『年下の子爵夫人』
わざわざお話を聞きに来てくださったところ申し訳ないのですが、ケイト様のことはあまりよく知りませんの。私とケイト様は学年が違っていて学内で交流もありませんでしたから。
ああでも、一つだけ共通点がございます。同じ女から教育を受けていたという点です。
はい。侯爵夫人のことです。もうお話は聞かれていらっしゃるのですね……ご存じかもしれませんが、あの方は私の母親です。今は子爵夫人の身ですが、当時は侯爵令嬢として母から厳しく躾けられておりました。
母は当時のことをなんとおっしゃっていましたか?
……はぁ。
やっぱり何もわかっていないようですねあの人は。
こちらを見て頂けますか……酷い傷跡でしょう?
これはすべて母に打たれてできたものです。鞭で打たれたり頬をはたかれたり、酷い時には火鉢で叩かれたこともありましたね。
あの人は教育の為なら何をしても良いと思っているのですよ。
自分の望む成果を出せなければ何度だって鞭で打つし、平気で食事も休憩も取らせない……きっとケイト様もご苦労されたでしょう。
私が聞いた話ではさすがにここまで酷い傷跡は残さないよう注意していたものの、わざわざ跡が残りにくい鞭を用意して何度も身体を叩いたり、髪を強く引っ張ったり……淑女らしい性格に教育するためという名目でケイト様の人格を否定するような悍ましい暴言を何度も何度も囁きかけ続けていたそうですわ。
他家の令嬢にまでそんなことをするのかって?
やりますよ、あの人は。例え相手が王族や公爵令嬢であったとしてもね。
あの人は厳しくすることが愛情で、手を抜くことこそ虐待になると信じ切っているのです。頼まれれば頼まれる程、厳しく接するのです。
クローデット伯爵家を解雇されたのも本人はカーレン様の我儘のせいだと思い込んでいますが、実際は体罰がいき過ぎてとうとう他所の御令嬢の身体に消えない傷跡をつくってしまったのに、『確かに少し不格好かもしれませんが、貴族令嬢が人前で肌をさらすことなどありえませんから問題ありません』などと宣ったからなんですよ。
そりゃあ、当時は今よりずっと体罰に関して寛容でしたけれど、それでも母の行為は許容される範囲を超えておりました。
解雇をきっかけに父を始め周囲からも随分諫められたというのに、あの人は今でも『クローデット家のご当主が娘可愛さに目を曇らせた』と考えているんです。
まぁ、世間の目を気にした父が侯爵家の力を使って母の愚かな行いを内々で処理してしまったことも問題だったのでしょうけれど……とにかく本当にどうしようもない人達なのです。
申し訳ありません。つい熱くなってしまいました。
ケイト様がどこに行かれたのか私はわかりませんが、彼女が姿を消すほどストレスを抱えた原因の一端は、間違いなく母の行き過ぎた指導にあったと思います。




