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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
党錮篇1
22/89

第20話 逃げられない!

「それで司隷校尉(李膺(りよう))には納得していただけたのですね?」


「渋々だがな。」


郭泰(かくたい)が苦笑しながら答える。洛陽で説得に随分奔走したらしい。


淳于瓊(じゅんうけい)と郭泰、趙索(ちょうさく)の三人は并州(へいしゅう)を馬で移動中である。

明日には張将軍(張奐(ちょうかん))の駐屯する雁門(がんもん)に着くだろう。


”ついに明日、董卓と対面か~”


淳于瓊にしてみればこんなに早く董卓に知遇を得るなど予定外もいいところだが、ことここに至っては腹をくくるほか無い。


できるだけ大人しくしてようと固く心にきめる淳于瓊であった。



叔潁(しゅくえい)(董旻(とうびん))、久しぶりだな。董の兄貴も元気でやっているか」


駐屯地に到着すると董卓の弟、董旻がお出迎えにやってきた。

なにやら趙索と董旻が同年代で、董卓が趙索の兄貴分という関係とのこと。


「おお、やっと到着したか。兄貴もここ何日かまだかまだかと待ち兼ねておるぞ。」


董旻の言うとおり、洛陽で李膺の説得に手間取らなければとっくに雁門へ到着している手筈であった。

淳于瓊ら三人が董卓の宿営所へと案内されると、30代半ばの精悍そうな男が満面の笑みを浮かべながら声をかけてきた。


「趙索、でかくなったな。十三年ぶりか!」

「董の兄貴!お元気そうで。羽林郎に出世したとか、活躍ぶりは聞いてますよ。」


羽林の兵はその多くが涼州出身者の子弟で構成されるのが特徴だが、その中でも董卓は郎(武将)として頭角をあらわしつつあるのだろう。ちなみに郎を束ねるのが将軍である。

雑兵~郎~将軍の序列だと思ってもらえればいい。


「そちらの御仁が高名な郭林宗どのですな。董卓、字を仲潁(ちゅうえい)、涼州 隴西(ろうぜい)郡の人間です。田舎者ゆえ無作法はご容赦くだされ。」


董卓が意外と丁寧な挨拶をしてくる。


「高名かどうかは知らぬが、郭林宗(かくりんそう)だ。并州は太原(たいげん)の出だ。よろしく頼む。」


やはり現時点での董卓からは傲慢さや残忍さをまったく感じさせない。

その一方で八尺(約190cm)近いその体格はがっしりとしており、身のこなしには隙が無い。

おそらくはかなりの武勇の持ち主であると推察される。

一代の英雄の風あり、とでもいうところだろうか。


と、ここで董卓の視線が淳于瓊に向けられる。


「で、そちらの子どもは趙索の子か?」


そう董卓は趙索に聞いてきた。たしかに二十代後半の趙索と六歳の淳于瓊は親子に見えなくもない年齢差である。趙索は事前の手紙に淳于瓊のことまでは書かなかったのだろう。


「ち、違います!こちらは潁川淳于家の次男です。偉節(賈彪(かひょう))さまが賈郷で預かってるんですよ。」


「潁川淳于家?たしか若い当主が新しく涼州の漢陽郡に赴任したのではなかったかな?」


淳于瓊は驚いた。いくら郷里(隴西)の隣の郡とはいえ、一県令の人事までチェックしているとはおもわなかった。


「はい。兄の淳于沢がこの春に漢陽郡 ()の県令の任を拝しております。

兄が涼州へ赴いている間、賈偉節さまに預かって頂いているのです。

淳于家の次男で淳于瓊、幼名は奇妙と申します。お見知りおきを。」


"忘れてくれて全然かまわないからね〜"


との本音を隠しつつ、淳于瓊は無難に挨拶を交わす。

しかし董卓は思案げな表情で聞き捨てなら無いことをのたまった。


「ふむ、斉南の淳于家と違って、潁川の淳于家は宦官と距離をおくか…」


”それはなにか?俺が賈彪さんに預けられたことを、潁川の淳于家は清流派にくみするって意味で捉えているのか?いや、それまずいよな。兄さん辺境にいるのに中央の宦官に目を付けられたらいつまでも帰って来れないじゃん。”


「兄上はただ同郷の偉節さまのご好意に甘えただけにございます。他意はございません。」


実際に掛け値なしの事実である。

と、同時に失言でもあった。とても6歳児の発言ではない。他意ってなんだよ!ってやつだ。

案の定、董卓の目に興味の色が浮かび、こちらをじっと見ている。


「ほう、その歳で今の政治状況と自らの置かれた立場を理解しておるか」


”やべえ、やっちまったか?”


背中を冷や汗が流れ落ちるのを淳于瓊は感じた。

ただ幸運にも董卓はそれ以上はこだわることはなく、郭泰に向かって話をはじめてくれた。


「趙索の手紙では、張将軍(張奐)に渡りをつけて欲しいとのことでしたが、どういった風の吹き回しでしょうか?」


「言葉通りだ。名将として名をはせる張将軍とは良好な関係を築いておきたいのだよ。」


董卓の疑問に郭泰が答える。

話がそれてくれたので淳于瓊もホッと一息である。


「たしか司隷校尉どのは皇甫将軍(皇甫規(こうほき))を門前払いにされたとか…。此度(こたび)の件は司隷校尉どのの発案ではありますまい?」


「たしかに。だが司隷どのにも了解は頂いておるぞ。その為に到着が少し遅くなってしもうたが。」


「ほう、ならば林宗どのの発案ですか?」


それたはずの話の雲行きの怪しさに淳于瓊がビクっと反応してしまう。

郭泰は首を振って自分ではないと否定する。


"郭泰さん、うまく誤魔化してくださいよ?"


淳于瓊は祈るような気持ちで郭泰のほうに目をやるが、その表情は読めない。

さらに董卓が畳み掛けるように質問を続けてくる。


「ならば賈偉節(賈彪)どのの?あるいは荀慈明(荀爽(じゅんそう))どのあたりでしょうか?」


「どちらも違うな。此度の件を言い出した者なら今そなたの目の前におるよ。」


”郭泰さん、なに言ってくれてんの~!?”


心のなかで叫びながら、淳于瓊は追い詰められたことを悟らざるを得なかった。


董卓が趙索のほうに目を向けるが、趙索は慌ててかぶりを振って否定する。

郭泰でも趙索でもないなら、残るのは一人しかいない。

困惑を含んだ董卓の目線がゆっくりと淳于瓊へ向けられる。


「董仲潁(董卓)どの、全てこの奇妙が言い出したことだ。濁流どものが非常の手段に出ないよう、武力を味方に付けねばならぬ。その中でももっとも精強な羽林の兵は欠かせぬとな。」


郭泰の言葉に董卓の目が大きく見開かれる。

一方の淳于瓊には郭泰の言葉は死刑宣告にしか聞こえない。


”完全に目をつけられたな、これは。”


事前の計画が無に帰した淳于瓊はハハハ…と乾いた笑いを浮かべるのみであった。

董卓(とうたく) 字を仲潁(ちゅうえい) 生年133年 涼州 隴西(ろうぜい)郡の人。

   史実では暴虐の代名詞のような人物として伝わる。


董旻(とうびん) 字を叔潁(しゅくえい) 生年139年 董卓の弟

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