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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
党錮篇1
19/89

第17話 力が正義だとは言わないが…

官職名が多く出てきますが、興味ない方は適当に読み飛ばしてもらってまったく差し支えありません。

"勝ち目のあるやり方、とは言ってもなぁ。"


正直どうすればいいのやら、である。

そもそも、勝利条件はなんなのかすら怪しい。


"厳しいな。覚悟の質の問題的に。"


淳于瓊はそう判断せざるを得ない。袁紹のように宮中に乱入して宦官を皆殺しにしたり、董卓のように天子から実権を取り上げたりするような真似は清流派にはできまい。

だが…


「事を成すには軍を味方に付けておかねばならないと存じます。」


淳于瓊は切り出した。儒教色の強い清流派にはその観点が致命的に欠落している。口げんかで勝っても、首を刎ねられればそれまでなのだ。


「ふざけるな。天朝に対して乱をおこすことなどできん。」

「そうだ、武力で事を成すなど天の道理に反する行為ではないか。」


予想通り速攻で反対が返ってきた。儒教の総本山である太学のトップをつとめる二人なのだから当然だ。

だが現実問題として軍事的背景があればおいそれと粛清されるようなことにはならないだろう。譲れない条件である。


「もちろん叛乱を起こし社稷(しゃしょく)を覆す(漢朝を倒す)のが目的ではありません。清流派が軍を押さえておく目的はあくまで、濁流派が軍を使って弾圧してこないようにするためです。彼らは追い詰められれば軍を使うことを忌避しないでしょうから。」


相手は実力行使を恥と思う連中ではない、だから実力行使させないための自衛である、との論理だ。

郭泰と賈彪が顔を見合わせる。


「ううむ、奴等に実力行使をさせぬためか…」


二人の態度が軟化した機を捉え、淳于瓊は話を進める。


城門校尉(じょうもんこうい)執金吾(しっきんご)衛尉(えいい)虎賁(こふん)中郎将や羽林(うりん)中郎将などを味方につけることができると良いのですが。」


城門校尉は洛陽の城門を警護する部隊を率いる職で、執金吾が宮殿の周辺、衛尉が宮殿の門を警護する職である。あとの虎賁、羽林中郎将は天子の親衛隊。これらが現実の兵隊を率いる官職である。


「今の城門校尉や虎賁中郎将は腰抜けだ。あてにならん。といって、清流派から代わりの人物を立てようにも宦官どもが認めるとは思えんな。」


郭泰が答える。


「ならば秘かに清流派の息のかかった人物を、それと悟られぬように任命されるよう仕向ければよいのです。」


「?」


「この春、鄧皇后が廃されましたが新しい皇后はまだ決まっておりません。」


「いまの後宮は側室だらけだからな。」


渋い顔で賈彪が答える。それはそれで大問題なのだろうがいま肝心なのはそこではない。


「近々決まる新しい皇后の親族には官職が与えられるでしょう。上位の大将軍とか車騎将軍といった名誉職が通例ですが、それを辞退させれば、より格下の校門校尉や執金吾に任じられる可能性が高いのではないでしょうか?」


新しい外戚は将軍職に任じられる確率が高い。これは中央政界の新参者にとって比較的ハードルが低く、努めやすい官職だからだろう。今回はそれを逆手にとらせてもらう作戦だ。

皇后候補の親族に秘密裏に接触しておき、晴れて皇后となった暁には打診されるであろう名誉職を辞退して実兵力を統括する官職を受けるように申し合わせておく(もちろん他の候補が皇后になりそうになれば清流派がいちゃもんをつけて潰す)のだ。


「奇妙には謀略の才もあったのだな。」


賈彪が呆れ顔でのたもうた。


「お褒めに預かり恐縮です。」


淳于瓊は白々しく答えた。賈彪の目が'褒めたのではない'といっているような気もするが気にしたら負けだ。


「あとは羽林が味方となれば心強いのですが…」


淳于瓊が羽林にこだわるのには理由がある。他の官職の兵はいわゆる都会の兵で実戦において当てにできるか甚だ怪しいのに対して、羽林の兵は北辺や西方の子弟が中心で精強さでは群を抜いているのだ。


「羽林の兵はいま張然明(張奐)の麾下(きか)にあったはずじゃな。」


涼州三明の一人、張奐は度遼将軍として幷州(へいしゅう)の北辺に出征し、鮮卑(せんぴ)烏桓(うがん)といった夷荻に睨みを利かせている。羽林の兵はその出征軍に組み込まれているのである。


「わしの家(幷州太源)から張然明の駐屯地までそう離れてはおらん。だが、いかんせん伝手が無い。」


「そういえば趙索の幼馴染が羽林に居た筈だ。涼州の人間なのだが、父親が潁川の輪氏で尉を勤めていた縁でな。たしか董仲潁(とうちゅうえい)とかいったかな。よし、林宗よ。趙索とともに赴いて張然明に渡りをつけてもらえるか?」


都合のいいことに意外なつながりがあったようだ。


「私も同行させて頂けませんか?趙さんも行くなら安全だし、足手まといにはなりません。」


淳于瓊は同行を願い出た。涼州三明に会ってみたいのもあるが、それよりも理想主義の儒家(郭泰)と戦場経験の長い名将(張奐)では話がどうころぶか不安でしかたない。


「奇妙。物見遊山では無いのだぞ。危険がないとはいえぬ。」


と賈彪は反対したが、郭泰が賛成してくれた。


「まあ、そんなに心配せずともよいではないか。小さいうちから広い天下をみて巡わるのもよい経験だ。奇妙の勉学なら道ながらわしがみてやろうて。これでも偉節には劣らんぞ。」


淳于瓊もここは素直にお礼を述べておいた。郭泰や賈彪クラスにマンツーマンで勉強を見てもらえるなど普通はそうそうあることではない。


こうして、郭泰、淳于瓊、趙索の三人が幷州へいくことが決まり、趙索が部屋に呼ばれた。


「趙さん、董仲潁とはどのような御仁なのでしょうか?」


淳于瓊は趙索に、張奐の部下であるというその人物のことを聞いてみた。


「董卓、字を仲潁。涼州は隴西郡(ろうぜいぐん)の人だ。武勇にすぐれ侠気ある男だよ。」


どうやら特大の地雷が炸裂したようである…

ようやくチョイ役以外で演義に出てくる主要人物が登場します。

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