15〜キライな自分、スキな自分〜
鏡をふと見る。
そこには、いまだに慣れないメイクをやっと終わらせた自分が映っていた。
まだまだ上手とは言えないメイクの腕前だけど、数カ月前と比べればなかなかの上達ぶりだ。
そう、数カ月前と比べれば…――。
(数カ月前には考えられなかった展開だよね……)
まさかこの私が、信也さんに告白されるなんて。
……でも、夢じゃない。
私は確かに昨日、告白されたんだ。
厨房の中で……信也さんが作ってくれたケーキの前で。
『……好きです』
照れ臭そうに。
けれど真剣にそう言ってくれた信也さん。
あの言葉が嘘だなんて、私は思っていない。
信也さんは思ったことを素直に口にする人……。
それが原因でフラれてばかりいるらしいけれど、私にはそれが魅力的だった。
(信也さん……)
時計をちらりと見る。
もうすぐバイトの時間。昨日の今日で信也さんに会わなきゃならないこの状況は、ちょっときつい……。
バイト、行きたくないなぁ……。
――そんなことを考えていたら。
「ブサイクになってるぞ、咲子」
「!!」
突然、鏡と私の間に稔の顔が現れた。
い、いつ部屋に入ったのさー!?
「み、稔!」
「何鏡の前でぼーっとしてんだ?もうすぐバイトの時間だろ」
……なぜ姉のスケジュールを把握しているのだろうか?
私は稔相手に口ごもるしかなかった。
「なんだ咲子、バイト行きたくないのか?」
ギクッ。
するどいやつ。
「別にそんなんじゃないけど……」
「あ!もしかして例の信也って男となんかあったのか!?」
(……っ!!)
な、なんでわかるのーー!?
お……恐るべし、稔!やだなぁ、この後絶対稔私のことからかうんだよ〜!
何があったんだ、とか。
咲子にも悩みなんてあるんだな、とか〜。
……けれど。
予想に反して稔は少しだけ真剣な表情になった。
「らしくないなぁ、咲子」
……え?
きょとん、とする私の前で腕組みしている稔が、何かを諭すような表情をしていた。
「何があったかは知らないけど、また昔の咲子に戻ってるぞ」
「……!」
――ビク、と震えた。
私の……臆病な心が。
「せっかく可愛くなっていきいきしてきて、俺咲子のこと見直してたんだぜ。なのにまた暗〜い顔してて……今までの努力台なしにするのか?」
今までの……努力。
そういえば、私はどうしてキレイになりたかったんだっけ?
どうして、あんなに努力をしたの?
………ああ。
ああ、そうだ。
――私は私が嫌いだった。
こんな暗くて可愛くない自分が大嫌いだった。
だから変わりたくて。
自分を、好きになりたい――ただそれだけを思って。
そして私は変われたの。
二人の魔法使い――美央と信也さんに出会って。
自信をこの胸に刻むことができたの。
でも、今は?
こんな自分……好きになれるの?
私……私は……。
何かが、吹っ切れた。
「…ありがとう、稔!」
こんな私は嫌。
私は……前を向いていたいから。
「ん」
しっかり稔の顔を見つめたら、稔は小さく笑ってそう言った。
何だかわからないけど、心のもやがふっと消えた気がした。
「ま、それより時間気にしたら〜?」
「え、あ!もうこんな時間!?」
ふと時計を見るとバイトの時間まで残り二十分くらいだった。
きゃ〜!まだ用意しなきゃいけないのに!マッハで自転車走らせなきゃ!
私はわたた、と慌てながら準備を始めた。
稔はそんな私を見つめて肩をすくめてやれやれ、と笑い部屋を出ていく。
パタリ、と扉が閉じる頃には、そこには暗い顔をした私はいなかった。
稔……ありがとう。




