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雨の日、兄と妹。

作者: 有梨束
掲載日:2026/09/06

「お兄様、今日は同じベッドで寝てもいいですか?」

「君はもう10歳のレディーになったんじゃなかったかな」

「…だって、雨なんですもの。雨は嫌いです」

わたしが口を尖らせると、お兄様は仕方なさそうに笑った。


「今日で最後だからね」

そう言って、私の頭を撫でた。



お兄様はすごい人なんだって、みんなが言う。

3年前に両親が亡くなった時に、まだ成人したばかりのお兄様が全部を引き継いだから。

お家もそうだし、お仕事もそう。

それから、7歳だったわたしとも一緒にいてくれた。

お兄様は、わたしをひとりぼっちにはしなかった。


お兄様がすごい人なのかは、わたしにはわからないけど、うんと優しい人だというのは知っている。




「ねえ、お兄様。明日からわたしがいなくなって寂しいですか?」

「家の中が静かになりそうだね」

「むう、わたしは寮生活が始まるのに、寂しくないんですか?」

「君こそ、僕がいなくても寝れるようにならないと困るよ」

同じベッドに入っていても、お兄様の方が足が長くて届かない。

くっつくように隣に行くと、髪をすくようにわたしの頭を触ってくる。

パパとママが亡くなってからは、お兄様がそうやって頭を撫でてくれるようになった。


明日からは、全寮制の貴族学校に入学だ。

もう簡単に手を伸ばしてくれる人は、近くにいなくなる。

でも、お兄様の母校でもあるから、行くのはすごく楽しみ!



「その時は寮のルームメイトと一緒に朝までおしゃべりするからいいんですぅ」

「そうかい」

「お兄様こそ、雨の日にわたしがいなくても泣かないでくださいね」

「君じゃあるまいし」

「わたしだってもう泣きません!」

「そうだね、もう泣かなくなってしまったね。…僕は、君にもたくさん我慢させてしまったからね」

そう言うと、お兄様はなぜか悲しそうに笑った。


普段だったら、手を伸ばしても届かない。

でも、今はベッドの中だ。

手を伸ばせば、背伸びをしなくても、お兄様の顔まで届く。


だから、むにっと両手でお兄様の両頬を挟んだ。


珍しく、驚いた顔をしている。



「わたし、我慢なんてしていません。だって、ずっとお兄様といたもの」

「…そうかい?」

「そうです!パパとママが雨の日に馬車の事故で死んじゃってから、お兄様が一番に一緒にいてくれました。わたし、知ってるんですよ。親戚のおじさまたちに、わたしを預かるって言われてたって。でも、お兄様はしなかったから、わたし、ずっとお兄様と一緒でした」

「……どこからそんな情報を聞きつけてくるのやら。まったく、僕が思っているよりも、ずっとお姉さんになったんだね」

「そうですよ!だって、明日から学校に通えるんですもの!わたし、とっても大人ですっ!」

「…ふふっ、そうだね。立派なレディーだものね」

お兄様はそう言いながら、優しく抱き締めてくれた。

だから、わたしもぎゅっと首に抱きついた。



「お兄様、寂しかったらお手紙ください。すぐ飛んできますよ」

「僕が寂しくなる側なんだ」

「だって、わたし子どもじゃなくて学生になるから、もうお兄様をお支えできますよっ!」

「そうかい、そっか、もう子どもではないのか」

「そうですよ!」

「じゃあ、君は好きな人でもできたら、僕に手紙をおくれよ。その時は、兄様がどうにかしてあげるから」

「わたしよりお兄様が先ですわ!親戚のおじさまたちが、お兄様が結婚しないから困っているって、わたし知ってますよ!」

「あはは、全部筒抜けじゃないか」


その日は入寮する最後の日、たまたま雨が降ったから、お兄様と一緒に夜を過ごした。

ちょうど雨でよかったわよね、

じゃなかったら、他の言い訳を考えなきゃいけなかったもの。


次の日は晴れて、お兄様に見送られながら、貴族学校に向かった。



もっともっとお兄様を支えられるレディーになるために、わたし頑張ってきますからね、お兄様!







お読みくださりありがとうございました!!

248日目。

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