表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“魔竿(まさお)“  作者: リキュウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第9話 「ノイズの静寂」

高校に入ってから、マサオ(魔竿)は、中学時代よりも、ほとんど喋らなくなった。


 正確には――喋る必要がなくなった。


(あいつ、近寄るなよ)

(目、合わせるな)

(関わると面倒なタイプだ)


 言葉より先に、相手の“判断”が流れ込んでくる。

 だから会話は始まる前に終わっていた。


 教室の隅。

 窓際でも、後ろでもない、中途半端な席。

 そこが一番ノイズが少なかった。


 教師の声。

 クラスのざわめき。

 誰かの笑い声。


 それらはすべて「表の音」で、その下に必ず、もう一層濁った音が重なっている。


(つまらない授業)

(早く終われ)

(あいつウザい)


 マサオは、もう驚かない。

 怒りもしない。

 ただ、聞こえてしまうだけだ。


***


 放課後、駅前。

 パチンコ屋の前で、見覚えのある連中がたむろしていた。


 中学時代に絡んできた連中。

 誰かの先輩で、誰かの舎弟で、今は何者でもない男たち。


「お、久しぶりじゃん。覚えてる?」


 声は軽い。

 だが、ノイズは違う。


(ビビってんだろ)

(反応したら絡める)

(逃げたら笑える)


 マサオは足を止めなかった。

 目も合わせない。


 その瞬間。


(あ、こいつ……違う)


 空気が変わる。

 相手のノイズが、微かに揺れた。


 ――何もしていないのに。

 ――何も言っていないのに。


 ただ、“見抜いている”という事実だけが、相手をひるませる。


「……チッ」


 舌打ちだけが背中に飛んできて、それで終わった。


***


 夜。

 自室で横になり、天井を見つめる。


 静かなはずの部屋でも、完全な無音はない。

 隣の家の生活音。

 遠くを走る車。

 自分の呼吸。


 そして、その奥にある――ノイズ。


(このままでいいのか)

(どうせ変わらない)

(面倒だ)


 それは、誰の声でもない。

 自分自身の中から滲み出たものだった。


 マサオは目を閉じる。


 幼稚園の縁石。

 兄の蹴り。

 鼻の傷。

 殴り合った夏。

 家庭裁判所の空気。


 すべてが一本の線で繋がっている。


 ――聞こえすぎる世界で、

 ――何も言わずに立ち続けること。


 それが、自分の生き方になっていた。


***


 数日後。

 街の外れのコンビニ前。


 黒いスーツの男たちが、低い声で話しているのを見かけた。


 笑っている。

 だが、ノイズは異様に静かだった。


(計算)

(支配)

(損得)


 感情が削ぎ落とされた、冷たい音。


 ――危険だ。


 直感がそう告げる。

 だが同時に、どこかで興味が湧いた。


(この人たちは、ノイズが少ない)


 それは、救いにも似ていた。


 マサオは、無意識のうちにその場を通り過ぎながら、思う。


 ――この世界には、

 ――ノイズを出さない人間もいる。


 そして、

 ――いつか、自分もそちら側に立つのかもしれない。


 その少し先の未来で、

 翔也という少年と出会うことになるとも知らずに。


――――――

第10話「現在へ」へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ