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10〜ダイエットの前の静けさ〜


ダメ。


ダメダメダメーッ!

それ以上いっちゃダメェーッ!!


「あ、あ〜……」

しかしそんな祈りも虚しく、目盛りは予想以上にまわってしまった。

針が示す数字は、過去最高記録……。


「ふ、太ってる……」


やばい、とは思っていた。

バイト先エデンの残り物のケーキを頂いたり、味見をさせられたりしていたから、もしかしたら……と思っていたから。

「やばい……」

高校一年生、成長まっ盛りなこの時期にケーキを食べまくれば、こうなるのは当たり前だった。

私はバスタオル一枚でうぅ〜と唸るしかなかった。

(そういえば最近肉付きがいいような……)

付いてほしいとこには付かず、付いてほしくないとこには付いてしまうのが脂肪である。

「やばいよ〜……」

「確かにやばいなぁ、これは。俺より重いんじゃん?」

「!!」

その声は!

「きゃ……み、稔ーっ!!何入ってきてるのー!?」

バスタオル一枚の私は驚いて壁際に身を寄せた。

み、見られたー!?

いや、裸なんてこの際相手は稔だし別にいいんだけど(いや、あんま良くないけど……)、体重の数字を見られるなんて!

壁に張り付いた私に、稔はニヤリと笑いかける。

「……最近すこ〜し可愛くなったからって、油断したんじゃない?」

う……っ。

デブやブタと罵られるよりも痛いところを突かれて、私は唇を噛んだ。

確かに私……ちょっと浮かれていたのかもしれない。

キレイの魔法をかけられて。

可愛いって言われて。

私は少し、いい気になっていたのかもしれない。

……あ、なんか沈んできた。

と、そんな私を見かねたのか稔がニコッと笑ってこう言った。

「ま、咲子もまだまだこれからなんじゃん?これぐらいでへこたれるなよ」

「稔……」

思わずジ〜ンとしてしまう。

そ、そうよね。これから頑張っていけばいいんだから!

が、しかしそこはやはり稔であった。きっちりと私をいじめることも忘れない。

「ただもう少しここらへんに肉を移動させられないかねー?」

「き……きゃあ〜っ!触らないでよスケベ!!」

ああもう、やっぱり稔は稔だ!

私は稔に平手打ちをすると洗面所から出た。後ろから

「いってぇ〜」

という悲鳴が聞こえたが、そんなの知らないもんね!

あぁ、でもほんとやばいなぁ……。

何とかしなくちゃ!

私はお腹に手をあてると、はぁ……と溜め息をついた。

次なる課題は、ダイエット……か。とほほ。







「あり?咲子お弁当箱変えたの?」

「う、うん。ちょっとね」

いつも通りの美央とのランチタイム。

ただひとつ違うのは、私の前に置かれた小さめのお弁当箱だった。

単純だとは思うけど、やっぱダイエットの第一歩はこれだと思うの。

「かわい〜ね、そのお弁当箱!でもちょっとちっさくない?」

ぎくっ。……さ、さすが美央!

やっぱ恥ずかしいけど、美央には言っとこうかなァ。

もしかしたら、ダイエットのいいヒントもらえるかもしれないし!

「じ、実はダイエットしようかと……」

しどろもどろに言う私に、美央はすぐに反応した。

「え、ダイエット!?咲子が!?」

「み、美央声おっきい!」

クラスメイトの視線が、美央の大声により集まってくる。

きゃ〜、恥ずかしいっ!ダイエットのことなんて、皆に知られたくないのに!

「あ、ごめんっ」

美央は一言謝ると、声を通常トーンに落として私に言った。

「でも咲子にダイエットなんて、必要ないんじゃない?」

「それがあるんだよ〜っ。見えないお腹とかについてなかなか気付かれないから、余計質悪いかも……」

「ふーん、そうなんだぁ」

美央は本当に意外そうに私を見つめる。

確かに私はチビだから小さいイメージがあるんだろうけど、小さくても太る時は太るのだ。

あぁ、美央みたいなきれいなスタイルになりたい!

「ね、美央、なんかいいダイエット法ないかな?」

「う〜ん……と言われても」

美央はううむ、と眉間にシワを寄せる。

――きっと美央なら何かヒントをくれるはず!

それは、魔法をかけられた時から私の心の中にある美央への信頼からくるものだった。

美央は私を可愛くしてくれる。キレイにしてくれる。

美央の言うことは私にとって必ずプラスになる。

だって美央は私のキレイの魔法使いだから……!


――が、しかし。


「ごめん、私ダイエットしたことないんだ〜。だから教えてあげれないや」


魔法使いにだって、できないことがあるのだとそこで初めて気付いたのだった。


ガ、ガ〜ン……。

キレイの魔法を期待していた私は、予想もしてなかった返しにショックを受けた。

でもよくよく考えれば、当たり前か。

美央にダイエットなんて、必要ないもんなぁ〜……。

「そ、そっかぁ……」

しゅんとなる私に、美央はすまなそうに謝る。

「ごめんね咲子、役に立てなくて」

「ううん、いいの。私が勝手に聞いただけだし」

よーし、こうなったら独自で頑張るしかないか!

これもキレイになるための試練なんだから!それにいつまでも美央に頼ってばっかじゃだめよね。

「私、ダイエット頑張るね」

そう言って私は笑った。美央に必要のない謝罪をさせてしまったせめてものお返しに。

すると美央も笑ってくれたので、私は安心した。

「……なんか咲子、ほんとに可愛くなったね」

「またそんなこと言う〜恥ずかしいよ」

「だって本当にそう思うんだもん!………ねぇ咲子」

「ん、なぁに?」

ひと呼吸おいて、美央が言う。


「もしかして好きな人ができた……とか?」

「……え!」


不意の問いはあまりにも的を射ていて。

私はつい身をこわばらせてしまった。

――嘘をつけない、悲しい性分。


「な、な、なんで!?」

「ふーん……いるんだぁ」

ぎくぎくぎくーっ!

み、美央何でわかっちゃうの!?鋭すぎ〜!

(あぁきっとこの後『誰だれ!?』って質問攻めになるんだ〜っ。

でもまさかあなたのお兄さんです、なんて言えないし〜)

この後の展開が容易に予想できて私は頭を悩ませた。

――が、しかし。

「それよりもさ、ダイエットならやっぱ運動じゃない!?今度プールにでも行こうよぉ」

「え、え?」

突然の話題展開に、私は面喰らった。

(あ、あれ……てっきり質問攻めされると思ったのに……)

美央の性格なら、今の場面はそういうことになってもおかしくない。

いや、なるはずなのだ。

なのに何故か、美央は話題をダイエットに戻してしまった。

――お、おかしいなぁ……。

思わず首を傾げてしまったけど、まぁ追求されても困るだけだし、いっかぁ……と考えてしまった。


――それが前ぶれだとも知らずに。


「咲子、プール行きたいね〜」

「う、うん。でも水着着るならなおさらダイエットしなくちゃ」

「よーし、頑張ろーっ!」

無邪気に笑う美央。

可愛い美央。

かけがえのない私の友達。



――この時、私は気付くべきだったんだ。

美央の中で動き出した、感情に……。







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