21〜決戦は土曜日!?〜
最近買った淡いピンクの膝丈ワンピース。
それを着た私は、鏡の前で最終チェックをする。
「よし!変なとこはないね……っと」
いつも以上に入念にチェックをする。
だって今日は、初デートだから!
――とは言っても……。
「おい咲子、ノロノロしてんなよ」
二人きりのデートではないのが少し残念だったりする。
「今準備できたとこ!」
すでに準備を済ませた稔が部屋を覗いてきたので、私は慌てて答えた。
信也さんと付き合いだしてから一週間経ち、今日は土曜日。
稔に頼まれていきなりダブルデートをすることになってしまったが、信也さんも美央も快く了解してくれた。
最初は微妙かなぁ……と思っていたけど、日にちが経つにつれて楽しみになってきた。
だってやっぱり初デートなわけだし。
それに信也さんや美央と遊べるのは素直に嬉しい。
だって二人とも、大好きだもん。
「行ってきまーす」
稔と一緒に家を出ると、駅に向かう道を歩き始めた。
駅で信也さんと美央と待ち合わせをする予定だ。
ちなみにデート場所はベターかもしれないけれど遊園地。
ダブルデートの定番といえば、やはりこれでしょう!……と言ったのは稔である。
「美央ちゃんどんな服着てくるかな〜」
楽しげに言う稔。
黒のロンTに白いクラッシュデニムのパンツを着こなす稔は、姉の私から見てもオシャレでカッコイイ……かもしれない。けどね稔、今日こうしてダブルデートに乗ったのは、あんたの毒牙から美央を守るためなんですからね!
「稔、美央に変なことしないでよ」
ジロリ、と睨む。
稔は「さぁね〜」と鼻歌を歌うように答えた。
まったくもう!
気楽で女好きな弟を持つと、苦労するよ……。
「あ、咲子こっちこっち〜」
「美央!信也さん!」
駅に着くと、時計台の前に二人はいた。
土曜日だけあって人通りの多い駅前だったけれど、美男美女の二人は、遠くから見ても目立っていた。
私と稔は二人の方へ早足で近づいた。
「おはよう、咲子」
ニコッと美央が笑って迎えてくれた。
「美央、おはよ!」
私も笑い答えると、ついつい美央の服装をチェックしてしまった。
美央の私服は私にとって参考になるし滅多に見れないから、ついマジマジと見てしまうんだよね。
美央の今日の服装はリボン付きのはんぱ丈パンツにデザインシャツと元気な感じ。
そういえば私、今日遊園地だから結構動くのにワンピースとか着てきちゃった……。
しまった、と考えていたら。
「よ、咲子ちゃん。ワンピース可愛いね」
「し、信也さん」
信也さんがそんなことを言ってくれたから、そんな考えもどっかへ行ってしまった。
少し頬を赤く染めて、信也さんに答える。
「おはようございます」
「はは、ございますはいらないって」
「あ!そっか」
しまった、またやっちゃった。
この一週間、信也さんからは敬語禁止令が出されているのだが、なかなか私は直すことができないでいた。
どうやらすっかり身についてしまったみたい。
そんな私を見て微笑む信也さんは、いつも通りのジーンズパンツにロンTだ。
普通の恰好なのに、どうして信也さんが着るとカッコ良く見えちゃうんだろう。
……なんてことを考えていたら。
「へぇ〜あんたが咲子の彼氏で、美央ちゃんのお兄さんかぁ」
隣にいた稔が、興味津々に信也さんを見ていた。信也さんはニッコリと笑う。
「ああ、そうだよ。君は、ええーと……」
あ、しまった!ここは私が紹介しなくちゃね。
信也さんには弟が来る、としか伝えてなかったから……。
慌てて私は二人の間に入った。
「えっと、信也さん紹介するね。これ、弟の稔」
すると稔が口を尖らせた。
「これとは何だ。咲子のくせに生意気」
「な、生意気はあんたでしょ!」
もー、稔ったら!
信也さんの前でくらい大人しくしててよ〜っ!
「プッ……稔くん面白いな」
しかしどうやら、そんな稔に信也さんは好印象を持ったみたい。
信也さんはくったくなく笑うと、稔に声をかけた。
「今日はよろしくな、稔くん」
「ん、こちらこそ」
稔はニッと笑うと信也さんと握手した。
……やっぱり、この二人似てるかも。
信也さんと初めて会った時も思ったんだよね、稔に似てるって。
それを今、ふと思い出してしまった。しかし次の瞬間。
「じゃあ美央ちゃん、今日はお兄さん公認のデートだからラブラブしよーね」
稔がそんなことを言って美央の手を握ったから。
「あ!こ、こら、稔!」
そんな考えも吹き飛んで、私は慌てて稔を制した。
けれど……。
「はは!稔くんマジ面白い子だな〜」
信也さんは呑気にそんなことを言っている。
あ、あの、自分の妹が中学生に口説かれているんですけど……?いいんですか?
美央はというと、突然の稔の行為にビックリしているようだった。
「あ、あの稔くん!?」
ほら美央困ってるじゃんー!
ここはひとつ、稔に釘を刺しておこう!と考えた私――だったが。
(えっ……?)
――それは不意打ちの温もり。
突然握られた右手に、動きが止まってしまう。
私の右手を握っていたのはもちろん、信也さんで……。
「俺達も」
ニコッと笑ってそんなことを言う信也さんに、私は心臓が破裂しそうになっていた。
「し、信也……さん」
繋がれた右手が、熱い。
初めて信也さんと手を繋いで、私は体まで強張ってしまった。
――やっぱり信也さんと稔は似てるよ。
こんな風にあっさりと手を繋いで、相手を困らせるんだから――。
美央ごめん。
助け舟を出そうとしたのに、私まで捕まっちゃったよ。
今だけその困ったちゃんな弟を相手にしていて下さい。
……なんて思う私は無責任かしら。
「さぁじゃあ行きますか」
ダブルデートの考案者である稔はそう言うと、切符売り場に向かった。
もちろん美央の手はしっかり握ったまま。
ああ、一体どんなデートになるんだろう?
安らかに晴れた土曜日の午前。
奇妙なふたつの男女の兄弟によるダブルデートが、スタートしようとしていた。




