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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
党錮篇1
35/89

第32話 甘さ

短いですがキリのいいところで投稿します

 度遼将軍の張奐が洛陽に召還された。


 賈彪の家人である李栄からこの一報を聞いた淳于瓊は頭が真っ白になって固まってしまった。


"バカな…。あり得ない…"


 呆然としつつ詳しい話を聞くと、張奐は三公九卿の一つである大司農の地位を与えられたのだという。

 度遼将軍の任を解任されたといっても、三公九卿のほうが地位も名声もはるかに高い。これは大出世である。涼州出身の武人が三公九卿の地位に登ったなど聞いたことがない。名士として名高い郭泰の訪問を受けただけで舞い上がっていた張奐の性格からして断るなど選択肢にないだろう。


"政略だけをみればいい手だな…"


 淳于瓊は苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。

 清流派にしてみれば'精強な軍を率いた将軍張奐'と手を結んだのであって、'大司農の張奐'では意味が無いからだ。だからといってもし清流派が張奐の大司農就任に反対などすれば、張奐は清流派を恨むだろう。それどころか下手をすれば宦官側についてしまいかねない。


 まったく非常にいい手だ。政略だけをみれば(・・・・・・・・)


 しかし政略を離れ、軍事面に目を映せば全く異なる状況が見えてくる。北方の強大な鮮卑族を、鮮卑族の本拠地に近い并州雁門に'名将張奐が'軍を率いて駐屯することでけん制する。この大戦略により長大な漢の北辺の安全が保たれてこれたのだ。

 張奐が洛陽に召還されてしまえば、将無き軍隊が雁門に駐屯していてもなんの抑止力にならないだろう。東の幽州から西の涼州まで、鮮卑族は漢の北辺に対してフリーハンドを得ることになる。


 '朝廷が漢の防衛の根幹を揺るがすような手段を用いてくる筈が無い'


 淳于瓊は勝手にそう判断していた。


 清流派が民のためといいながら民の困窮を他所に政争に明け暮れるなら、宦官連中が漢の防衛など無視して政略を優先する手段を講じてきても不思議はない。いくらなんでもそんな真似はしないだろうと判断した淳于瓊が甘いのだ。


 淳于瓊は己の浅慮が結果として涼州に赴任している兄を危険にさらしてしまったことを悟った。


 "こんなことなら張奐を清流派の味方につけようなどと言うんじゃなかった"


 まさに後悔先に立たずである。


 「くそっ!」


 民のことより権力争いを優先する清流派に納得がいかない。

 国家のことより権力争いを優先する宦官派も気に喰わない。

 しかしなにより、己の甘さこそが淳于瓊には許せなかった。


 "何が未来知識だ。何が現実主義(リアリズム)だ。結局俺にはなにもできねえのか"


 淳于瓊は賈郷でただ後悔と焦燥を募らせるしかなかった。




 そんな日々を過ごす淳于瓊のもとに2通の手紙が届けられた。

 1通は白馬寺僧侶の支楼迦讖(しるしかん)からで、もう1通は雁門にいる董卓からであった。


 支楼迦讖からの手紙には淳于瓊が恐れていたことが書かれていた。すなわち東羌族と接触していた部族が鮮卑族であることが確認されたのである。両部族が協力して攻め込むならば地理的に兄のいる涼州東部がまっさきに狙われることになる。張奐という重しの取れた鮮卑族が東羌族と共同で攻め込んでくるのは時間の問題かもしれない。


 暗澹とした気分のまま、続いて董卓からの手紙を開いた。董卓も淳于瓊と同じ見解のようで涼州が危険な状況にあると判断しているようであった。そして手紙の最期に書かれた内容に淳于瓊は思わず目を見開いた。

 そこにはかねてより話が出ていた兄、淳于沢の護衛役の名前が書かれていたのだ。

 

 '樊稠、字を伯密、金城の人を向かわせる'


 「樊稠、樊稠か。これはありがたい」


 董卓配下ということで歴史上の評価は低いが、董卓子飼いの武将の中ではもっとも武勇に優れ、兵士からの人望も高く、同郷の韓遂を見逃してやるなど義にも厚い人物だ。今回の人選としてはまさに適任だろう。


 なんだか董卓派と潁川淳于家がずぶずぶの関係になりそうな気もするが、そんな先のことを気にしている場合ではない。


 "仲潁さん(董卓)、グッジョブだよ"


 董卓自身、武に優れた配下は手放したくない状況だろうに、兄のためにもっとも適した人物を選んでくれたのだ。淳于瓊は董卓に心から感謝の念を覚えずにいられなかった。

 

樊稠 字を伯密 生年146年 涼州金城郡の人(字、生年は架空設定)

  史実では董卓暗殺後、残党として李傕、郭汜、張済らとともに長安を奪回する。

  武勇に優れた武将であったが、李傕に疑われ粛清されてしまう。

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