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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
党錮篇1
18/89

第16話 清流と濁流と

「これからは濁流(宦官勢力)どものすきにはさせんぞ」


いきなりそう話す郭泰に、淳于瓊は唖然としていた。


"なに言ってんだ、このおっさん。"


といったところである。だが、話を聞くうちにじょじょに顔が青ざめていった。


"これって、あれか?党錮の禁じゃねえか。あったな、そんなイベント!"


'党錮の禁'は後漢の歴史で欠かすことの出来ない重要イベントである。とはいえ、さすがに淳于瓊も詳細までは記憶していない。ただ言えるのは清流派と濁流派(宦官勢力)が争い、勝つのは宦官勢力であるということだ。


"189年に外戚の何進と宦官が対立して、宦官たちは先手を打って何進を殺すも、報復に袁紹らが宮中に乱入して宦官を殺しまくるんだ。その混乱で宦官に連れ出された天子を保護したことがきっかけで董卓の暴政が始まるんだったな。

ここで重要なのは189年までは宦官の権勢が続いてる事実であって…どう転んでも清流派は負け組みになるはず"


これはヤバイことになったな、と淳于瓊は頭を抱え込みたい気分である。

正直清流派がどうなろうと知ったこっちやないのだが、賈彪が巻き込まれるのは勘弁してほしい。というより、見た感じ賈彪自身が首謀者の1人であるから、尚更タチがわるい。


軍事の最高責任者である太尉に陳蕃、首都洛陽を含む司隷の取り締まりを担当する司隷校尉に李膺。

たしかに防衛大臣と警視総監を清流派が占めたような状況でうまく行きそうに見える、が…


「果たしてそのように上手くいくのでしょうか?」


盛り上がる賈彪と郭泰の間に淳于瓊は割って入った。二人の視線がこちらに向けられる。


"三万人にもなる太学の(ツートップ)に揃ってこんな視線を向けられた六歳児って俺だけだろうな"


などと現実逃避しそうになる気持ちを奮い立たせて淳于瓊は続けた。


「李司隷校尉がいくら宦官に連なるものを摘発したところで、天子のそばに侍る者どもを排除できるとは思えませぬ。清流か宦官かの二者択一を迫られれば天子は彼らをとるでしょう。」


言ってしまった、もう後にはひけないな、とこの場の雰囲気を一変させてしまった淳于瓊は心の中で呟いた。


孺子(じゅし)(小僧)、我らが濁流の奴等に劣ると申すか?」


郭泰がかみついてくる。郭泰の名は賈彪の口から'当代におけるもっとも信頼できる人物'として何度か聞いている。(ちまた)では '天子も臣とするを得ず'と謂われているとか。


「はい、悪いことが起きれば全て天子(ひと)所為(せい)にして責める儒家と、なにがどうであろうとも天子の味方であることには違いない宦官、二者択一とならば天子は宦官を選ばれること間違いありませぬ。」


郭泰の顔色が変わったが、あえて淳于瓊はダメを押す。

勝負をわけるのはどちらが正しいかではない。どちらが天子にとって利があるかなのだ。


「やることなすこと全てが上手くいった武帝の御世、よいことが起きるのは天が君主の徳を(よみ)しているからである、との説は天子の耳に随分と心地よく響いたことでしょう。」

「逆に次々と災難が振りかかる当代に於いて儒家は、悪いことが起きるのは天が君主の徳を嘆いているからである、と責められ続ける天子にとって煙たい存在でしかありませぬ。」


もちろん前漢の董仲舒(とうちゅうじょ)はそのようなつもりで天人感応説を唱えたのではない。'天が君主の徳を嘉すれば慶事が起き、天が君主の徳を怒れば凶事が起きる。だから、君主たるもの学を修め、賢才を登用し、贅を慎み徳を重ねなくてはならない'というのが本来だ。

ところが、努力していなくても上手くいく巡り会わせの時代の天子はますます図に乗り、どんなに頑張っても困難な時代の天子は徳が低いと言われ続けてやる気を無くす。本来の目的とは全く逆の方向に働いてしまっているのである。


「…ふん、生意気をいいよる。偉節、この子が例の?」


郭泰が賈彪に確認する。例のって何だよ、と思いながらも口にすることはさすがに遠慮した。


「ああ。この子が奇妙だ。我々とは違う視点から物事を視ることができる。ただの六歳児とは思わぬことだ。」


賈彪が頷く。一応、褒めてはくれているみたいだ。やや渋い表情なのは淳于瓊を巻き込みたくなかったからなのだろう。郭泰の乱入で台無しになってしまったが、これまでそういう話を淳于瓊の前でしたことは無かった。


「だが奇妙とやら。今の政はあまりに酷い。このまま放置しておいて良いはずがなかろう?今が千載一遇の好機なのだ。」


「ならば、せめて!勝ち目のあるやり方にて!」


"歴史を変える最初の試み(ファースト・トライ)は黄巾の乱だとばかり思ってたんだけどなあ"


こうして淳于瓊は予想よりもあまりに早い段階で歴史の渦中に巻き込まれてしまったのである。

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