雨の日、兄と妹。
「お兄様、今日は同じベッドで寝てもいいですか?」
「君はもう10歳のレディーになったんじゃなかったかな」
「…だって、雨なんですもの。雨は嫌いです」
わたしが口を尖らせると、お兄様は仕方なさそうに笑った。
「今日で最後だからね」
そう言って、私の頭を撫でた。
お兄様はすごい人なんだって、みんなが言う。
3年前に両親が亡くなった時に、まだ成人したばかりのお兄様が全部を引き継いだから。
お家もそうだし、お仕事もそう。
それから、7歳だったわたしとも一緒にいてくれた。
お兄様は、わたしをひとりぼっちにはしなかった。
お兄様がすごい人なのかは、わたしにはわからないけど、うんと優しい人だというのは知っている。
「ねえ、お兄様。明日からわたしがいなくなって寂しいですか?」
「家の中が静かになりそうだね」
「むう、わたしは寮生活が始まるのに、寂しくないんですか?」
「君こそ、僕がいなくても寝れるようにならないと困るよ」
同じベッドに入っていても、お兄様の方が足が長くて届かない。
くっつくように隣に行くと、髪をすくようにわたしの頭を触ってくる。
パパとママが亡くなってからは、お兄様がそうやって頭を撫でてくれるようになった。
明日からは、全寮制の貴族学校に入学だ。
もう簡単に手を伸ばしてくれる人は、近くにいなくなる。
でも、お兄様の母校でもあるから、行くのはすごく楽しみ!
「その時は寮のルームメイトと一緒に朝までおしゃべりするからいいんですぅ」
「そうかい」
「お兄様こそ、雨の日にわたしがいなくても泣かないでくださいね」
「君じゃあるまいし」
「わたしだってもう泣きません!」
「そうだね、もう泣かなくなってしまったね。…僕は、君にもたくさん我慢させてしまったからね」
そう言うと、お兄様はなぜか悲しそうに笑った。
普段だったら、手を伸ばしても届かない。
でも、今はベッドの中だ。
手を伸ばせば、背伸びをしなくても、お兄様の顔まで届く。
だから、むにっと両手でお兄様の両頬を挟んだ。
珍しく、驚いた顔をしている。
「わたし、我慢なんてしていません。だって、ずっとお兄様といたもの」
「…そうかい?」
「そうです!パパとママが雨の日に馬車の事故で死んじゃってから、お兄様が一番に一緒にいてくれました。わたし、知ってるんですよ。親戚のおじさまたちに、わたしを預かるって言われてたって。でも、お兄様はしなかったから、わたし、ずっとお兄様と一緒でした」
「……どこからそんな情報を聞きつけてくるのやら。まったく、僕が思っているよりも、ずっとお姉さんになったんだね」
「そうですよ!だって、明日から学校に通えるんですもの!わたし、とっても大人ですっ!」
「…ふふっ、そうだね。立派なレディーだものね」
お兄様はそう言いながら、優しく抱き締めてくれた。
だから、わたしもぎゅっと首に抱きついた。
「お兄様、寂しかったらお手紙ください。すぐ飛んできますよ」
「僕が寂しくなる側なんだ」
「だって、わたし子どもじゃなくて学生になるから、もうお兄様をお支えできますよっ!」
「そうかい、そっか、もう子どもではないのか」
「そうですよ!」
「じゃあ、君は好きな人でもできたら、僕に手紙をおくれよ。その時は、兄様がどうにかしてあげるから」
「わたしよりお兄様が先ですわ!親戚のおじさまたちが、お兄様が結婚しないから困っているって、わたし知ってますよ!」
「あはは、全部筒抜けじゃないか」
その日は入寮する最後の日、たまたま雨が降ったから、お兄様と一緒に夜を過ごした。
ちょうど雨でよかったわよね、
じゃなかったら、他の言い訳を考えなきゃいけなかったもの。
次の日は晴れて、お兄様に見送られながら、貴族学校に向かった。
もっともっとお兄様を支えられるレディーになるために、わたし頑張ってきますからね、お兄様!
了
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248日目。




