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文芸部  作者: 早倉慶太
1/3

“音楽室 ”の前に一人、生徒が立っていた。その生徒はどことなく緊張しているように見えた。

 音楽室は防音設備があるので、室内から楽器の音が漏れることはなかった。しかしそのせいで、外から人がいるかどうか確認することは難しかった。

 しばらくして、生徒は意を決したかのようにドアノブに手をかけた。が、そのままドアを開けることなくその手を離した。生徒は大きく息をもらしてドアから離れたが、心残りがあるようで、その場から離れることはなかった。

 そこからすこし離れた所で、その生徒を見ている男がいた。その男は、生徒が何をしたいのかを理解しているようだった。男は生徒に近づいて、「君、吹奏楽部に入りたいの?」と聞いた。

「・・・・・・はい。そうです」

 生徒は突然話しかけられたことに対して、まるで風船が割れた時のように反応したが、すぐに落ち着いてそう答えた。

「俺、吹奏楽部のやつに友達いるから案内してあげるよ」

 男は生徒に優しくそう言った。それを聞いた生徒の表情がみるみるうちに変わった。生徒の表情を見た男は笑みを浮かべ、生徒と一緒に音楽室に入っていった。



 文芸部の部室は本館から離れた部室棟の二階にある。この部室棟には、文芸部の他にも野球部やサッカー部、弓道部などの部室がある。

 ほとんどの部室は運動場や本館で活動しているが、文芸部は部室棟で活動している。部室棟には滅多なことがない限り教師が来ないので自由に活動できるが、エアコンが無いため夏場と冬場は厳しい環境下にあった。

 「まだ鈴木が来てないけど、先にかいてよう」

 文芸部の部室から男の声が聞こえてきた。声の主である高橋裕文は部室の一番奥に座っていた。

 部室の中は、裕文の後ろに大きな窓、その下には、印刷用紙や昔いた先輩たちが置いていったものであろう雑誌などがダンボールに入れられて置いてある。その隣には棚があり、備品や、文芸部には関係のないような古いラジカセなどもあった。部屋の中心には机が向かい合って並べられ、小さな会議室のようになっている。裕文が座っている机と、扉の手前にある机だけが向きが違い、その二つが向き合うように並べてある、扉の近くにはロッカーがあり、過去の文芸作品などがしまわれていた。

 「へーい、了解っす」

 そう答えたのは、裕文から一番近い席に座っている塚本真之だった。

 裕文は鞄から用紙を取り出し、塚本に渡した。

 それは、新入生勧誘の用紙だった。

「ごめんなさい。文芸部の部室と間違えました」

 外から女の大きな声がした。それを聞いた二人は肩をすくめた。

 「また弓道部の部室と間違えちゃった」

 そう言いながら部室に入ってきたのは鈴木杏だった。部室を間違えたという反省の色はまったく無く、いつもと変わらない表情だった。

 「もう三年も文芸部にいるのに、それでもたまに部室を間違えられるなんてすごいよな」

 塚本は皮肉を込めて言った。

 「えへへ。どうもありがとう」

 「いや、それどう考えても褒めてないでしょ」

 裕文が杏に笑いながら言った。つられて二人も笑った。

 「じゃあ鈴木もこれかいて」

 塚本の反対側に座った杏に、裕文が用紙を渡した。

 「新入生勧誘のやつだね。よおし、張り切ってかくぞ」

 杏の言葉がかけ声となったかのように、三人は新入生勧誘の用紙作りに取り組んだ。


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