表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

3〜幸せの黄色いキャミソール〜

――まず困ったのが、服だった。

一体何を着ていくべきか……うぅ〜ん。

全身鏡の前で下着姿で悩む私。はたから見たらちょっと面白い光景かもしれない。

(山田さんちに行くんだからそれなりにオシャレしてかないとね。いつも制服だから困るなぁ〜…)

こういう時に可愛い服がないのは困る。

でもせっかく可愛くなる(あくまで予定、だが)のだし、ダサい格好はしたくない。

「あ、そうだ!確か黄色いキャミがあったよーな……」

ふいに、前気まぐれでお母さんが買ってきてくれたキャミソールのことを思い出した。

フリルが恥ずかしくて一度も着たことなかったけど、私が持つ服の中では一番可愛いのだ。

「確か二段目に……あったあった!」

タンスの引き出しから例のキャミを取り出す。うん、やっぱり可愛い。

よーし、今日はこれを着てこうっと!

「下はジーパンでいっかな〜」

「なんだサコ。デートか?」

「なわけないじゃん、友達んちに行くだけよ」

………て、……ん?

この声は―――!

「ちょっとみのる!何勝手に入ってきてんのよ!」

いつの間にか今年中学一年生になった弟、稔がいた。

小憎たらしい態度でずけずけと言う。

「いいだろ減るもんじゃなし。てかどーせサコの部屋だし〜」

「呼び捨てにするなって言ってるでしょ!早く出ていきなさいよぉ!」

稔は小さい頃から口達者で私はいつもからかわれている。

このひねくれた性格、誰に似たのかしら!しかも稔はクラスでモテモテらしいし……ほんとに私の弟!?

「友達って、高校のか?」

「そうよ!悪い!?」

「美人か!?」

興味深々に聞いてくる稔。……悪いけど、それは愚問だわ。

「……かなりね」

ふふん、と得意気に笑った私。お〜…と稔も感心をする。

「今度家に連れてこいよ、俺の女の一人にしてやる」

……つい最近までランドセル背負ってた子どもの言うことか!

でも実際いつもハーレムに囲まれている稔が言うから冗談に聞こえないのが怖い。

「馬鹿言わないでよ。てか、今私着替えてるんだから!出てよ〜!」

ぐいぐいと不満そうな顔する稔を部屋から追い出すと、ほ〜……と溜め息をついた。

ほんと、似てない姉弟。

(……山田さんのお兄さんは山田さんに似てるのかな?)

そしたらすごい美形に違いない。

またウキウキしてきた私は、黄色いキャミを初めて着た。

――素敵な日曜になりそうな予感!







爽やかな六月の風が吹く駅前。

高鳴る期待を抑えて駅前の時計に目をやる。

(十時ジャスト……もう来るかな?)

と、その時。

「神崎さん、お待たせ〜!」

山田さんが小走りにやってきた。

今日の私はカンがいいらしい。

(うわ〜!私服の山田さん可愛い〜!)

白い膝丈のワンピース。

胸下のリボンラインがよりその可愛さを強調している。

羽織っただけの七分袖のボレロの黒色が、よりワンピースの甘さを際立たせていた。

まるで、雑誌のモデルさんみたい……。

「ギリギリになっちゃってごめんね、待ってない?」

「大丈夫、私も今来たところだから」

……実は早く来すぎて二十分位立ってたけど、恥ずかしくて本当のことは言えなかった。

「よかった。じゃあ行こうか!」

「うん」

こんなに可愛い山田さんの隣を歩くのは何だか気後れするかも……。

私は少しだけドキドキしながら歩き出した。

駅から山田さんの家まで、歩いて十分くらいだという。

「それにしても今日は晴れて良かったよね、もうすぐ梅雨入りだから心配してたんだぁ」

「う、うん。そうだね」

あれ、何だか緊張しちゃうな。やっぱ制服と私服じゃ雰囲気違うからかなぁ。

しかし、山田さんは変わらない笑顔で私に話しかけてくれる。

「神崎さんのそのキャミ、可愛いね〜」

「ほ、ほんとに?」

「うん!黄色って好きだなぁ。明るい色、いいよね」

そう言われて、私の緊張がふとほぐれたのがわかった。

山田さんは可愛くて、優しい。

「ありがとう。可愛いのこれくらいしかなくて……」

照れながら言うと、山田さんはじゃあさ……と提案した。

「なら午後買い物しない?安くて可愛いお店紹介するよ〜!」

「ほんと?うん、行きたい!」

私は可愛い服屋さんなんて全然知らなかったから、紹介してもらえるのはすごく嬉しかった。

ほんとにいい子だなぁ、山田さんは。

「あ、それと今の話とは全然関係ないんだけどね」

「?」

私が首を傾げると、山田さんははにかみながらこう言った。

「名字やめて、名前で呼び合わない?他人行儀っぽいし。私、咲子って呼びたいな」

咲子……稔が言ったらむかつく呼び捨ても、山田さんが言ってくれると途端に嬉しい。

私は笑って応えた。

「もちろんいいよ!えっと、じゃあ私は……」

「美央、て呼んで」

「う、うんわかった。み……美央」

今まで友達を呼び捨てにすることがなかったから、言う時にとても緊張してしまった。でも一度口にしたら、ぐっと山田さん……じゃなかった、美央との距離が縮まった気がした。

これも、魔法のひとつ?

「ふふ、そのうち呼びなれるよ。てか今日おにいちゃんもいるし、山田さん……だとどっち呼んでるのかわからないしさ」

「あは、確かにそーかも」

山田さん、と呼んで二人とも振り向く姿を想像して笑ってしまった。

柔らかな初夏の風が、ふわりと吹いた。








美央の家は本当に私の家から近かった。学区が違うから中学は分かれていたけど、こんなにご近所さんだったのかと驚いてしまった。

小さな庭のある普通の一軒家。

私の家とそう変わりないつくりに妙に安心してしまった。

いやだって、美央のことだからテレビに出てくる豪華な家……ていう展開があってもおかしくないんだもん!

玄関の隅にある色とりどりの花は美央のお母さんの趣味らしい。

「どうぞ、入って」

「おじゃましま〜す」

遠慮がちに玄関に入ると、くつを脱いで上がった。

中も、私の家とそう変わりはなかった。

――つ、ついに来てしまった!

ドキドキしながら立っていると、美央が大声で二階に続く階段に向かって叫んだ。

「おにーちゃーん!友達来たよぉ!」

(つ、ついに美央のお兄さんが……!)

緊張が一気に高まった。

階段の奥から、男の人の声が聞こえる。

「んー、今行く」

トン、トン、トン。

階段を下りてきた美央のお兄さん。

(わ………格好いい!)

それは想像以上の格好良さだった。

まず目に着くのが瞳。美央と同じ、パッチリ二重なんだけど、切れ長にも見える。

美央が甘い瞳なら、こっちはちょい辛って感じかな?

すっと筋の通った鼻。端正な口元。

そして美容師を目指しているだけあって、髪型も格好いい。

短めに切られた髪の毛は茶色がかっていて、ワックスかなんかで逆立ててある。

身長も高い……百八十あるかもしれない。

Tシャツとジーパンという普通の服装なのに、すごくオシャレに見える。

きっと、高い服なんだろうなぁ……。

「おにいちゃん、この子が神崎咲子ちゃんだよ。咲子、おにいちゃんの山田信也」

「は、はじめまして!よ、よろしくお願いします!」

私は深くお辞儀をした。

こんなに格好いい人に髪を切ってもらえるなんて……どうしよう〜!……いや、別に何があるってわけでもないが。


しかし。


「こりゃまた……だせぇの連れて来たな」


私の胸の高鳴りは。


「お、おにいちゃん!?」


一瞬にして砕け散った。


――はい?

私はポカンと美央のお兄さん――信也さんを見上げた。

「髪は重くて暗いし背もちまいし。こりゃいじり甲斐がありそうだ」

――な、な、な。

(なんて失礼なやつなのー!!)

私の怒りバロメーターは一気にマックスになった。

「ちょっと、失礼じゃないですか!」

「そうよおにーちゃん!咲子に謝ってよ!」

「何だよ、ほんとのことだろー?」

「ぼ、ほんとのことでも言っていいことと悪いことが……っ」

「そーよ!そーよ!」

「ははは、元気がいーなお前ら」

呑気な信也さんの台詞に、ガクッと力が抜けた。

こ……この人、稔に似てる……。

容姿はともかく、この性格。自信に満ちて私を見下してる感がそっくり……。

「えーと、咲子ちゃんだっけ?」

「は、はい」

突然呼ばれ緊張してしまう。

「まぁ今日は俺がとびっきり可愛くしてあげるからさ。よろしくね」

にこりと笑った表情に思わずドキッとなる。

あんなひどいこと言われたのに……も〜!美形ってなんて卑怯なの!?

「よ、よろしくお願いします」

悔しさと緊張をごまかすため大きな声で言うと、信也さんはまた笑った。

――あ、美央に笑い方そっくり……やっぱ兄妹なんだなぁ。

そんなことをぼんやり考えていると。

「でもキャミは可愛いしよく似合ってるね。好きだよ、そーいうの」

あまりにもさらりと言われた誉め言葉に、私の顔は真っ赤になった。

「あー!おにいちゃん咲子に毒牙かけないでー!」

「何言ってんだ、ほんとのこと言っただけだろー!?」

……こ、この人って。

思ったこと何でも言わなきゃ気が済まない人なんだ……。

なんだか信也さんのキャラがわかりかけてきた私は、これからの展開にどう期待していいのかわからなくなった。

魔法使いの兄は同じように魔法使いなのか――それとも。

上った階段の先にその答えはある。

私は胸を張ってキャミソールを強調すると、美央たちの後に続いて階段を上り始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ