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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
賈郷篇
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第5話 温県

白馬寺で兄と別れをすませ、一行はさらに北東へ馬を進めていた。

淳于瓊は白馬寺で胡服のズボンを貰って履いていた。馬に乗る際に内股や臀部を保護してくれる優れものである。


やがて一行がおよそ60里(30km)ほど進んだところで1泊することになった

そこで賈彪は淳于瓊に明日は朝から渡河すると伝えたのである。


「なぜ潁川へ行くのに黄河を渡るのです?」


淳于瓊は賈彪に尋ねた。洛陽も潁川も河南にあり、黄河を渡る必要はない。


「河内郡温県に先の潁川太守がおられる。潁川の士大夫はみな帰郷の際に挨拶をすることになっておる。」


「へえ、どのような方ですか?」


「司馬雋、字を元異といわれてな、昨年まで潁川太守をつとめられたのじゃ。その父上も豫州刺史をつとめられた我々に縁のある家柄よ。」


「すごい名門ですね。」


淳于家もそれなりの名門なのだが、司馬家には遠く及ばない。しかしそれよりも気になることがあった。


”河内郡温県の司馬ってあれだよな。司馬懿ってもう生まれてるのか?いきなり主役級の登場とかやめてほしいんだが…。まだ生まれていないとは思うが、あるいは兄の司馬朗ならいてもおかしくないか?”


「奇妙、ひとつ言っておく。明日司馬家においては求められぬ限り発言を慎むようにな。もちろんそのような胡服など論外じゃ。」


淳于瓊が考えごとをしていると賈彪が釘をさしてきた。


「司馬家は長幼の礼に厳しい。幼いそなたが生意気な口を利いては為にならんぞ。よいな?」


「承知しました。偉節さま。」


淳于瓊は素直にうなずいた。現段階で史実の大物と下手に関わりたくはない。

ここは賈彪さんに忠告通りでいこうと決め、淳于瓊は早めの床に着いたのであった。



翌朝~


朝もやのかかる中、淳于瓊たちは渡し舟に乗り込んだ

初めての黄河は意外におだやかで、快適であった。舟中で淳于瓊はズボンを脱ぐのも忘れない。


北岸に着いてからさらに北上した一行は半刻ほどで目的の司馬家に到着した。


「淳于瓊です。潁川淳于家の次男で6歳になります。お見知りおきを。」


とりあえず、挨拶だけして後は猫をかぶってることにした。

司馬雋さんが「6歳にしてはしっかりしておるな。先が楽しみだ。」とか言ってくれてたのでたぶんうまくやれていたのだろう。礼儀についてはこの世界で生きていく覚悟をして以来、必須項目としてまじめに覚えてきたのだ。これくらい朝飯前である。


そうこうしていると司馬雋さんが、17歳になる長男、司馬防を呼んだ。


「若輩とはいえ長男の建公はわしよりよほど見込みがある。太学で名を轟かす賈偉節どのには及ばぬゆえ、ここはひとつご教示くだされ。」


とかのたまって賈彪さんに紹介してきた。


”司馬防か…たぶん司馬懿の親父さんにあたるんだろうな。司馬防さんはまだ17歳、司馬懿は次男だから生まれるまでまだ10年くらいはありそうだな。”


とか考えている間に、賈彪と司馬防の議論が白熱しだしていた。


「陽が欠けるのも夷狄の侵寇が止まぬのも、濁流の輩(宦官)が欲しい儘にし賄賂がはこびるまつりごとに天が怒っているは明らかです。」


「陽が欠けるのは陽と月が偶然重なったからに過ぎぬ。夷狄が叛くのは食に窮したからよ。悪政でも善政でも関わりなく起きておる。君子から徳が失われたから天が災異を起こすのでない。災異に対処するためにこそ君子に徳が必要なのだ。」


「まさか名声高き賈偉節さまの言と思えませぬ。そのような虚言到底受け入れられるものではありませぬぞ!」


全くの平行線である。


”しかし賈彪さんの論旨はまるで自分の意見と同じではないか…そこまで賛同してもらえてる感じではなかったんだけど”


口を慎むよう事前に言われていた淳于瓊は二人の議論を黙って聞いていた。


”そうか、ひょっとして賈彪さんわざと…”


あることに気付いて淳于瓊は納得した。


司馬防が憮然とした様子で退出したあと、淳于瓊は賈彪に向かって頭を下げた。


「どうした、奇妙?」


「はい。偉節さまのお心遣いに御礼申し上げます。」


賈彪は笑った。それを見て淳于瓊は自分の予想が合っていたことを確信した。


「事前にご忠告して頂かなければ、大変なことになってたやも知れません。」


それなりに立場名声のある賈彪の発言でもあれである。年端もいかない自分が同じ発言をしたらどうなっていたか…。賈彪はその危険を避けるためにわざわざ一芝居打ってくれたのだ。


「奇妙よ。そなたは聡い。だが、何事も過ぎれば凶事のもととなる。もしそなたが誰彼かまわず持説を披露すればやがて身を滅ぼすことになろうぞ。」


「身に染みて感じ取りました。」


賈彪は満足げに目を細めて笑った。


「家柄だけでなく、故事に明るく議論明朗で清廉の志もある。先ほどの若者もかなりの役職に昇ることになろう。だが所詮は治世の能臣に過ぎぬ。奇妙、わしはそなたこそが蒼天の命運を担う望みであると踏んでおるのだ。蒼天は将に死なんとしておる。そなたに出来なければだれにも救えまい。」


「…精進いたします。」


期待のでかさに少し引きながらも淳于瓊は素直に答えた。


”しかしなにかがひっかかる。蒼天将死…どこかで聞いたことあるような…”


「あぁっ!」


大声を出してしまい皆に不振がられた淳于瓊は慌てて誤魔化したが、内心は興奮状態である。


”思い出した!蒼天巳に死す、黄天當に立つべし、歳は甲子に在り、天下泰平! 歳在甲子!これだよ!黄巾の乱は甲子の年じゃないか!えーと、今年は乙巳で42番目の干支だから…19年後が甲子だな。黄巾の乱は184年になるから…。今年が165年で確定か!!”

”思わぬところで年代を確定できたなー。あと19年か。25歳の時だな。それなりに時間はある…か。いや賈彪さんの望みどおり漢を救うには、黄巾の乱までにある程度実績を積まないといけないからそう考えるとかなり厳しいかも。”


こうして淳于瓊の司馬家訪問は思わぬ展開で幕を閉じたのであった。

司馬防 字を建公 河内郡温県の人で149年生まれ。

    ご存知、司馬朗・司馬懿(仲達)の父親。

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