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4〜ファースト・マジック〜

案内されたのは信也さんの部屋。

男の人の部屋に入るのは生まれて初めてだったので、部屋に一歩踏み出した途端私はどう動いていいのかわからなくなった。


「美央、お前の友達銅像になってんぞ」

「咲子、どうしたの!?」

「え、あ、いや……!」

だ、だってなんか緊張しちゃうんだもん!

私はそわそわしたまま部屋の中を見回した。

(私の部屋とは全然違う……)

なんていうか、色が少ないって感じかな。

置いてあるものはベットやタンスなど私の部屋とはなんら変わりはないんだけど、どれもがシンプル。

ただ美容師を目指しているせいか、ハサミやくしが沢山あるし、マネキンの首のみのもの(名称なんて言うんだっけ?)を見た時はぎょっとした。

そして。

「咲子ちゃん、こっちに座って」

部屋の中央に用意された全身鏡と椅子。

下にはシートがひかれ、傍らにはミニワゴンが置かれドライヤーやハサミ、くし、スプレーなどが揃っていた。

即席美容室だ。

「は、はい」

――私のためにこんなに準備してくれたんだなぁ。

そう考えると、とてもありがたく思う。

私の髪を切るなんて一昨日決めたばかりで突然だったのに、快く引き受けてくれた信也さんは根は優しい人なんだろう。

ただ、思ったことをずばっと言うから誤解を招きやすいんだろうなぁ……。

椅子に座った私の後ろに信也さんと美央が立つ。

「咲子緊張しないでね、おにいちゃんこう見えてもクラスじゃ優秀なんだから!」

「ん〜こう見えてもは余計だな」

そう言って信也さんは私の髪に手をかけた。

(わ……!)

スッと私の髪を撫でる。

――なんだかくすぐったい感じ。

静かにドキドキと心臓が鳴り始める。

「少しくせっ毛だなぁ。髪質は柔らかめ……ちょっと細いなぁ」

「いいなぁ、私髪太いから柔らかいの羨ましい」

「美央の髪も可愛いよ、サラサラのストレートは男受けすんだぜ」

「え〜、おにいちゃんに言われてもなぁ」

楽しそうに談笑する美男美女の兄妹。

鏡に映る自分の背後が眩しくて、正面を向くことができない。

「よし、じゃあ早速取りかかるか!」

突然パン!と信也さんが手を打ったので、私の肩はビクッと揺れてしまった。

「本来ならシャンプーとかするんだけど、今回は水でサッと濡らしてから切るね」

ポンポンと私の頭を叩く信也さんの手。大きくて、ゴツゴツしてる。

「……と、タオル用意してなかったな」

「あ、私取って来るよ」

美央がそう言って部屋を出ようとする。

(え!美央行っちゃうの!?)

ま、待って〜!……と言えるはずもなく、美央は笑顔で部屋を出ていった。

パタン……と閉じた部屋の中に、私と信也さんだけが残る。

(え、えぇ〜と、どうすれば……)

やや緊張した私の表情を、多分信也さんは読み取ったのだろう。

また私の頭をポンポンと叩く。

「まぁそんな緊張なさんなって」

「す、すみません!」

年上の男の人と話すことなんて滅多にないから、どう振る舞っていいのかわからない。

しかも信也みたいに格好いい人なんて接したことないし……っ。

まだ緊張で固くなっている私の後ろで信也さんがくしを取り出す。

そのくしで私の髪をとかしながら、信也さんは鏡の中の私を見つめた。

「咲子ちゃんはもしかして好きな人いるの?」

「え、い、いませんよ!」

いきなりの質問に私はぶんぶんと手を振る。

まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。

「そう?だって可愛くなりたい子がいるって美央言ってたから。可愛くなりたいのは好きな子がいるからじゃないの?」

手を休めることなく信也さんは言う。

でも実際私には今好きな男の子はいないのだ。

私は可愛くなりたい――それは事実。

その、思いの底にあるものは…――。


「可愛くなれたら……自分が好きになれる気がして」

ぽつり、と呟いたその言葉。

それはまだ美央にも話したことのないことだった。

「私……こんなんだから自分に自信なくて。オシャレしたいけど、どうしたらいいのかわかんないし。そんな時に美央に会って……キレイの魔法かけてあげる、て言われて」

そう言ってくれた時の美央の笑顔を思い出す。

そう、あの時から私の運命は変わり始めたんだ…――。

「キレイの魔法?」

信也さんがきょとんとする。

――あ、ひかれた!?

さすがに男の人はこんなフレーズひくよね!?

いやでもこれ、美央の言葉だし……っ!

しかし次の信也さんの言葉に、私の方がひいてしまった。

「何だ美央のやつ、俺の台詞盗みやがって」

……え?

……えええぇ!?

「し、信也さんが言ったんですか!?キ、キレイの魔法……って!」

「あぁ、そだよ。俺が美央に言ったんだ」

い、意外な事実……!

いやでも、信也さんなら言いかねないかな?

「いつ頃だったかな〜あいつが小学五年生の時だっけかな?そん時あいつブスでさ〜俺が魔法かけてやったんだ」

え……美央が!?

「好きな人ができたからキレイになりたいって。そん時俺は既に美容師目指そうと思ってたからメチャ力入れて可愛くしたね〜!そん時にあいつにいつも言ってたのが『キレイの魔法』だったわけ」

「そ、そうだったんですか〜……」

衝撃の新事実だ……!

美央が元からキレイだと思ってた私にとって、その話はすごく驚いた。

でもなんか、自信持っちゃうなぁ。私でも、可愛くなれる可能性があるわけだよね?


『女の子はね、自分で可愛いって思ってなきゃ可愛くなれないんだから!』


――卑屈になる私に言った美央の言葉。

あの言葉は、もしかしたら自分自身への言葉でもあったのかもしれない……。


「二人ともお待たせ〜!ついでに飲み物も持ってきたよ!」

噂をすれば影――とはよく言ったもので。

ちょうど美央がタオルを腕にかけ、両手でトレイを持って部屋に入ってきた。

「やけに時間かかってると思ったら飲みモン用意してたのか、サンキュ」

「どういたしまして」

ニコニコ笑いながらジュースを配る美央はとても可愛い。

――でも私はもう知ってしまった。

この可愛さが、本人の努力によってできたものだってことを。

美央への憧れと尊敬は、ますます私の中で強くなった。

「はい、咲子。アップルでよかった?」

「う、うん。ありがとう」

可愛い美央。

私もこんな風になれたら……――。



「さて、咲子ちゃん切るから動かないでね」

タオルとシートで切った髪が私の体にかからないようにすると、いよいよ信也さんはハサミを手に取った。

「は、はい!」

――いよいよ始まる、信也さんの魔法。

傍らで見守る美央は私に大丈夫だよ、て笑いかけている。


私も美央みたいになりたい。

自分に自信を持てるくらい、可愛く――強く。


魔法の第一歩が、始まった。



評価してくれた方々どうもありがとうございます!アドバイスを踏まえて、これからも頑張りますのでお付き合いしてくれたら嬉しいです(^-^)さぁ、咲子はこれからどうなるのか…――!?

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