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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
賈郷篇
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第8話 到着

1/31 あらすじ 演技→演義 訂正しました。ご指摘ありがとうございます。

翌日荀家の人々に別れを告げた一行は、潁川郡の北側にあたる潁陰から、潁川郡の南側にあたる定陵へとむかった。今日中には定陵県の賈郷へと到着する予定である。


「では、賈郷全部の()が偉節さまの里というわけではないのですね?」


淳于瓊は李栄と話していた。


「その通りです。賈郷は本来は賈湖郷が正式名なのですが、最近みなが賈郷と呼んでいるためよく誤解されますが。」


とはいえ賈家は単独で一つの里を構成しており、周りの里の者たちも賈郷で一番の名士である賈彪さんには頭があがらないのだとか。



「なんだか…この辺の畑はあまり実りがよくないのかな?」


淳于瓊は周りの麦畑をみながらつぶやいた。あきらかに穂付きが悪いのである。


「麦は連作がききませんからね。実りが悪くなった畑は2、3年休ませるしかありません。」


淳于瓊のつぶやきに朱丹が答えてくれた。彼は内向きの事柄が専門である。


"うーん麦の連作障害か。確か四圃制(よんほせい)が有効なんだよな。クローバー→麦→カブ→麦→クローバーって繰り返すんだったな。でもこの時代の中国にクローバーってあるのか?洛陽でもみかけたことないんだけど。"


街道わきの雑草に目をやるが当然三つ葉も四つ葉もみあたらない。


"そんなに都合よく見つかるはずないか"


淳于瓊は無駄だと分かってはいたが、あきらめきれずに周りに目をこらしながら馬を進めていた。


"ん?"


ふと淳于瓊の視線が草むらの中の不自然な黒いかたまりに止まった。


「い、偉節さま、人が倒れています」


それは淳于瓊と同じくらいの歳の子どもであった。淳于瓊はあわてて馬を降りて草むらにわけいり、その子どもを抱き起こした。


"まだ息はしてるな。外傷はなさそうだから行き倒れか?なんにせよ、ここには放ってはおけないよなぁ。"


まだ寒い春先である。翌朝にはかなりの確率で凍死してしまうだろう。或いは野犬にでも喰われてしまう危険もある。ここで見捨てるのは現代人のメンタリティーを持つ淳于瓊には正直きつい。


「偉節さま、この子を郷まで連れていくことをお許し頂けないでしょうか?」


「奇妙、今の世には困窮して倒れる者が溢れておる。その全ての人を助けることはできないんだぞ?」


賈彪はそういいながら、淳于瓊の目をまっすぐ見据えた。他の三人も値踏みするような目で見ている。

軽い調子で”見捨てたら寝覚めが悪そうだから”では通用しそうにない雰囲気である。


”やっぱりこの時代はやさしくねえーな。どんだけハードなんだよ…。”


淳于瓊は心が折れそうになりながらも覚悟を決めて返答することにした。


”こういうときの為に使えそうな名言を優先的に覚えてきたんだ。たぶん何とかなる。なるはずだ。なってくれ。”


「重々承知しております。しかし’惻隱(そくいん)の心、仁の端なり’と申すではありませぬか。何事も始まりが肝要。いま賈郷での始まりを不仁と為すならば、私は何のためにここへやってきたのでしょう?」


「ほう、孟子ときたか。確かに仁徳を求めようとする姿勢はよろしい。だが実際に奇妙になにが出来る?」


賈彪はあくまで厳しい表情を崩さない。だが淳于瓊も今さら後にはひけない。


「とりあえず私の水と食事を与えます。またこの者を私の馬に乗せ、私は賈郷まで歩きましょう。」


いくら賈郷まで目と鼻の先であるとはいえ、なかなか六歳の子どもが言えることではない。賈彪は目を細めて笑った。


「よかろう。その子どもを連れて行くこと認めよう。」


「ありがとうございます。偉節さま。」


淳于瓊はほっとして行き倒れの子を抱き抱えたまま、水を少し含ませてやった。

どうやら無意識に水を嚥下したようだが、気を失ったまま起きる気配がない。


「仕方がありません。私の馬に乗せていきます。家で休ませていればやがて気がつくでしょう」


そう言って宣言どおり淳于瓊は自分の馬に子どもを乗せて、自分は馬の(くつわ)を手にした。

貧民の子どもを馬に乗せ、名門の子弟である自分が轡をとる。この時代にあってはまったく異様な風景である。


その姿を見ながら、朱丹、李栄、趙索は淳于瓊に聞こえないようにこそこそと話し合っていた。


「ううむ、さすが我が君が見込んだだけのことはあるな」

「ああ、まるでかつての偉節様を想起させる」

「あれで、未だ六歳だぞ。偉節様の仕込み次第ではとんでもない人物になるやもしれん。」


家人たちのそんな会話を苦笑しながら聞いていた賈彪は、昨日荀爽との会話の際に感じた予感を思い出していた。


”やはり奇妙は違う。なにが出来るかと問いただせば、今の自分に出来ることでなおかつ今必要なことを冷静に答えよったわ。”

”今の時代、ご大層なことを口にするものは多いがそれを実践しようとするものはほとんどおらぬ。宦官の不正を憎むのはよい。だが奴等を弾劾するだけで民が救われるわけではない。その先をどうする?何が出来て何が必要であろうか?”


こうして予定外の一人を増やした一行は夕方前に賈郷へと到着したのであった。

惻隱の心、仁の端なり孟子(もうし)

 小さい子どもが井戸に落ちそうになれば、誰でも損得抜きで

 助けようとするだろう。その惻隱の心=あわれみの心こそが

 仁の徳の始まりである。それはもともと誰の中にもある心で

 即ち人の性が善である証である・・・


淳于瓊は小さい子どもを助けるというシチュエーションにひっかけて

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