ってなんだよ。素直に言えよな、寂しいんだろ?』
「……。」
『雪音、まだそっち、日沈んでないよな?』
「あぁ、だがなんでだ?」
『外、出ないか?』
「へ!?」
無意識に空を見上げる。
──あの日と、同じ、夕焼けを。
☆☆☆
いつも、回想の始まりは、あいつの焦った顔。
「……何なんだ、如月?」
「だから、後で言うって!!」
「なんで今じゃダメなんだ?」
「……駄目なものは駄目だ!!」
焦ったまま言い残して、意味の全く分かっていなかった私を置いて、彼は行ってしまった。
「……本当、なんなんだ、あいつ」
昔から、ずっと一緒にいたはずなのに。
手の中に置いていかれたのは、一枚の紙。
「放課後、屋上で待ってる」
あぁ、これで、私の午後の授業は、頭に入らないことが決定した。
「……なぁ、如月」
お前はどんな気持ちで、私と接しているんだ?
……私は、如月が好きなのか?
「……分かんないよ、そんなの」
私はただ、お前のそばにいたくて。
私はただ、お前の隣を歩きたくて。
お前は、違うのか?
それとも──。
☆☆☆
チャイムが鳴って、授業が始まって、
「はい、じゃあ(2)を天翔さん。」
早々に、私は先生の指名を受けて。
「はい。」
ベクトルの公式、
「→ →
a+b=a1……」
さらり、さらり、
公式とか数式を、
答えるみたいに、
君にこの気持ち、
答えたら良いの?
『……大好きだよ』
心の中ではたくさん反芻してるのに。
(……愛してる、は早いかなぁ)
校正も、何度もして、
(早い、っていうか、)
ちゃんと心に問うのに。
(それが本当の気持ちかどうか、分からない)
……言えないんだ。
「……」
側にいたいのは事実。
君の隣では、何故か、
君を見てるのも事実。
ぐるぐるする頭を、必死に練習問題に向けるのに、さっき当たったという安心感も相まって、ゆっくりと安心が襲ってくる。
眠くなる前兆。
そうっと、
そおっと……。
「雪音、」
「!!!!……如月か」
「寝るなよ?」
「……あぁ」
少しだけ、頬が膨れているのかもしれない。
なんだか悔しい。
悔しいけど、あいつがそっとメモを手渡してくれたのが気になったから、
素直に受け取ってみる。
『秘密は、しし座流星群』
……はぁ?
隣を振り向けば、如月がどや顔でこちらを向いている。
なんだこれ、と言いそうになってから、すんでの所で言葉を飲み込む。
口の中で、そっと言葉を転がす。
「しし座流星群……?」
☆☆☆
『……綺麗な夕焼けだな』
『お、雪音も思い出してくれてんのか?』
『も、って、』
『俺もそうだ。……雪音、あの時と同じこと言ったな。』
『そうか?』
気づかないふりしてたって、
『そう。』
お前は気づくんだな。
夕焼けを見上げながら思う。
そう、あの日も綺麗な夕焼けが──。
☆☆☆
委員会が随分長引いてしまった、と反省しながら、私は屋上へと続く階段を駆け上がっていた。
「はぁ…はぁ……」
上から射し込む光の色に、少し申し訳なさを感じる。
屋上へのドアを、精一杯開け放つ。
そうしたら、
「雪音、」
如月が、優しい、優しい笑顔で、こちらを振り向いた。
──なんだか、心をぎゅっと掴まれたみたいだ。
「な、に、如月?」
思うように、言葉が出ない。
「こっちに、来て?」
「うん……。」
座り込む如月に近づいて、如月の隣に座れば、
「俺は必死にお前に近づこうとするのに、なんでお前は躊躇して、離れようとするんだ……?」
美しく、優しいオレンジ色の中で、お前は私に問うた。
……なんでって、
「……だって、追い付かないだろう」
「へ?」
「心臓が追い付かないんだよ!!分かれ!!」
「心臓?」
疑問符を投げかけて、いきなり私を抱き込んで、
「俺も同じなんだけど、どうしたら良い?」
そう言った。
確かにそう言った。
そして確かに、
如月の腕の中で聞く、
如月の鼓動のドキドキは、
私と、同じだった。
「嘘、だぁ……」
幸せすぎて、でもドキドキが、ううん、どくどくが止まらなくて。
苦しいはずないのに、呼吸が苦しい。
心が苦しい。
「何で泣くんだよ、ったく……。」
そう言葉では言っていても、苦笑していても、
如月は私を抱き締めてくれる。
ぎゅっとしてくれる。
「だって、嬉しいんだもん……。」
如月と触れてる全部から、何かが溢れるみたいで、何かが流れ込んでくるみたいで。
体も顔も、あっつくなって。
私の意思じゃないのに。
「なぁ、雪音。雪音の中の俺は、幼馴染みのままなのか?」
「違う!!違うよ!!」
投げた言葉、降らせた愛は、
消えたりなんてしなくって。
「私、如月のこと、……好きだよ!!……幼馴染みとしてじゃなくて。」
「もちろん、俺だって。」
「如月……!!」
好きが、難しい。
大好きは、もっと難しくて、
愛してるなんて、爆発しちゃいそうになって、上手く言葉にならなくて。
頭の中がショート。
「俺は、雪音を愛してるぞ。」
待って、
なんで、
追い付かないよ、
こんなに想いが膨れて、
君は大丈夫なの、
私はっ、
こんな、
「私だって……!!」
こんなに君を想いすぎて壊れそうなのに!!
「知ってる。」
え……?
あれ?
「だから、俺……」
ぽす、と私の肩に頭をのせた如月は真っ赤で、なんだかこちらまで驚いてしまって。
「頑張って、これからも、雪音に想いを伝えていくから。」
「如月っ……!!」
「俺に、雪音の隣を、歩かせてください──!!」
「如月、如月……!!うん、ずっとそばにいる!!そばにいるから!!」
夕焼けはそうっと、私達の知らない間に、瞬く星へと変わっていた。
そうっと、そうっと、変わっていた、私達の愛の形みたいに。
如月がぎゅっとしてくれるから、私も如月の肩に頭を乗せて、如月にもたれかかってぎゅっとして。
そのまま少し横を向いたら、世界は美しいオレンジ色に染まっていた。
「……綺麗な夕焼けだな」
「おい雪音、それこのタイミングで言うことかよ?」
「お望みなら、このタイミングで言うことに変えて見せるぞ?」
「なら、そうしてみて欲しいな。」
すごく恥ずかしくって、心臓がばくばくして、自分がどうしたいのかも分からなくなりそうな位だったけど。
だって如月が、こんな綺麗に笑うから。
……君を愛してるのは変わらないから。
だから少し頑張って素直になって、一言、そっとぎゅっと、心を込めて伝える。
心を込めて、気持ちで一杯にするほどに、心臓のテンポは速くなるんだけど。
「私は、この夕焼けを、永遠にお前と見ていきたい。」
「雪音っ…!!」
真っ赤になっている如月と、多分真っ赤な、頬があっつい私。
「そこまで言って、ただで済むと思うなよっ……!!」
それは、オレンジ色の世界の中で、
私がファーストキスを奪われた瞬間だった。
☆☆☆
──夕焼けが、綺麗だった。
あの日も、今日も、
夕焼けは、柔らかな赤と青を挟んで、闇に変わっていってしまったけれど。
如月の言葉を思い出しただけで、顔が火照っているのを感じながら、
「空は……美しいな。」
照れ隠しのように呟く。
『ん?雪音?』
「空は、どう変化しても美しいと思うんだ。朝焼けだって、夕焼けだって、星空だって、新月の星の無い夜だって。それに季節と天気の差が加わるんだ、自然って……偉大だと思って。」
『そうだな。科学じゃ解明できないことだってたくさんある。たとえば、どうして雪音を好きか、とかさ。なんで雪音に惹かれてるか、なんて言葉に出来るような簡単な感情じゃない。』
「あぁ。……その複雑な感情をまるごと、“恋”とか“愛”とか、言うのかもな。」
『だな。……あ、流れた!!』
「本当か!?」
『俺は嘘はつかないよ。』
あの日と同じ、しし座流星群が、
私の目の前でも1つ、流れた──。
☆☆☆
いつの間にか、濃紺に支配されていた世界の中で、一際強く如月に抱き締められて、顔を上げる。
どうしたの、と言う前に、如月の後ろに星が流れた。
ふと思い出す。
『ヒントは、しし座流星群』
しし座流星群、ということは──。
「見えたか、雪音?」
「あ、あぁ、」
「今日はしし座流星群の極大の日なんだ。だから、俺が流星群に、誓いとお願いをする。」
「誓い?」
「そう、誓いだ。……おぃ雪音、笑うなよ!!」
「だって、如月…ははっ!!普通お願いを三回、だろ!!」
「けど三回なんて、言えそうにないんだよ……!!」
少し必死に言う如月が気になって、ふと如月を見上げる。
「雪音を愛し続けるから……永遠に、雪音と一緒にいさせてください!!」
私の胸に流星群と一緒に降ってきたこの幸せは、しばらく、消えないみたいだ──。
☆☆☆
『なぁ、雪音、』
「なんだ?」
『今日は、いっせーのせ、でお願いごとしようぜ?』
「いいぞ?」
『せーのっ、』
「早く如月に会わせてください!!」
「早く雪音に会わせてください!!」
声に驚いて振り向けば、
そこには、今アメリカにいるはずの、如月がいた。
「!?!?!?」
驚きに反応して、手の中にあったはずの携帯が滑り落ちて、ガシャン、と音を立てた。
それを呆然と私が見つめていた間に、如月は私との間を詰めていて。
「雪音の願いを叶えるために、俺、来たよ?」
「如月っ……!!!!」
体は勝手に動いていく。
この、嘘みたいな、夢みたいな出来事が、現実だ、って証明できるように。
ここに如月がいる、って、証明できるように。
「どうして、こんなとこに……?」
如月を抱き締めて、幸せで泣きそうになりながら、如月を見上げて問う。
「俺が雪音の王子様だから、かな?」
「バカ如月!!」
バカとか言いながら、如月をもっと、ぎゅっとして。
「帰って、来たの?」
やばい、泣きそうだ。
「あぁ。また行かなきゃいけないけどな、……おぃ、雪音?」
「なんで教えてくれなかったんだ!!」
「だって、サプライズにしたくて、」
「私は後1年以上会えないと思って、泣きたいほど辛かったのに!!」
「でも、泣かないでいてくれたんだな。」
「如月……!!」
「お前を泣かせる為に帰って来たんじゃないんだけどな……。まぁいいさ、思う存分泣いとけよ。」
「うん……ありがと、如月っ……!!」
掴む服から伝わる体温も、
顔を埋めて感じる鼓動も、
如月がここにいることを、
教えてくれる証明だから。
それが許されること、今だけ、私の特権にして?
「……大好き、大好き、如月、……愛してる。」
「もちろん、俺だって。……愛してるよ、雪音」
もう離せない。
もう離さない。
君への気持ち、
君への想いに、
君への愛しさ。
あの日、如月と私の心が結ばれた日と、同じ言葉が重なる。
『「流星群に、お願いしよう。」』
いつまでも、君と共に、
幸せでいさせてください──。