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「ここのトップの神ってのは独裁者か? それともお飾りか? そういうとこは下が腐るってのが定石だな。」
それはただ、相手の出方を見たいがための極論に過ぎない。
確かにそういう例は多いが、マシな部下がいれば結果は違う。
「いえ、神様は絶対的な存在で、常に正しく。絶対に間違いを犯しません。でも、孤高で干渉もありません・・・だから下が緩いんです。たぶん本当は部下なんか居なくても、神様だけできっと平気なんです。皆そう思っているから・・・。」
女は少し哀しそうな様子で言葉を切り・・・それ以上続ける気は無いらしい。
「最初は、ただの事なかれ主義かと思ってたんだが、・・・諦めからくる無関心か。大丈夫かここ?」
「さぁ? ずっとこうですから。」
そう薄く笑った女に、やっぱり違和感を覚えた。
やっぱり違う。こいつはこんなんじゃない。
「・・・なぁ、それ止めろ。俺そういうのもう嫌。話してて楽しくない。前みたいにもっと感情的になってくれ。」
「感情的って・・・。」
女は心外だと言わんばかりの表情を見せ、俺は少し嬉しくなった。
「ずーっと取って付けたような笑顔ばっかで飽き飽きしてたんだ、お前以外のヤツはな。だからいい加減、血の通った会話がしたいんだ。」
そう言って腕を上に伸ばした。
未だ慣れない羽根はバランスが悪く、実はかなり肩が凝る。
「それに、変に責任感じる必要も無い。勝手に食ったのは俺だ。」
女は一瞬何かを考え、不意に笑い、それから不満を吐き出した。
「・・・何言ってんの、当たり前じゃない。あなたが拾い食いしなきゃこんな事にはならなかったのよ?」
やっと人らしい・・・もう既に人ではなくなった身だが・・・会話が出来た。
「ん、その調子。けど、あれは拾い食いとは言わないだろう? お前が勝手に人の家に上がり込んで偉そうにしてるから、嫌がらせをしただけだ。」
「・・・最初から思ってたんだけど、あなた、本当にいい性格してるわよね?」
軽く睨んでくる女に、俺は我知らず笑顔を返した。
俺は今まで、口喧嘩がこんなに楽しいものだとは思わなかった。
「いい性格で結構。どうせ俺はこれからモルモットなんだろ? その代わりに公費で左団扇な生活をさせてくれるんだろう?」
「・・・そこまで安楽かどうかは知らないけど、確かに住む場所も生活費も、お菓子メーカーの慰謝料と公費で賄われるわね。」
予想通りだ。
モルモットは否定されず、見事にスルーされた。
「ほら当分は、楽をしながらこの世界について学べばいいんだろう?」
「まぁ、そうなんじゃない?」
そう適当な返事をした女に、俺は右手を差し出した。
「じゃぁ、仲良くしとこう、世話係さん。」
「はぁ、仲良くねぇ・・・っていうか、世話係さんって呼ぶのは止めてよ。私はまだ若いのよ?」
今の俺には解らない不満を漏らし、怪訝な様子ながらも出された右手を、強引に捕まえて握手をした。
「じゃぁ俺も『あなた』じゃない。和真って事で・・・よろしくサフィーナ。」
「・・・あ、うん・・・よろしく、和真。」
そうか、こいつは若いのか。確かに行動はアレだが・・・
外見が変わらなくても、年齢は気にするのか。
見た目で歳が判らないというのは、それはそれで不便なものなんだな。
・・・と、妙な所で関心した。