22〜青空遊園地〜
彩りカラフルな真ん丸い風船。
あちこちに散らばる大きなアトラクション。
子どもたちのはしゃぐ声に、機械的な音と楽しげな音楽が華やかなここは――遊園地。
小学校の時に家族で行った以来だった私は、アーケードをくぐった途端飛び込んできた景色に目を輝かせた。
「わぁ……、すごーい」
何がすごいんだ、というツッコミはこの際なしにして。
私はキョロキョロと辺りを見渡した。
う〜ん、何か懐かしい感じ……。
「咲子ちゃん遊園地は久しぶり?」
そんな私を見ていた信也さんが声をかけてきた。
「はい、久しぶり……」
……です、と続きそうになるのを慌てて飲み込んだ。
危ない危ない、また敬語を使うところだった。
そんな私を見て苦笑する信也さんはいつものことだけど。
信也さんは私の頭をいつものようにポンポン叩くと、稔と美央に呼びかけた。
「さーて、まず何乗ろうか?」
私たちの腕にはパスポートリングと言われる遊園地専用のパスポートが付いている。
これさえ見せればあとはどのアトラクションに乗っても自由なのだ。
だから後は何のアトラクションにするかを決めるだけで――。
答えたのは稔だった。
「俺バイキング乗りたいなっ」
稔にしては珍しい、子どもらしい無邪気な発言。
「お、いーね!やっぱ遊園地といえば絶叫モンだよな」
「お兄さん話わかるねー」
――こらこら稔。いつから信也さんがあんたのお兄さんになったのさ!?
というツッコミを入れたかった私であったが、冷や汗をややかいてしまう。
実は私……絶叫系が大の苦手だったりする。
「うん、いーね!行こう行こう」
あぅ……美央までバイキングに賛成なの?
「よし、じゃあ決まり〜!」
稔が楽しそうに先頭を歩き出す。
しまった……。
家族で遊園地行った時なんて、稔も小さかったし私が絶叫系ダメなんて知らないんだよね。
せっかくの楽しげな雰囲気なのに、ここで私だけ避けたらシラけちゃうよね。
私は無理矢理笑顔を作ると、皆と一緒にお叫びの聞こえるバイキングへと向かったのだった。
「きゃー!」
「ひゃっほーい」
――なんて黄色い声が聞こえる中。
「…………っ!」
耐えられない恐怖と気持ち悪い無重量感に、私はぎゅっと目を閉じていた。
気分は……最悪。
何とか無事にアトラクションのプログラムを終わらせた私は、降りた途端足取りがふらふらしてしまった。
「咲子、大丈夫?」
「あ、平気平気」
美央がそんな私を見て声をかけてきた。
いけない、いけない!
心配させちゃだめ!
「久しぶりに乗ったからなんかフラフラしちゃった〜。でも全然大丈夫だからね!」
「そう?ならいいんだけど」
気丈に言い張る私に少し安心した美央。
その後ろで、バイキングでヒートアップしたらしい男が二人……。
「うわー、めっちゃ楽しかったぁ!」
「お兄さん、次は定番の行きましょうよ!」
「定番って……おぉ!あれかぁ!」
――あの、お二人初対面は数時間前でしたよね?
なのにすごい意気投合してるのはやっぱり、似た者同士だから?
「よっしゃ行くぞー!」
「おー!」
二人の少年はすっかり興奮しきって、遊園地の定番らしいジェットコースターに向かって走って行く。
「あ、ちょっと、おにいちゃん!稔くん!」
美央が慌てて止めるものの、二人の姿は遥か向こう。
うーん、足が速いところまで似ているのか。
なんてくだらないことを考えている間に、すっかり二人との間は空いてしまっていた。
取り残された美央と私。美央はぷー、と頬を膨らます。
「もうおにいちゃんたら!子どもっぽいんだからぁ」
「稔も乗せるの上手いしね」
互いの兄弟にため息をつくと、とりあえず私と美央はベンチに腰掛けた。
私としては座るのは嬉しいけれど、美央には申し訳ないなぁ。
「美央は行かなくていいの?ジェットコースター」
「んー、別にいいよ。何だか二人のテンションについて行けなさそうだし」
「ふふ、確かに」
そう言って二人で笑いあった。
この間までケンカしていたなんて嘘なくらい、私たちの間にわだかまりはなかった。
「それにしてもいー天気だね」
美央が両手を挙げて伸びをする。
私たちの頭の上には無限に広がる青空。
もう夏の香りが含んでいて、真昼間だとじんわり汗も出てきそうなくらいだ。
「うん、いい天気」
さっきまでの気持ち悪さもずいぶん和らいでいる。
遊園地に来てまで日向ぼっこをしている私たち、もしかしたらおかしな二人なのかな。
――と、その時。
「あれぇ、君たち二人?」
前を通りかかった五人グループのお兄さんたちが、私たちの前で足を止めた。
パッと見大学生くらい……かな。
「はぁ……?」
突然のことにポカンと口を開けた私。
美央は一瞬不審げな顔をして相手を見ていた。
「俺らさぁ、大学のサークルで遊びに来てるんだよね。女の子少なくて寂しいからさぁ、良かったら一緒しない?」
―――ええと、もしかしてこれは……ナンパ?
きょとんとしていると、隣に座る美央がすっくと立ち上がった。
「行こう、咲子」
「え、あ、うん」
行ってしまう美央に置いてかれないように私は慌てて立ち上がった。
大学生の男の人たちはそんな私たちをポカンと見つめる。
――あれ?前にもこんなことあったような……。
ふとそんな思いが頭を過ぎったが、美央が振り返って笑った瞬間そんなことも忘れてしまった。
穏やかな笑顔で美央はこう言う。
「まったく、ほんと男ってダメね。……ね、咲子、あれ乗ろう?」
そう言って彼女が指さした先には……。
「観覧車?」
遊園地のメインとも言えるアトラクション。
大きくそびえ立つ観覧車は、開園直後もあってかまだ人はまばらだった。
「そ、あそこならゆっくりできるし」
「んー、そだね」
信也さんと稔には後で連絡しとけば大丈夫よね。
私と美央は空いた観覧車へ向かって歩き出したのだった。
初めての方もいつもの方も、読んでくださりありがとうございます!感想・評価はいつも励みにさせて頂いております!今この小説の季節は設定上六月下旬です☆この小説書き始めたのが去年の夏…(汗)ラストは近くなってきております♪




