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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
党錮篇2
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第56話 荀(じゅん)家の事情

 

 「淳于瓊(じゅんうけい)どの。さきほどは見事でした。胸がすく思いで聞いておりましたよ。話には聞いていましたが噂に違わぬ優秀さですね」


 控えの間での曹操(そうそう)に対するタンカを聞いていたのだろう、若い男が声をかけてきた。向こうはこちらを知っているようだが淳于瓊(じゅんうけい)には面識の無い人物である。淳于瓊(じゅんうけい)のような子どもに対してであっても言葉遣いが丁寧で物腰が柔らかく温厚な人柄が窺がえた。彼は戸惑う淳于瓊(じゅんうけい)に自己紹介をした。


 「私は荀倹(じゅんけん)の息子で荀悦(じゅんえつ)、字を仲豫(ちゅうよ)といいます。あなたも知っている慈明(荀爽(じゅんそう))は父の5番目の弟にあたります」


 なんと男は(じゅん)家の者であった。荀倹(じゅんけん)とは八竜と呼ばれる兄弟の長男で、次男が荀彧(じゅんいく)の父である荀緄(じゅんこん)、六男が賈彪(かひょう)と仲の良い清流派の荀爽(じゅんそう)となる。

 つまりこの荀悦(じゅんえつ)荀彧(じゅんいく)からみて従兄弟というわけだ。三国志でも文官タイプとして存在していたような気がする。もっとも大した活躍は無かった筈である。淳于瓊(じゅんうけい)脇役(モブ)仲間の荀悦(じゅんえつ)に妙な親近感を感じていた。


 「ああ、なるほど。淳于瓊(じゅんうけい)です。奇妙と呼んでください。阿若(荀彧(じゅんいく))は元気にしていますか?」


 「うん、元気にしている。もう文字を少しずつ覚え始めていてね。奇妙どのからも手紙を送ったりして気にしてやってもらえると助かります」


 もちろんです、と淳于瓊(じゅんうけい)は了承する。むしろこちらからお願いしたいくらいなのだから。

 宦官 唐衡(とうこう)の娘との婚約が決まって以来、荀彧(じゅんいく)は微妙な立場に置かれていると聞いている。(じゅん)家は荀爽(じゅんそう)だけでなく八竜の従兄弟にあたる荀昱(じゅんいく)荀曇(じゅんたん)など清流派が多いからだ。そういう意味では荀彧(じゅんいく)の父である荀緄(じゅんこん)荀悦(じゅんえつ)の父である荀倹(じゅんけん)(じゅん)家の舵取りに相当苦労していると容易に想像できる。

 張譲(ちょうじょう)の父親の葬儀に荀悦(じゅんえつ)が遣わされることについてもひと悶着あったのではないだろうか。


挿絵(By みてみん)


 「ふふ、(じゅん)家の者がここにいることが意外なようですね?世間では八竜などと謂われていますが兄弟でまとまることもできていないのが(じゅん)家の実情なのですよ。父(荀倹(じゅんけん))や荀緄(じゅんこん)どのは宦官との対立を望んでいません」


 「家を守るためにはそういう考えも必要でしょう。なにも宦官について甘い汁を吸おうというのではないのですから気に病まれることはないと思います」


 「しかし世間はそうは見てはくれません。実際、荀緄(じゅんこん)どのがこのたび尚書僕射(しょしょぼくや)に任命されるようです」


 自嘲気味に話す荀悦(じゅんえつ)淳于瓊(じゅんうけい)は首を横に振って答えた。


 「尚書は天子の耳となり手足となる職。経緯はどうあれそこで職務をしっかりと果たされるのであれば決して間違った選択とは言えないのではないでしょうか」


 尚書は皇帝の私有財産の管理や上奏文の取り次ぎなどいわば宦官の士大夫版のような存在であり、 尚書が宦官と結託して悪さを働けば皇帝は目隠しをされ手足を縛られるようなものである。逆に尚書がしっかりと職務を果たせば宦官も好き勝手にはできなくなるのだ。


 「そう言ってもらえるとはありがたい。叔父上(荀緄(じゅんこん))にもそのように伝えておきましょう」


 荀悦(じゅんえつ)が嬉しそうに話す。(じゅん)家の場合は清流派と濁流派で分裂しているのではない。強いて言うなら急進派と穏健派で分かれているといったほうが実態に近いようだ。それだけどこの家も党錮の騒ぎで対応に苦慮しているのだ。潁川(えいせん)淳于(じゅんう)家とてよそ様のことをどうこう言える立場ではないし、理解を示すことで(じゅん)家と友好的関係を築けるなら安いものだ。


 "まあ、将来の覇王様(曹操(そうそう))に目を付けられてしまった以上、俺と仲良くすることが(じゅん)家のプラスになるかは微妙ですけどねえ。荀彧(じゅんいく)荀攸(じゅんゆう)の伝手で魏に仕官するのは絶望的か?とはいえ袁紹のもとじゃ史実通りになってしまう危険性があるし、董卓(とうたく)張譲(ちょうじょう)と行動をともになんて死にに行くようなもんだし・・・黄忠(こうちゅう)と荊州で難を逃れるのも手か?黄忠(こうちゅう)はなんで韓玄(かんげん)のもとに居たんだったけな"


-------------


 「しかし賈彪(かひょう)どのもここへ奇妙どのが来ることをお認めになるとは思い切ったことをしましたね。都(洛陽(らくよう))に行くに当たり弟子に迷惑がかからぬようにとのお心遣いなのでしょうか?」


 「は?」


 ぼんやり将来プランを考えていた淳于瓊(じゅんうけい)の思考は唐突にでてきた荀悦(じゅんえつ)の爆弾発言によって止まった。まったく寝耳に水である。


 「偉節(いせつ)さまが都へ?そのような話があるのですか?」


 「あれ?聞いていませんか?荀爽(じゅんそう)どのが賈彪(かひょう)どのらと共に都へいき清流派の方々を説得して周るのだといっていましたが」


 初耳である。そんなことをしても無駄だ、と思わず口にしてしまいそうになるがここでそんなことを口走っても仕方が無い。淳于瓊(じゅんうけい)はかろうじて言葉を飲み込んだ。なんでも昨年末に郭泰(かくたい)荀爽(じゅんそう)何顒(かぎょう)らが賈郷(かごう)に訪れた時にそういう話が行われていたらしい。酒造りに気をとられていて彼らの密談に注意を払っていなかったのが裏目に出てしまった。


 「急いで賈郷(かごう)に戻ります」


 ぐずぐずしてはいられない。いま都では司隷校尉(しれいこうい)李膺(りよう)と徒党を組んで世を騒がせたとして清流派が次々に逮捕投獄されているのだ。そんな洛陽へいって李膺(りよう)を弁護して周るということは自分から投獄されにいくようなものではないか。なんとしても賈彪(かひょう)を止めなければならなかった。


 淳于瓊(じゅんうけい)荀悦(じゅんえつ)黄忠(こうちゅう)らに別れを告げて早々に張譲(ちょうじょう)の屋敷を後にしたのであった。


荀悦(じゅんえつ) 生年148年 字は仲豫 潁川(えいせん)潁陰(えいいん)の人 

 曹操(そうそう)に使え献帝の話相手を務めた人物

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