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淳于瓊☆伝  作者: けるべろす
賈郷篇
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第13話 初めての訓練

昨日は道端に馬をつないで草むらに入ったが、今回はあえて紫雲英(れんげそう)のはえている場所を選んで淳于瓊は馬を降りた。


馬が紫雲英を()むところを、趙索に目撃してもらうためである。

第三者の証言があれば、信憑性が格段に増すだろう。


「たしか昨日、この辺りで倒れていたんだ。」


淳于瓊は波才に倒れていた時の様子を説明し、落としたと思われる辺りを三人で重点的に探すと、さほど時間がかけることもなく、形見の古びた(かんざし)が見つかった。


「よかったな、紫雲。」


淳于瓊は波才に声をかけた。波才は恐縮しきりである。


「奇妙がさっきから紫雲って呼んでるけどいつの間に字をつけてもらったんだい?」


それを聞いた趙索が波才に質問する。


「先程、ここに向かう馬上で。」

「奇妙さまには、もう返しきれないぐらいの恩を受けてます。」


波才は感激した面持ちで趙索に返答しているが、そういうクサイことは、当の相手がいない場所でいうようにして欲しい。

照れ臭くなった淳于瓊は、さっさと話題を変えることにした。


「趙さん、どうでしょう、時間もあるし今から稽古をつけて貰えませんか?紫雲、体調はどうだ?一緒にやれそうか?」


「ああ。俺はかまわないぞ。」


「もう全然だいじょうぶです。」


こうして、草むらで初めての訓練が始まったのである。



三人が各々手頃な棒を拾って手に取ると、とりあえず最初に腕前をみるぞ、と趙索が言ってきた。


「二人同時に掛かってきなさい。遠慮はいらないぞ。」


淳于瓊としても望むところである。趙索の実力をこんなに早いうちに確認できるとは思わなかった。


「紫雲、俺は右に周りこむから、機をみて趙さんの背中から打ちかかるんだ。」


それだけを波才に耳打ちすると、淳于瓊は右方向、即ち趙索の左手側に周りこんで、大上段に振りかぶって打ちかかった。趙索は余裕の表情である。


「小さい子どもが振りかぶっても、大人は受けやすいだけなんだけどな……おぉっ?…おおぉわっ!」


最初の'おぉっ?'は、左手側から大上段に振りかぶってきた淳于瓊が、いきなり変化をつけてしゃがみこみ、足をなぎ払いにきたものに対してであった。

もともと小さい子どもがさらにしゃがむのでかなり低い位置への攻撃となり、受けづらい。


さらに次の'おおぉわっ!'は、淳于瓊に対処しようと左を向いた趙索の背後から波才が切りかかったためである。


完全に挟み撃ちの態勢をつくった淳于瓊は勝ちを確信した。


「もらった!」


ところが淳于瓊か波才、どちらかの一撃は必ず入ると思われたその時、趙索が予想外の動きを見せた。

なんと、趙索は低い姿勢のままで追撃しようとしていた淳于瓊に向かって踏み出すと、

そのまま淳于瓊の頭上を飛び越えてしまったのだ。


あっさりと必勝の態勢から脱出されてしまい、淳于瓊は思わず


「マジ?」


と叫んでしまった。いくらなんでもそんなでたらめな脱出法は想定していない。

結局、奇襲が失敗してはまともに立ち会う手立てがあるはずもなく、

二人とも軽くあしらわれて訓練は終わった。


「最初の奇襲、なかなか着想は良かったが、詰めが甘かったな。」


と、一段落したところで趙索は大見得をきった。が、実は内心ひやひやである。

後日、趙索は李英に次のように愚痴っていたそうだ。


「いやいやいや、ないって。六歳があんな假動作(フェイント)とか。

その上で波紫雲と挟み撃ち狙ってくるんだぞ?假動作(フェイント)さえもその為の仕込みでな。

あんなの六歳の発想じゃねえって!」


だが趙索のそんな内心を窺い知ることの出来ない淳于瓊と波才は、

素直に趙索の実力に驚嘆するばかりであった。


「すげえや。奇妙さまと二人掛かりだったのに結局一本も入らなかった。」

「うん、すごいな。でも紫雲は何本か惜しいのあったよな。」


そう、意外と波才はスジが良かったのである。一方の淳于瓊は歳相応といったところか…。


”さすが賈彪さんに武を任されるだけはある。

 シュミレーションゲームなら武力80台後半はつけてもらえそうだよ。

 賈郷の守り手としては充分すぎるくらいか…。

 呂布とか張飛とかだと、実際はどんなんだろう?”


「いやあ、君たちを鍛えれば賈郷も安泰って言いたいんだけど…」


趙索が言い淀んだ。


「申し訳ないです。」


淳于瓊は趙索・李英・朱丹や'賈子'たち家人と違い、客人である。

昔風にいえば'食客'であって将来も居続ける訳ではない。

成人すれば、或いは兄である淳于沢が西方から帰ってくれば、居なくなってしまうのだ。

波才も淳于瓊の従者なのだから一緒に居なくなることになるだろう。


「いやいや良いんだよ。奇妙にはしっかり出世してもらわないと僕らも困るからね。」


淳于瓊は苦笑した。この先、淳于瓊が出世すれば、なにかと賈郷の後ろ盾になってもらえる。

それが、賈彪が淳于瓊の世話をみることに対する対価として暗黙の了解であった。

現代中国にまで息づいて残る'コネ社会'は、この時代も健在なのである。


「今後の訓練は紫雲を中心に行おう。奇妙は学問を偉節さまに教わらないといけないし、時間を見て紫雲と手合わせして鍛えてみるといい。」


確かにそのほうが効率的であろう。淳于瓊も頷いた。


午前中、淳于瓊が学問を教わっている間に、波才が訓練をつけてもらい、

午後から波才と淳于瓊が自主練である。

夜は淳于瓊が復習を兼ねて波才に文字を教え込む。


「お、お、俺、文字を覚えるんですか?」


波才が戸惑った声をあげる。


「当然だ。紫雲には文武両道でがんばってもらうからな。」


「灯かりの油なら朱丹に頼めば大丈夫だろう」


淳于瓊だけでなく趙索にまでのっかってこられて孤立無援の波才の顔は引きつっている。


「趙さん、馬が腹をすかして紫雲英(れんげそう)を食べています。もういい時間じゃないですかね?暗くなる前に賈郷へ帰りましょう。」


趙索に馬が紫雲英を食べているところをさりげなくアピールしつつ、淳于瓊たちは帰路へとついた。



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