『同級生の元伯爵夫人②』
記憶にない? 勘違いかしら、ごめんなさいね。
えっと、次はカーレン様についてお話すればよろしいのね。
私がカーレン様と本格的に交流するようになったのは学園を卒業してからですわ。彼女が伯爵家を継いで女当主になられたことで、結婚して伯爵夫人になった私とも度々お話する機会ができましたの。
それまで『ケイト様の奔放な異母妹』の噂を聞いたことはあっても、実際に遭遇したことはありませんでしたわ。色んなパーティーに参加しては男漁りをしていた……なんて噂もありましたけれど、少なくとも私が学園時代に参加した夜会やお茶会なんかでは一度もお会いしませんでしたね。
カーレン様の印象ですか?
ケイト様が『貴族令嬢の鏡』だとすれば、カーレン様は『貴族令嬢の憧れ』でした。
両親から見習うようにと言われた姿がケイト様。
私達自身が求めて憧れた姿がカーレン様。
貴方達の世代では考えられないかもしれないけれど、当時の令嬢は決して出しゃばらず常に男性を立てることを求められましたの。
優秀さをひけらかすことははしたないとされつつ、将来、夫人として家を切り盛りする為の知識や技術は身に着けなければならない。
努力をすることは当たり前でそれを表に見せてはならない。当然、褒められることも少ない。
恋愛なんて夢のまた夢。家の利益になる方に嫁ぎ、相手がどんな方でも尽くす。
男の浮気は甲斐性と流され、女の不貞は重い罪だと非難される。
感情は出さず、常に微笑みの仮面を被ることを強いられる。
当時、私達は両親や祖父母から言い聞かされたそんな常識を貴族令嬢の役目と受け入れ従っておりました。でも……心の底ではそんな不平等で息苦しい世界に嫌気が差していましたの。
だから、そんな私達の常識を真っ向から否定するカーレン様の生き方がとても、とても眩しく映りましたわ。
自分の能力を隠すことなく堂々と振舞い、女性達が働ける場を作り出し、殿方からの圧力にも真っ向から立ち向かう。
楽しい時は満面の笑みを浮かべ、悲しい時は大粒の涙を流し、理不尽に晒されれば怒りを顕わにする。
それでいて、旦那様との関係も良好で対等な関係を築かれていた。
カーレン様をやっかんだ男性からお身体の傷跡について下品に揶揄された時など、優雅さを保ったまま相手を完膚なきまでに言い負かせておられて、その場にいた女性陣全員でこっそり拍手を送ったものですわ。
カーレン様は、既に結婚までしていて今更貴族女性としての生き方を変えるなんて出来ないと諦めていた私に勇気を与えてくださいました。
『貴族女性が働くなどありえない』と言う言葉を振り切って自分でお金を稼ぐことを覚えて、新婚当時から平然と愛人を囲って碌に帰って来ない夫に離縁を叩きつけられるようになったくらいにね。
あの方に人生を変えて頂いたからこそ、姿を消したケイト様のお気持ちがよくわかるの。
私も、ケイト様とカーレン様、どちらとして生きたいかと問われたら間違いなくカーレン様を選びますもの。
ですから、ケイト様がお消えになられたのは必然。気がかりに思われる事情などありませんわ。きっとね。




