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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
党錮篇1
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第28話 君を軽しと為す


"王允っ!?や、やべえじゃんっ!…いや、お、落ち着けよ。い、い、いくら未来で董卓を殺すことになるからって、い、今の段階では関係ないんだ。二人が会っても問題ない…よな?"


 冷静に考えれば、官軍の狼藉により拉致された女たちを保護している董卓、保護された女たちに便宜をはかる王允、両者が反目する理由はどこにもない。


 とはいえ王允が董卓を暗殺するという史実を知る淳于瓊の不安はぬぐえないまま、

2日ほどで一行は并州(へいしゅう)の州都である晋陽(しんよう)に到着した。



子師(しすい)(王允)どの、急に押しかけてすまんな」


「なにをおっしゃいますか。今の私があるのは林宗(郭泰)どののおかげですぞ。ささ、どうぞお上がりくだされ」


 晋陽にある王允の邸を訪れた一行は中へと通された。

出された茶(この時代の茶は高級品である!)を飲みながら郭泰が話を始めた。


「実は雁門に行った帰りでな」


「雁門ですか…。あの地には張将軍(張奐(ちょうかん))がおられますな」


王允の目つきが変わる。しかしそれ以上は追求して来なかった。郭泰は清流派の有名人だ。おおよその察しがついたのだろう。


「党事じゃよ。まぁ、それはうまくいった。」


意外にも郭泰は隠すそぶりもなくあっさりと認めてしまった。むしろ清流派と張奐との協力関係を積極的に宣伝したいのかもしれない。清流派が手にした張奐というカードは隠すにせよ喧伝するにせよ、どちらもありなのだろう。


「では、どのようなご用件で?」


 王允が訝しげに聞いてくる。


「うむ、子師どのは官軍の中に近隣の郷を襲う不届き者がおることはご存知かな?」


「ええ。そのような被害が何件か報告がきております。」


 王允の眉間に皺がよる。対応に苦慮しているのだろうか。


「なら話がはやい。それらの被害を受けた郷に便宜をはかってもらいたいのよ。」


「もちろんそれは我々の仕事ですから当然です。しかしなぜ林宗どのがわざわざ?」


 太原の人間である郭泰がなぜ雁門の者たちのこと頼みにやって来たのか不思議なのだろう。


「それについてはわしは直接関わっておらんからな。こちらの者たちから説明させよう。偉節(賈彪)の家人と偉節が預かっている潁川淳于家の次男坊じゃ。」


いきなり振られて趙索と淳于瓊は顔を見合わせる。


「趙さん、お願いします」

「いや、俺にそういうのは無理だぞ?」


 短い押し付け合いの末、淳于瓊が説明することになった。


「潁川淳于家の次男、淳于瓊です。兄が涼州へ赴任しているため、偉節さまのお世話になっております。奇妙とお呼びください。」


「おお、幼いのにしっかりしておるな。偉節どのや林宗どのが目にかけられるわけだ。」


”賈彪さんに師事してるってことで普通に(?)高評価してもらう分にはいいんだけどな。いろいろはしょって説明しないと…”


 賈彪の家人である趙索に羽林郎(うりんろう)である董卓とつながりがあったこと

 ちょうど董卓が張奐将軍の麾下(きか)にいて、その伝手(つて)で雁門を訪れたこと

 郭泰の用事が済むまで董卓の陣営にいたこと

 そこに虎賁(こふん)の兵による略奪の報が届けられたこと

 董卓らと駆けつけた際に女たちを保護したこと


 淳于瓊は董卓との問答や出産に立ち会ったことなどには触れずに時系列で説明をしていった。


"これなら王允に目を付けられることはないよな。あとは古典の言葉で締めくくっとくか"


「民を尊しと為し、社稷は之に次ぐ、といいます。何とぞよしなにお取りはからい下さい」


 そう言って淳于瓊は頭を下げた。しかし王允から返事が無い。そろそろと王允の様子を窺がうと、口をあんぐりとあけてこちらを見ている。


 どうやら何か変なことをいったとかそういうわけではなく、単に幼い淳于瓊のあまりにも大人びた説明に度肝を抜かれたようである。淳于瓊の視線に気付くと、王允は慌てて答えた。


「ご、ごほん。奇妙といったな。偉節どのの元でよく学んでおるようだな。兄上も安心されておるだろうて。うん、安心せよ。その者たちについては出来るだけのことはしよう。」


 淳于瓊は王允を上手く説得できたことにホッとして再び頭を下げた。この時代の基準での'優秀である'との評価ならば案ずることは無い、歓迎すべきことである。董卓のように'見抜かれてしまう'のは勘弁してもらいたいが。




「ふふん。君を軽しと為す、か」


 と、ここで郭泰が茶々を入れてきた。たしかに淳于瓊が引用した孟子の言葉は、もともと'民を尊しと為し、社稷は之に次ぎ、君を軽しと為す'なのだが、最後のは多少過激なニュアンスを持つのでわざと省いていたのだ。


”おいっっ!せっかくかどが立ちそうなところは省略していたのに…、っ!そういうことか!”


 淳于瓊は最後に失敗を犯していた。清流派が天子に疎んじられる情勢で'君を軽し'という言葉を無意識に避けてしまったが、気を利かして(・・・・・・)省略するというのは尋常な六歳児のすることではない。清流派の置かれた微妙な状況を理解しているという証だからだ。むしろそのまま全部引用してしまうほうが無難であった。


 「えーっと、そうでした。続きがあるのを忘れていました。まだまだ浅学で恥ずかしい限りです。はははは…」


 淳于瓊は誤魔化そうとしたが時すでに遅し。王允の淳于瓊を見る目つきは完全に変わっている。淳于瓊は嘆息して天をあおいだ。


一方この状況をつくった張本人である郭泰は楽しそうにニヤニヤとしている。

賈彪は淳于瓊が尋常な子どもではないことを隠すように指導しているが、郭泰は積極的に広めようとする方針なのかもしれない。思い返せば潁陰の荀家でも董卓との初顔合わせのときもそうであった。


”やられた。董卓と王允の両方に目をつけられて、将来二人が争う状況になった時どうすりゃいいんだ?どちらに味方しても死亡フラグだっていうのに”


 淳于瓊に未来知識というアドバンテージがあるがゆえの悩みである。いくら人のためを思ってのこととはいえ、思わずジト目で郭泰を睨んでしまう淳于瓊であった。

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